地球の気候システムを理解する上で、大気中に漂う微小粒子「エアロゾル」の役割は極めて重要です。アメリカの大気化学者であるキンバリー・プラザー(Kimberly A. Prather)教授は、革新的な分析技術の開発を通じて、人間活動が大気や気候にどのような影響を与えるかを解明し続けてきました。現在はカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)およびスクリプス海洋研究所の教授として、世界的な研究をリードしています。
Key Facts
- 専門分野: 大気化学、特にエアロゾルの組成分析と気候への影響。
- 主要業績: エアロゾル飛行時間型質量分析計(ATOFMS)の開発と普及。
- 主要役職: NSFエアロゾル気候環境センター(CAICE)の創設ディレクター。
- 栄誉: 米国国立科学アカデミーおよび米国国立工学アカデミーの会員。
- 最新設備: 海洋・大気シミュレーター(SOARS)による統合的な環境研究を推進。
革新的な分析手法:ATOFMSの開発
プラザー教授の最大の功績の一つは、エアロゾル飛行時間型質量分析計(ATOFMS)という高度な分析手法を確立したことです。これは、個々の粒子のサイズと化学組成を極めて高い時間分解能で測定できる技術です。彼女はもともとこの装置を小型化し、現場へ持ち運べるように改良して特許を取得しました。
この技術を用いることで、カリフォルニア州や米国北東部における微小粒子状物質の主要な発生源を特定することが可能になりました。特に、ガソリン車やディーゼル車から排出される超微小粒子の分析において、道路沿いの粒子のうち51%が大型車、32%が小型車に起因することを明らかにしました。

大気から海洋まで:研究領域の拡大
プラザー教授の研究は、単なる汚染源の特定に留まりません。彼女は、大気中の粒子が雲の形成や降水にどのように関与しているかという、より広範な気候メカニズムの解明に注力しています。
雲と降水への影響
航空機に搭載したATOFMS(通称「Shirley」)を用いた研究では、高高度の氷晶を直接観測し、その核となる粒子が主に砂漠の塵や細菌・胞子などの生物学的粒子であることを突き止めました。また、サハラ砂漠やアジアから運ばれてきた塵やバイオエアロゾルが、米国西海岸の降水量を増加させる要因となっていることを証明しました。
海洋エアロゾルのメカニズム
近年では、海洋から大気へ放出される粒子の研究に力を入れています。波の物理的な力と海洋生物の影響により、海塩主体の「ジェット滴」と、微生物や有機物が豊富な「フィルム滴」という2種類の液滴が存在することを世界で初めて特定しました。

2022年に運用を開始した「スクリプス海洋大気研究シミュレーター(SOARS)」では、風、温度、日光、汚染物質が海洋と大気の相互作用にどう影響するかを実験室レベルで再現し、二酸化炭素が地球温度に与える影響を詳細に分析しています。
学術的背景と栄誉
カリフォルニア大学デービス校で博士号を取得したプラザー教授は、ノーベル賞受賞者のユアン・T・リー教授のもとでポストドクターとして研鑽を積みました。その後、UCリバーサイドを経て現在のUCSDへ赴任しました。その卓越した業績は、2024年の米国国立科学アカデミー化学賞をはじめ、数多くの権威ある賞によって認められています。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 最終学歴 | カリフォルニア大学デービス校 博士(PhD) |
| 主要開発技術 | ATOFMS(エアロゾル飛行時間型質量分析計) |
| 設立組織 | NSF Center for Aerosol Impacts on Climate and the Environment (CAICE) |
| 主要会員 | 米国国立科学アカデミー、米国国立工学アカデミー、米国哲学協会など |
| 研究焦点 | エアロゾルの化学組成、大気質、気候変動、海洋・大気相互作用 |
Frequently Asked Questions
ATOFMSとはどのような技術ですか?
エアロゾル飛行時間型質量分析計の略称で、大気中の個々の微小粒子のサイズと化学的な成分を、非常に短い時間間隔で精密に測定できる装置です。これにより、汚染物質がどこから来たのかを特定することが可能になります。
プラザー教授の研究は気候変動にどう貢献していますか?
砂漠の塵や海洋微生物などの粒子がどのように雲を作り、雨を降らせるかというメカニズムを解明することで、より正確な気候モデルの構築に寄与しています。また、二酸化炭素が海洋・大気系に与える影響をシミュレートし、地球温暖化の理解を深めています。
「フィルム滴」と「ジェット滴」の違いは何ですか?
海洋の波から発生する液滴の2つのタイプです。フィルム滴は波の表面の薄い膜から生じ、微生物や有機物を多く含みます。一方、ジェット滴は波が砕ける際に飛び散る液滴で、主に海塩で構成されています。
CAICEとはどのような組織ですか?
国立科学財団(NSF)の支援を受けた「エアロゾル気候環境センター」のことで、プラザー教授が創設ディレクターを務めています。エアロゾル化学の新しい分析手法の開発や、環境への影響に関する学際的な研究を行っています。
References
- "Bio". Research Profiles. Archived from the original on 2020-06-16. Retrieved 2019-01-01.
- "Research Profiles". Research Profiles. Retrieved 2019-01-01.
- ; Collins, Douglas B.; Grassian, Vicki H.; Prather, Kimberly A.; Bates, Timothy S. (2015-04-06). "Chemistry and Related Properties of Freshly Emitted Sea Spray Aerosol". Chemical Reviews. 115 (10): 4383–4399. :10.1021/cr500713g. 0009-2665. 25844487.
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- "Kimberly A. Prather". CAICE. Archived from the original on 2019-01-02. Retrieved 2019-01-01.
- Compact aerosol time-of-flight mass spectrometer, retrieved 2019-01-01
- Method and apparatus for determining the size and chemical composition of aerosol particles, retrieved 2019-01-01
- Portable analyzer for determining size and chemical composition of an aerosol, retrieved 2019-01-01
- "Prather, Kimberly". American Chemical Society. Retrieved 2019-01-01.
- "Research Consortium on Ozone and Fine Particle Formation in California and in the Northeastern United States | Research Project Database | Grantee Research Project | ORD | US EPA". cfpub.epa.gov. Archived from the original on November 8, 2004. Retrieved 2019-01-01.
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