私たちが今日、当たり前のように手にしている「ページをめくる本」の形式は、歴史的にコーデックス(Codex)と呼ばれています。これは、紙や羊皮紙などのシートを重ねて端を綴じた形式のことで、現代の書籍の直接的な先祖にあたります。一般的に、現代の書籍も技術的にはこの形式に従っていますが、学術的な文脈では、主に紙が普及する前のパピルスや羊皮紙を用いた古い手書きの写本を指して使われます。
Key Facts
- 定義: ページを重ねて一端を綴じた書式。現代の本の原型。
- 転換点: 古代の主流だった「巻物(スクロール)」から、利便性の高いコーデックスへと移行した。
- 利点: 両面利用が可能でコンパクトであり、特定のページをすぐに開ける「ランダムアクセス」が実現した。
- 普及の要因: 初期キリスト教が聖書や典礼書にこの形式を採用したことが、普及を加速させた。
- 多様な形態: 欧州以外でも、マヤやアステカの屏風折形式や、中国・日本の折本など、独自の進化を遂げた。
巻物からページへ:書式の革命
古代世界において、長い文書を記録するための主流は、パピルスや羊皮紙を長く繋げた「巻物」でした。しかし、ローマ帝国時代になると、次第にページ形式のコーデックスへと移行していきます。この変化は、印刷機の発明以前における書籍製作の最も重要な進歩の一つとされています。

コーデックスの原型は、古代ローマ人がメモ書きに使用していた蝋盤(ろうばん)にあると考えられています。木製の板に蝋を塗り、そこに文字を刻むこの道具が、後にシートを綴じる形式へと発展しました。

巻物と比較して、コーデックスには圧倒的な実用的メリットがありました。まず、紙の両面(表面をrecto、裏面をversoと呼びます)を使用できるため、材料を効率的に使え、厚みも抑えられました。また、巻物のように端から順に展開する必要がなく、目的の箇所を瞬時に開けることができるため、参照作業が劇的に効率化したのです。
世界各地での展開と多様な形式
西洋では、1世紀頃に詩人マルティアリスがその利便性を称賛し、300年頃には巻物と同等の普及率となり、6世紀までにはギリシャ・ローマ世界で完全に巻物に取って代わりました。特に初期キリスト教徒が、聖書や教父の著作をまとめるのにこの形式を好んで採用したことが、その定着に大きく寄与しています。

一方で、非西洋圏でも独自の「本」の形式が発展しました。中米のマヤやアステカでは、長い紙や動物の皮をアコーディオンのように折り畳む「屏風折」形式の写本が作られました。同様の形式は、9世紀までの唐代中国でも見られ、その後、仏教の伝播とともに日本へ伝わり「折本(おりほん)」として定着しました。

東アジアでは、西洋よりも長く巻物が標準的な形式として残りました。中国では、唐代の折本から始まり、宋代の「蝶装」、元代の「包背装」、そして明・清代の「線装」へと、製本技術が段階的に進化し、20世紀になってようやく西洋式の製本が導入されました。
コーデックスの物理的構造と製作工程
写本の研究はコーデックス学(Codicology)と呼ばれ、その物理的な特徴から製作年代や場所を特定します。また、古代の文書全般を研究する学問は古文書学(Paleography)と呼ばれます。
素材と準備
素材には、エジプト産のパピルス、動物の皮から作られる羊皮紙(パーチメント)やヴェラム、そして後の時代には紙が使われました。特に羊皮紙は高価であったため、権力者や富裕層が金銀のインクや高価な紫色の染料を用いて豪華な装飾を施しました。また、古い文字を削り取って再利用した「パリンプセスト(再利用写本)」も多く存在し、消された古いテキストが後の研究で重要な発見をもたらすことがあります。

製本プロセス
製作の際は、まず「プリッキング」という工程で羊皮紙に穴を開け、それをガイドにして罫線を引きました。これにより、文字が真っ直ぐに書き込まれるようになります。

次に、数枚のシートを重ねて折った「クワイア(帖)」という単位を作り、それらを紐で綴じ合わせます。一般的には4枚の二つ折りシート(ビフォリオ)を重ねて16ページ分とする形式が多く見られました。完成したテキストブロックに表紙(ケース)を取り付けることで、現代のハードカバーに近い構造が完成します。

中世の書籍製作では、専門の業者(リブレール)が登場し、筆耕、挿絵師、製本師に仕事を分担させるシステムが構築されました。また、ページ順を間違えないよう、ページの末尾に次のページの最初の単語を記す「キャッチワード」という工夫も凝らされていました。

コーデックスの概要まとめ
| 比較項目 | 巻物 (Scroll) | コーデックス (Codex) |
|---|---|---|
| アクセス方法 | シーケンシャル(順次アクセス) | ランダム(任意ページへのアクセス) |
| 素材利用率 | 主に片面のみ使用 | 両面(Recto/Verso)を使用可能 |
| 携帯性・耐久性 | かさばりやすく、端が傷みやすい | コンパクトで、表紙による保護が可能 |
| 主な普及時期 | 古代世界で主流 | 4世紀以降に主流化(西洋) |
| 代表的な素材 | パピルス、羊皮紙 | 羊皮紙、ヴェラム、紙 |
Frequently Asked Questions
コーデックスと現代の本は何が違うのですか?
技術的な構造(ページを重ねて端を綴じる形式)は同じです。ただし、用語としての「コーデックス」は、主に印刷技術が普及する前の中世までの手書き写本を指して使い分けられます。
なぜキリスト教の普及がコーデックスに影響したのですか?
初期のキリスト教徒は、聖書や典礼書などの重要なテキストを効率的に管理し、特定の箇所をすぐに参照できるコーデックス形式を好んで採用したため、その普及を後押ししました。
「パリンプセスト」とは何ですか?
高価な羊皮紙を再利用するため、もともと書かれていた文字を削り取り、その上に新しい文章を書き込んだ写本のことです。現代の技術では、消された古い文字を復元できる場合があります。
アステカやマヤのコーデックスは、西洋のものと同じ形式ですか?
見た目は似ていますが、構造が異なります。西洋のものはシートを重ねて綴じますが、中米のものは長い一枚のシートをアコーディオンのように折り畳む「屏風折」形式で作られていました。
コーデックス学(Codicology)では何を研究するのですか?
文字の内容だけでなく、使用された素材、罫線の引き方、綴じ方、表紙の材質など、本という「物理的な物体」としての特徴を分析し、その成立背景や年代を研究します。
References
- "codex". The Chambers Dictionary (9th ed.). Chambers. 2003. .
- , 2nd ed.: Codex: "a manuscript volume"
- "CBAA the Association for Book Art Education - A HISTORY OF THE ACCORDION BOOK: PART II // Peter Thomas". www.collegebookart.org. Retrieved 2023-10-26.
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- "Codex" in the , Oxford University Press, New York & Oxford, 1991, p. 473. .
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- Roberts, Colin H., and Skeat, T. C. (1987), The Birth of the Codex. London: for the , p. 75.
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