フィリピンの首都マニラ、リサール公園に位置するフィリピン国立図書館(National Library of the Philippines)は、単なる本の保管場所ではありません。ここは、スペイン植民地時代から現代に至るまでの国家の歩みを記録し、フィリピン人のアイデンティティを形作る貴重な文書や書籍を保護する、文化的な聖域です。
1887年の創設以来、幾多の政権交代や戦争、そして災害を乗り越えてきたこの機関は、現在ではデジタル化への取り組みや視覚障害者向けサービスの提供など、時代のニーズに合わせた進化を続けています。
主要な事実(Key Facts)
- 設立: 1887年8月12日(スペイン統治下の博物館・図書館として)
- 所在地: フィリピン、マニラ市エルミタ、カラウ通り(リサール公園内)
- 蔵書規模: 約168万点(2008年時点)
- 重点収集分野: フィリピンに関する文学・学術作品(フィリピニアナ)
- 法的権限: 法定納本制度(Legal Deposit)に基づき、国内出版物を収集
- 特筆すべき蔵書: ホセ・リサールの原稿、フィリピン独立宣言書など
波乱に満ちた歴史:創設から再建まで
黎明期とアメリカ統治下の発展
図書館のルーツは、1887年にスペイン政府によって設立された「フィリピン博物館・図書館(Museo-Biblioteca de Filipinas)」にあります。その後、アメリカ統治時代に入ると、アメリカ人女性たちが設立した「アメリカ循環図書館(ACL)」が政府に寄贈されたことで、現在の公共図書館システムの基礎が築かれました。
1909年には「フィリピン図書館」へと改称され、近代的な図書館学の父とされるジェームズ・アレクサンダー・ロバートソンが初代館長に就任。法学、科学、循環、そしてフィリピン研究(フィリピニアナ)の4部門に分かれ、専門的な運営が始まりました。
1928年には、現在の国立美術館となっている旧立法ビルに拠点を移し、国家の知的中心地としての地位を確立しました。

第二次世界大戦の悲劇と喪失
1940年代、第二次世界大戦の激化とともに、図書館は深刻な危機に直面します。マニラ市役所の地下金庫に蔵書を避難させましたが、多くのフィリピニアナ資料が避難しきれず、激しい市街戦による火災や略奪によって失われました。
戦前の蔵書約73万冊のうち、生き残ったのはわずか3万6千冊ほどでした。しかし、奇跡的にホセ・リサールの代表作『ノリ・メ・タンヘレ』『エル・フィリブステリスモ』および『我が最後のお別れ』の原稿は、厳重に保管されていたため無傷で回収されました。
戦後の再建と現代への歩み
独立後の1947年、一時的に「公共図書館局」へと名称変更されましたが、1961年にホセ・リサールの生誕100周年を記念して現在の建物に移転し、1964年に再び「国立図書館」の名称を取り戻しました。
1970年代以降は、コンピュータの導入による目録の近代化が進み、1990年代にはインターネットの普及に伴い、オンライン蔵書検索システム(OPAC)「Basilio」やウェブサイトが開設されました。また、大学や政府機関と連携した「フィリピン・イーライブラリー(Philippine eLibrary)」の構築など、デジタルアーカイブ化を推進しています。
建築と施設の特徴
現在の建物は1961年に完成した6階建ての近代建築です。設計はヘキサゴン・アーキテクツが担当し、総床面積は約18,400平方メートルに及びます。内部には3つの閲覧室があり、最大で1,596人が同時に利用可能です。
最上階には400席を誇るエピファニオ・デ・ロス・サントス講堂やカフェが併設されており、研究者だけでなく一般市民にとっても開かれた空間となっています。また、希少本の保存のために、空調設備を備えた特殊な保管庫や写真ラボなども完備されています。

至宝のコレクション:フィリピニアナの価値
国立図書館の最大の誇りは、フィリピニアナ(Filipiniana)と呼ばれるフィリピン関連の資料群です。これには、単なる書籍だけでなく、手書きの原稿、地図、写真、政府刊行物などが含まれます。
特に注目すべきは、国家の運命を決定づけた歴史的文書です。1898年のフィリピン独立宣言書や、マロロス憲法、さらにはリサールの直筆原稿などが厳重に管理されています。これらの資料の中には、過去に盗難に遭いながらも、市民の協力や捜査によって回収されたものもあり、国民にとっての精神的な支柱となっています。

リサールの原稿などの極めて貴重な資料は、閲覧室の奥にある特殊な二重金庫に保管されており、複写版が一般に公開されています。

主要蔵書まとめ
| 資料名 | 概要・重要性 |
|---|---|
| ホセ・リサール原稿 | 『ノリ・メ・タンヘレ』等の直筆原稿。国家の至宝。 |
| フィリピン独立宣言書 | 1898年に作成された独立を宣言する歴史的文書。 |
| マロロス憲法 | フィリピン第一共和国の公式憲法。 |
| ヴェラルデ地図 (1734年) | 当時のフィリピン諸島を最も正確に描いた地図。 |
| フィリピン革命文書 (PRP) | 米国から返還された膨大な革命期の記録。 |
よくある質問(FAQ)
一般の人でも利用できますか?
はい、利用可能です。ただし、国立図書館は資料の保存を優先しているため、蔵書の外部貸出(循環)は行っておらず、館内閲覧のみとなっています。
「フィリピニアナ」とは具体的に何を指しますか?
フィリピンの著者による作品、フィリピンについて書かれた書籍、またはフィリピン国内で出版されたあらゆる学術的・文学的資料のことを指します。
リサールの原稿を直接見ることができますか?
オリジナルの原稿は保存のため特殊な金庫に保管されており、一般には公開されていません。代わりに、精巧なファクシミリ(複写版)が閲覧室に展示されています。
デジタルで資料を閲覧する方法はありますか?
はい。「フィリピン・イーライブラリー」や国立図書館のウェブサイトを通じて、デジタル化された一部のコレクションにアクセスすることが可能です。
視覚障害者向けのサービスはありますか?
はい。1988年に設立された「視覚障害者図書館部門(Library for the Blind Division)」があり、点字本などの提供を行っています。
References
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- Morallos, Chando P. (1998). Treasures of the National Library: A Brief History of the Premier Library of the Philippines. Manila: Quiapo Printing. .
- : num. 237, p. 594. August 25, 1887. Reference: BOE-A-1887-5774
- Act No. 96, 1901. Supreme Court E-Library
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