アメリカ合衆国アリゾナ州フラッグスタッフに位置するローウェル天文台は、1894年の設立以来、世界の天文学に多大な貢献をしてきた歴史的な研究機関です。標高2,210メートルのマーズヒルに本拠を置くこの天文台は、単なる観測施設にとどまらず、1965年には米国国立歴史登録財(NHL)に指定され、Time誌によって「世界で最も重要な100の場所」の一つに数えられるなど、文化的な価値も高く評価されています。
主要な事実(Key Facts)
- 歴史的快挙:1930年にクライド・トンボーによって準惑星である冥王星が発見された場所。
- 象徴的な設備:1896年製の24インチ・クラーク屈折望遠鏡を現在も一般公開で使用。
- 研究分野:系外惑星や小惑星の研究、宇宙論の基礎となる観測に積極的に取り組んでいる。
- 一般公開:年間15万人以上の訪問者を迎える教育・観光の拠点でもある。
天文台の歩みと先駆的な研究
設立の背景と火星への情熱
天文台の創設者であるパーシバル・ローウェルは、イタリアの天文学者スキアパレッリが主張した「火星の運河」に強い関心を抱いていました。投資銀行家としての資産を投じ、暗い夜空と高い標高、そして鉄道へのアクセスが良いフラッグスタッフを拠点に選び、1894年に天文台を建設しました。彼は火星に人工的な運河が存在し、知的生命体が住んでいると信じていましたが、後の研究でこれらは視覚的な錯覚であったことが判明しています。
宇宙論の基礎を築いたヴェスト・スライファー
ローウェルの死後、天文台の発展を牽引したのはヴェスト・メルヴィン・スライファーでした。彼は銀河の後退速度や回転を観測し、現代の観測宇宙論の基礎を築きました。彼のデータは、エディントンによる一般相対性理論の展開や、ハッブルによる宇宙膨張の証明に不可欠な資料となりました。また、反射星雲の性質の解明や、超新星残骸のスペクトル観測など、多岐にわたる業績を残しています。
「惑星X」の探索と冥王星の発見
天王星の軌道の乱れから、海王星のさらに外側に未知の惑星(惑星X)が存在するという仮説が立てられていました。パーシバル・ローウェルはこの探索に心血を注ぎ、その意志は後継者たちに引き継がれました。1928年に寄贈された資金で建設された「冥王星発見アストログラフ」を用い、クライド・トンボーが1930年2月18日についに冥王星を発見しました。

多様な観測プロジェクトと科学的貢献
月面マッピングとアポロ計画
1960年代、アメリカ空軍の航空図情報センター(ACIC)は、アポロ計画に向けた月面地図の作成をローウェル天文台に委託しました。このプロジェクトのために20インチの屈折望遠鏡(アポロ望遠鏡)が導入され、多くの科学者や芸術家が協力して月面の地質学的理解を深め、人類の月面着陸を技術的に支援しました。

近地球天体(NEO)の監視
1993年から2008年にかけて実施されたLONEOS(Lowell Observatory Near Earth Object Search)プロジェクトでは、520万個以上の小惑星を観測し、2万個以上の小惑星を発見しました。これにより、地球に接近する天体の監視体制が大幅に強化されました。
現代の設備と研究拠点
現在は、マーズヒルの本拠地のほか、アンダーソン・メサやハッピー・ジャックなどのダークスカイ・サイトで運用を行っています。特に、標高2,400メートルに位置するローウェル発見望遠鏡(LDT)は、最新の設備を備えた研究の要となっています。

一般公開と教育プログラム
ローウェル天文台は、科学の普及にも力を入れています。2019年にオープンしたジョヴァレ・オープンデッキ天文台(GODO)や2024年の天文学ディスカバリーセンターなどを通じ、一般の人々が天体観測を体験できる環境を整えています。また、最新の17インチPlaneWaveアストログラフなどを用いた天体写真クラスも人気を集めています。

歴史的なクラーク望遠鏡の制御機構などの展示は、天文学の進化を視覚的に伝えています。

設備・研究概要まとめ
| 設備名 | 種類/サイズ | 主な用途・歴史的意義 |
|---|---|---|
| クラーク望遠鏡 | 24インチ屈折 | 1896年設置。現在は一般公開・教育用。 |
| 冥王星発見アストログラフ | 13インチ | 1930年の冥王星発見に使用。 |
| ローウェル発見望遠鏡 (LDT) | 4.28m 反射 | 現代の最先端研究に使用。 |
| パーキンス望遠鏡 | 180cm カセグレン | アンダーソン・メサでの研究用。 |
| アポロ望遠鏡 | 20インチ屈折 | アポロ計画時の月面マッピングに使用。 |
よくある質問(FAQ)
冥王星はどのようにして発見されましたか?
クライド・トンボーが、13インチのアストログラフで撮影した2枚の写真プレートをツァイス製ブリンク比較機で照合し、位置が変化している天体を見つけ出したことで発見されました。
パーシバル・ローウェルが主張した「火星の運河」は実在しましたか?
いいえ。当時は人工的な運河であると信じられていましたが、実際には地形的な特徴や視覚的な錯覚によるものであり、現在は否定されています。
一般の人が望遠鏡で観測することはできますか?
はい。マーズヒルのクラーク望遠鏡や、ジョヴァレ・オープンデッキ天文台(GODO)などの施設を通じて、一般訪問者も天体観測を楽しむことができます。
ローウェル天文台の現在の主な研究テーマは何ですか?
系外惑星の探索、小惑星や準惑星などの太陽系外縁天体の研究、および高精度干渉法を用いた恒星物理学などの研究に取り組んでいます。
アポロ計画にどのように貢献しましたか?
20インチの屈折望遠鏡を用いて詳細な月面地図を作成し、月面の地質学的特徴を明らかにすることで、安全な着陸地点の選定などを支援しました。
References
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