ル・グロリユス:激動の時代を生き抜いたフランス海軍の潜水艦

第二次世界大戦という人類史上最大の紛争の中で、主君や所属を変えながらも生き残り続けた潜水艦があります。フランス海軍のル・グロリユス(Le Glorieux)は、その名の通り「栄光」を冠しながら、同型艦の多くが失われる中で最後まで戦い抜いた数少ない生存艦の一つです。本記事では、この潜水艦の技術的特徴から、複雑な政治状況に翻弄された波乱の運用史までを詳しく解説します。

主要スペックと技術的特徴

ル・グロリユスは、1930年代にフランスで建造された「ルドゥタブル級」潜水艦のM6シリーズに属します。このクラスは、その排水量から「1,500トン型」とも呼ばれ、遠洋パトロールを主目的とした深海潜水艦として設計されました。

特筆すべきは、同型艦31隻の中でもル・グロリユス、カザビアンカ、スファックスの3隻のみが無線方向探知機を搭載していた点です。これにより、当時の潜水艦としては高度な航法能力を備えていました。

ル・グロリユスの基本諸元
項目 詳細仕様
全長 / 全幅 92.3m / 8.1m
排水量 水上:1,572トン / 水中:2,092トン
最大速度 水上:17.5ノット / 水中:10ノット
航続距離(水上 10kt時) 10,000海里(約19,000km)
潜航深度(試験値) 80m(後に120mまで向上)
武装 魚雷発射管11門、100mm砲1門、13.2mm機銃1門
乗員 士官5〜6名、水兵66名

Key Facts

  • 生存率の低さ:ルドゥタブル級31隻のうち、戦後まで生き残ったのはわずか5隻のみであった。
  • 複雑な所属変遷:連合国側 → ヴィシー政権側 → 自由フランス海軍側と、戦況に応じて所属が変遷した。
  • 広範な活動域:大西洋、地中海、アフリカ沿岸、さらにはインド洋まで、地球規模で運用された。
  • 米軍による近代化:戦時中にアメリカのフィラデルフィア海軍造船所でオーバーホールと近代化改修を受けた。

波乱に満ちた運用史

第二次世界大戦初期とヴィシー政権時代

1934年に就役したル・グロリユスは、大戦勃発直後から連合国側として活動し、マデイラ諸島沿岸などでドイツ商船の監視任務に当たりました。しかし、1940年のフランス降伏に伴い、親独のヴィシー政権に組み込まれます。

ヴィシー政権下では、かつての同盟国であったイギリスとの緊張関係から、ダカール沖での交戦や、南アフリカ沿岸でのイギリス商船攻撃などの任務に従事しました。また、マダガスカルへの長期派遣を経て、ジブチやアデン湾でのパトロールも行いました。

自由フランス海軍への合流と米軍での改修

1942年11月、連合軍による北アフリカ侵攻(トーチ作戦)を機に、ル・グロリユスは再び連合国側である自由フランス海軍に合流します。トゥーロン軍港でのドイツ軍による接収を間一髪で逃れ、スペインを経由して北アフリカへ脱出したエピソードは、同艦の運の強さを物語っています。

その後、1943年にはアメリカ合衆国のバーミューダで対潜訓練の標的艦として協力し、フィラデルフィアで大規模な近代化改修を受けました。当時のアメリカの技術者は、設計図の不足や部品の非標準化に苦労しましたが、基本設計の現代性を高く評価していました。

Profile of Casabianca, sister ship of Le Glorieux.

戦後の歩みと引退

終戦後、ル・グロリユスはシェブールでさらなる改修を受け、潜航深度を120メートルまで向上させました。また、ドイツの最新鋭潜水艦であった21型(U-2518)と共にアフリカ海域を航行し、その性能を評価する任務にも就きました。

晩年には、自艦の姉妹艦であるカザビアンカを主役とした映画『Casabianca』(邦題:海賊潜水艦)に、カザビアンカ役として出演するという珍しい経歴も持っています。1952年10月27日、ルドゥタブル級の最後の一隻として、静かにその役目を終えました。

Frequently Asked Questions

ル・グロリユスはなぜ「1,500トン型」と呼ばれていたのですか?

これは、同艦が属するルドゥタブル級潜水艦の水上排水量が約1,500トンであったことに由来する通称です。

戦時中にどのような武装を備えていましたか?

合計11門の魚雷発射管に加え、水上攻撃用の100mm砲1門と、対空・防御用の13.2mm機銃1門を搭載していました。

アメリカでの改修時にどのような問題がありましたか?

詳細な設計図が不足していたことや、同型艦の間でディーゼルエンジンのメーカー(シュナイダー製とスルザー製)が混在しているなど、標準化が進んでいなかったことが作業の妨げとなりました。

戦後、潜航能力はどのように向上しましたか?

アメリカでの改修と、戦後のシェブールでの再改修により、当初の設計値である80メートルから120メートルまで潜航深度が拡大されました。

この潜水艦が受けた勲章は何ですか?

1946年11月29日に、フランスの抵抗運動への貢献を称える「レジスタンス勲章(Resistance Medal)」を授与されています。