All 15 MTL
← ホームへ戻る

限定移調モードメシアンが定義した対称的な音階の体系

🗓 2026年8月14日

音楽における限定移調モード(Modes of Limited Transposition)とは、特定の対称性と音程グループの反復という条件を満たす特殊な音階のことです。フランスの作曲家オリヴィエ・メシアンがその著書『私の音楽言語の技法』の中で体系化したこの概念は、従来の調性音楽とは異なる独自の色彩感と空間的な広がりを楽曲に与えます。

通常、メジャースケール(長音階)などの一般的な音階を半音ずつ上げて移調させると、12回繰り返すまで異なる音の組み合わせが現れます。しかし、限定移調モードは構造が対称的であるため、12回移調させる前に元の音の集合に戻ってしまいます。つまり、移調できる回数が「限定」されているため、この名称で呼ばれています。

Key Facts

  • 定義:12音の平均律において、移調しても元の音集合と一致する回数が12回未満である音階。
  • 提唱者:オリヴィエ・メシアンが体系化し、自身の作曲技法として確立した。
  • 特徴:対称的な構造を持つため、特定の中心音(主音)を感じさせない「不可能性の魅力」を持つ。
  • 代表例:全音音階(モード1)やディミニッシュ・スケール(モード2)などが含まれる。

限定移調モードを定義する2つの視点

1. 半音移調による定義

例えば、メシアンの「モード1」である全音音階(C, D, E, F♯, G♯, A♯)を考えます。これを半音上げると別の音集合になりますが、さらに半音上げると(つまり全音上げたとき)、再び元の音集合と同じ構成になります。このように、12回移調する前に元の音に戻る性質が、限定移調モードの根本的な特徴です。

2. モード(旋法)の数による定義

通常の音階は、開始する音(度数)を変えることで、ドリアンなどの異なる旋法を生み出します。しかし、限定移調モードは構造が対称的なため、開始点を変えても得られる旋法の数が極めて少ないのが特徴です。例えば全音音階は、どの音から始めても同じ音程関係になるため、旋法は1種類しか存在しません。

メシアンによる7つの主要モード

メシアンは、12平均律の中で数学的に導き出される主要なモードを7つ定義しました。それぞれのモードは異なる対称性と移調回数を持っています。

メシアンの限定移調モード一覧
モード 別名・特徴 移調回数 旋法の数
モード1 全音音階 2回 1
モード2 オクタトニック(ディミニッシュ) 3回 2
モード3 (増三和音的な構造) 4回 3
モード4 (トリトーン的な構造) 6回 4
モード5 (トリトーン的な構造) 6回 3
モード6 (トリトーン的な構造) 6回 4
モード7 (トリトーン的な構造) 6回 5

これらのモードは、単なる音の羅列ではなく、対称的なグループの繰り返しで構成されています。例えばモード2は「半音+全音」の繰り返しであり、これが音楽的な緊張感と浮遊感を生み出します。

All 15 MTL

モードの拡張と「切り出し(Truncation)」

メシアンは12平均律におけるこのシリーズは完結していると述べましたが、数学的な視点からは、これらのモードから一部の音を取り除く「切り出し(Truncation)」によって、さらに多くの対称的音階を導き出すことができます。これにより、一般化された15のメシアン・モードが存在すると考えられています。

例えば、モード1から1音おきに音を抜き出すと、増三和音のような構造になります。また、ジャズで頻繁に使用される「オーグメンテッド・スケール」は、メシアンのモード3を切り出した形であると解釈できます。このように、多くの対称的音階は、モード3やモード7といったより包括的なモードから派生しています。

音楽的な応用と影響

限定移調モードの最大の特徴は、対称性ゆえにトニック(主音)が消失することです。これにより、聴き手は特定の調性に縛られず、色彩的な音の響きそのものを享受することになります。メシアンはこの感覚を「不可能性の魅力」と呼びました。

この技法はメシアン自身の作品だけでなく、ドビュッシー(全音音階)やストラヴィンスキー(オクタトニック)などの作曲家にも影響を与えました。また、現代においては武満徹がモード3を多用したことや、アレクサンダー・チェレプニンが独自の合成音階として採用したことなどが知られています。

その他の調律系における可能性

限定移調モードは12平均律特有のものではありませんが、19平均律や31平均律のような「素数」による等分調律では存在しません。一方で、15平均律や22平均律のような複合的な分割を持つ調律系では、同様の限定移調モードが現れます。例えば8平均律では、2ステップずつの構成(0, 2, 4, 6)が2回の移調で元に戻る限定移調モードとなります。

Frequently Asked Questions

限定移調モードとは簡単に言うと何ですか?

移調を繰り返したとき、12回経たずに元の音の組み合わせに戻ってしまう、対称的な構造を持った音階のことです。

なぜ「限定」と呼ばれているのですか?

通常の音階は12種類の異なる移調が可能ですが、これらのモードは対称性があるため、実際に異なる音構成を持つ移調の数が12回より少なく「限定」されているからです。

メシアン以外の作曲家もこの音階を使っていますか?

はい。ドビュッシーは全音音階を、ストラヴィンスキーはオクタトニック・スケールを多用しました。また、日本の作曲家である武満徹もメシアンのモードを積極的に取り入れています。

この音階を使うと音楽的にどのような効果がありますか?

特定の中心音(主音)が感じにくくなるため、伝統的な調性から解放された、浮遊感のある幻想的な響きや、色彩豊かな音響空間を演出することができます。

モード3とオーグメンテッド・スケールの関係は?

オーグメンテッド・スケールは、メシアンのモード3から特定の音を抜き出した「切り出し(Truncation)」バージョンであると見なすことができます。

References

  1. Messiaen, O. The Technique of my Musical Language, trans. John Satterfield, p. 58. Alphonse Leduc, Paris, 1956.
    • Burt, Peter (2001). The Music of Toru Takemitsu. Cambridge University Press. p. 34.  .
  2. (Winter 1968). "Alexander Tcherepnin Septuagenarian". . new series (87): 19–20.