現代の職場における女性の権利や地位の向上には、先駆的な活動家の尽力がありました。その中心人物の一人がカレン・ナズバウムです。彼女は、これまで労働運動の枠組みから見過ごされてきた女性事務職の人々に光を当て、組織化することで、社会的な認識と法的な保護を勝ち取るために人生を捧げました。
女性事務職の連帯を築いた「9to5」運動
1972年、ナズバウムはエレン・カセディと共に「9to5: 女性事務職組織(Organization for Women Office Workers)」を設立しました。この組織は、当時の女性事務員が直面していたセクシュアルハラスメントなどの深刻な問題に対処することを目的としていました。
この動きは、単なる権利主張に留まらず、フェミニストと労働組合主義者が結びつく重要な転換点となりました。これにより、労働運動側は女性労働者という強力な支持基盤を得て、フェミニスト側は社会的に認められた強力な組合としての地位を確立したのです。1975年には、この流れを受けて女性事務職のための労働組合が結成されました。
その後、組織は拡大を続け、1977年にはボストンの9to5がヘレン・ウィリアムズらによるクリーブランド・ウィメン・ワーキングと合併し、「ワーキング・ウィメン・オーガナイジング・プロジェクト(後の9to5: 全米女性事務職協会)」となりました。ナズバウムはこの全国組織のリーダーを務め、1981年からはサービス従業員国際労働組合(SEIU)のディストリクト925と提携し、1993年までディレクターとして指揮を執りました。
政府機関での活動と職場安全への取り組み
1993年から1996年にかけて、ナズバウムはクリントン政権下で米国労働省の女性局(Women's Bureau)の局長に就任しました。彼女はこの職務を通じて、女性特有の健康被害が職場で軽視され、報告されない傾向にあることに気づきました。
特に生殖機能への影響などの職場ハザード(危険要因)が特定されていながら、女性労働者を保護する規制が不十分である現状を危惧し、職業安全衛生局(OSHA)と連携してジェンダー視点に基づいた職場安全の推進に尽力しました。
また、「Working Women Count!」という大規模な調査を実施し、米国の働く女性たちが政府に何を求めているのかを可視化しました。彼女は、家族医療休暇法(FMLA)や公民権法、妊娠差別禁止法といった法的権利について、女性たちが正しく理解し、活用できる社会を目指しました。
賃金格差の分析と労働組合での後年
1996年以降、ナズバウムは米国最大の労働組合連合であるAFL-CIOに参画し、新設された女性労働局の責任者に就任しました。彼女のチームが行った研究では、男女間の賃金格差の約半分が差別によるものであることが明らかになりました。
一方で、格差が縮小している要因について、彼女は「男性が就いていた高賃金の製造業の仕事が海外へ流出したこと」が大きく影響していると分析しています。彼女はその後も「ワーキング・アメリカ財団」のメンバーとして、非政府組織における労働者の支援に携わり、政治、文化、労働の交差点で活動を続けました。
Key Facts
- 9to5の共同設立: 1972年に女性事務職の権利を守る組織を立ち上げ、セクハラ問題などに取り組んだ。
- 政府での指導的役割: 米国労働省女性局の局長として、女性特有の職場安全と法的権利の啓発を推進した。
- 賃金格差の解明: AFL-CIOでの活動を通じ、男女の賃金差における差別の影響を数値化した。
- 栄誉: 1984年にオハイオ州女性殿堂(Ohio Women's Hall of Fame)に就任。
| 期間 / 年代 | 組織・役職 | 主な成果・活動 |
|---|---|---|
| 1972年〜 | 9to5 共同設立者 | 女性事務職の組織化、労働組合の結成支援 |
| 1981年〜1993年 | 9to5 ディレクター | SEIU(サービス従業員国際労働組合)との提携推進 |
| 1993年〜1996年 | 米国労働省 女性局長 | 職場安全のジェンダー視点導入、女性労働者調査の実施 |
| 1996年〜 | AFL-CIO 女性労働局長 | 男女賃金格差の原因分析と研究 |
Frequently Asked Questions
「9to5」という組織は何を目指して設立されましたか?
女性事務職が直面していたセクシュアルハラスメントなどの不当な待遇を改善し、彼女たちが労働運動の中で正当な権利を得られるよう組織化することを目指して設立されました。
米国労働省女性局長時代に特に重視したことは何ですか?
職場における女性特有の健康リスクや安全性の確保です。特に生殖機能への影響など、見過ごされがちなハザードへの対策をOSHA(職業安全衛生局)と共に進めることを重視しました。
男女の賃金格差について、ナズバウムはどのような見解を示しましたか?
賃金格差の約半分は差別によるものであると指摘する一方で、格差が縮まった要因の一つとして、男性中心の高賃金製造業の仕事が海外へ移転したことを挙げています。
彼女が執筆や共著に携わった主な著作はありますか?
エレン・カセディとの共著である『9to5: The Working Women’s Guide to Office Survival』(1983年)や、ジョン・スウィーニーとの共著『Solutions for the New Workforce』(1989年)などがあります。