私たちが日常的に耳にする「海抜」という言葉の基準となるのが、平均海面(Mean Sea Level: MSL)です。これは、海岸沿いの水域における表面レベルの平均値を指し、地図上の標高や航空機の高度を測定するための標準的な「垂直基準面(垂直データム)」として世界中で利用されています。
単純に言えば、特定の観測地点で長期間にわたって潮位を測定し、その平均を取ったものが基準となります。しかし、地球は完全な球体ではなく、場所によって重力が異なるため、実際には非常に複雑な構造を持っています。

Key Facts
- MSLの役割: 地図作成、船舶航行、航空機の高度校正などの標準基準として使用される。
- 地球の形状: 赤道付近が膨らんだ扁平な回転楕円体であり、重力の異常が「ジオイド」という仮想的な面を形成する。
- 海面上昇の現状: 1970年代以降、年平均2.3mmのペースで上昇しており、直近の10年(2013-2022年)では4.62mm/年まで加速している。
- 上昇の主因: 人為的な気候変動による氷床・氷河の融解(44%)と、海水温上昇による熱膨張(42%)が主要因である。
- 測定の盲点: 多くの研究で利用されるジオイドモデルと実測値には乖離があり、海面上昇の影響を過小評価している可能性が指摘されている。
海面の基準と地球の幾何学的構造
地球の半径は場所によって異なり、赤道では6,378.137km、極地方では6,356.752kmとなっています。この扁平な形状に、地域ごとの重力差(重力異常)が加わることで、ジオイドと呼ばれる等ポテンシャル面が定義されます。開けた海洋において、このジオイドは局所的な平均海面とほぼ一致します。
ただし、ジオイドは均一ではありません。例えばインド洋には大きな窪みがあり、世界平均よりも最大106mも低くなっている地点が存在します。また、2026年の研究では、既存のジオイドモデルに基づいた推定値が実測値より平均25cm低く、海面上昇のリスクを過小評価していたことが明らかになりました。

高度測定の異なるアプローチ
地上や空中での高さを示す際、基準とする面によって呼び方が変わります。AMSL(Above Mean Sea Level)は平均海面からの高さを指し、測量や航空分野で一般的に使われます。一方で、GPSなどのシステムでは地球全体を近似した「参照楕円体(WGS84など)」を基準にします。この楕円体基準の高さと局所的な平均海面の間には、最大100mもの差が生じることがあります。

海面の測定方法と地域的な基準
海面の変動は、陸地に対する相対的な変化として測定されます。そのため、海面自体が上昇しているのか、あるいは観測地点である陸地が沈下(または隆起)しているのかを区別する必要があります。
世界各国では独自の基準を採用しています。イギリスではコーンウォールのニューリンでの測定値を、ロシアではクロンシュタットの潮位計を基準としています。また、フランスのマルセイユにある潮位計は1883年から連続的にデータを収集しており、欧州やアフリカの一部で公式な基準として利用されています。

現代では、1992年のTOPEX/Poseidon開始以来、衛星高度計による精密な測定が行われています。Jason-1やJason-2といった後継機により、地球規模での海面変動がリアルタイムに近い形で把握できるようになりました。
海面変動を引き起こす要因
海面の高さは一定ではなく、短期的・周期的な変動と、長期的な傾向に分けられます。
短期的・周期的な変動
数分から数ヶ月のサイクルで発生する変動には、天体による潮汐(日周潮や半日周潮)のほか、気圧の変化や嵐による高潮、エルニーニョ現象などの気象要因が含まれます。また、地震による津波や地盤の急激な変動も、局所的な海面レベルを大きく変化させます。

長期的な変動と気候変動の影響
約2万年前の最終氷期最盛期以降、地球の海面は概ね上昇傾向にあります。特に産業革命以降の人間活動による温暖化が、この速度を加速させています。氷河の融解と海水の熱膨張という2つのメカニズムが、現在の海面上昇を牽引しています。


海面の上昇は気温上昇に対して数十年というタイムラグを持って反応するため、たとえ今すぐに排出量を削減しても、既に発生した温暖化の影響で2050年頃までは上昇が加速し続けると予測されています。
航空分野における海面の利用
航空機にとって、平均海面は安全運航に不可欠な基準です。パイロットは高度計に地域の標準気圧(QNH)を設定することで、海面からの高度を推定します。これにより、航空チャートに記載された地形の標高(MSL基準)と照らし合わせ、地上からの高さを算出できます。また、一定の高度(移行高度)を超えると、世界共通の標準大気圧(1013.25 hPa)に設定し、「フライトレベル」として運用します。
海面変動のまとめ
| 変動タイプ | 主な要因 | 時間スケール | 影響の規模 |
|---|---|---|---|
| 周期的変動 | 天体潮汐、季節的要因 | 数時間 〜 1年 | 数cm 〜 数m |
| 気象的変動 | 気圧変化、高潮、エルニーニョ | 数時間 〜 数ヶ月 | 最大数m |
| 突発的変動 | 地震、津波 | 数分 〜 数時間 | 数cm 〜 10m以上 |
| 長期的変動 | 氷河融解、海水熱膨張 | 数十年 〜 数千年 | 数cm 〜 数十m |
Frequently Asked Questions
平均海面(MSL)とは具体的に何を指しますか?
特定の地点で長期間にわたって観測された潮位の平均値のことです。これが地図上の標高や航空機の高度を測るための「ゼロ地点」として利用されます。
なぜ場所によって海面の高さが異なるのですか?
地球の形状が完全な球ではなく、また場所によって重力の強さが異なるためです。この重力の差によって「ジオイド」という凹凸のある面ができ、それが実際の海面の形状に影響を与えています。
海面上昇の主な原因は何ですか?
主に2つの要因があります。一つは温暖化で氷河や氷床が溶けて海に流れ込むこと、もう一つは海水自体の温度が上がり、体積が膨張すること(熱膨張)です。
海面上昇は今後どのように予測されていますか?
温室効果ガスの排出量に依存します。大幅に削減できた場合は2100年までに30cm〜1.0mの上昇に留まる可能性がありますが、高排出が続いた場合は1.9mに達する可能性もあります。また、非常に長期的な視点では、現在の温暖化レベルでも今後2000年で2〜3m上昇すると予測されています。
航空機はどのようにして海面からの高さを知るのですか?
高度計に、管制塔などから提供される地域の海面気圧(QNH)を設定することで、大気圧から海面上の高度を逆算して推定しています。
References
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