地球の過去に何が起きたのかを知ることは、私たちの未来を予測するための鍵となります。古気候学(過去の気候を研究する学問)の権威であるモズリー=トンプソン博士は、氷床コアという「地球のタイムカプセル」を解析することで、数万年、時には数十万年前の環境を再現する研究に取り組んでいます。

氷床コアによる気候復元のメカニズム

博士の研究の核心は、極地や低緯度の高山にある氷河、氷冠から採取される氷床コアの分析にあります。雪が降り積もり、長い年月をかけて圧縮されて氷になると、当時の大気組成や化学成分がそのまま閉じ込められます。これにより、過去の気温や降水量、大気の状態を精密に特定することが可能になります。

これらの記録は、単なる温度変化だけでなく、火山噴火による放出物が地球の気候にどのような影響を与えたか、また大気の化学的な構成がどう変遷してきたかという貴重なデータを提供します。特に、急激な気候変動の証拠を明らかにすることで、現代の気候変動が人類文明にどのような影響を及ぼし得るかを考察する重要な根拠となっています。

世界を股にかけたフィールドワークと実績

理論だけでなく、徹底した現場主義を貫く博士は、これまで南極へ9回、グリーンランドへ6回の遠征を率いてきました。直近では、南極半島のブルース高原における氷床コア掘削プロジェクトでフィールドリーダーおよび首席研究者を務めています。

この活動は、米国国立科学財団(NSF)が支援する国際的な多角的プロジェクト「LARISSA(Larsen Ice Shelf System Antarctica)」の一環です。このプロジェクトでは、ラーセンAおよびB棚氷の崩壊という現象を、長期的な気候変動の歴史という文脈の中で解明することを目指しています。

学術界への貢献と社会的な役割

モズリー=トンプソン博士は、137本以上の査読付き論文を発表し、53件を超える研究助成金を受けている、世界的に認められた気候学者・氷河学者です。夫であるロニー・トンプソン博士と共に、氷床コアサンプリングにおける世界最高の専門家として高く評価されています。

また、研究活動にとどまらず、米国地球物理学連合(AGU)の各セクションでの会長職や、米国科学振興協会(AAAS)の地質学・地理学セクションの議長を務めるなど、学術組織のリーダーとしても尽力してきました。同時に、気候変動に対する一般の理解を深め、草の根レベルでの行動を促す啓発活動にも積極的に取り組んでいます。

Key Facts

  • 専門領域:古気候学、急激な気候変動、氷河の後退、ホロセアン(完新世)の気候変動。
  • 研究手法:極地や高山の氷床コアに含まれる物理的・化学的特性を分析し、過去の気温や大気組成を復元。
  • 主要プロジェクト:ラーセン棚氷の崩壊を研究する国際プロジェクト「LARISSA」への参画。
  • 実績:137本以上の論文発表と53件以上の研究助成金獲得。
  • 遠征歴:南極9回、グリーンランド6回の遠征を主導。
モズリー=トンプソン博士の研究概要
項目 詳細
主な分析対象 氷床コア(極地および低緯度高山の氷河)
復元可能な指標 気温、降水量、大気組成、火山放出物の影響
研究の目的 過去の急激な環境変化の解明と、将来の気候予測への寄与
主な役職歴 AGU大気科学・地球環境変化セクション会長、AAAS地質学・地理学セクション議長など

Frequently Asked Questions

氷床コアからどのようにして過去の気温がわかるのですか?

氷の中に閉じ込められた化学成分や物理的な特性を分析することで、その雪が降り積もった当時の気温や大気の状態を推定することができます。

LARISSAプロジェクトとはどのような研究ですか?

南極のラーセンAおよびB棚氷がなぜ崩壊したのかを、気候変動の歴史的な視点から解明しようとする、国際的かつ多角的な研究プロジェクトです。

博士の研究は現代の私たちにどのような意味がありますか?

過去に起きた急激な気候変動の証拠を示すことで、現在の気候変動が将来的にどのような影響を及ぼし、人類文明にどのようなリスクをもたらすかを理解する助けとなります。

モズリー=トンプソン博士はどのような組織で活動していましたか?

米国地球物理学連合(AGU)や米国科学振興協会(AAAS)、また米国国立科学アカデミーの第四紀研究米国委員会や極地研究委員会などの重要な役職を務めてきました。