一つの楽曲が時代や国境を越え、異なる解釈で歌い継がれることは、音楽の持つ普遍的な力を証明しています。特に社会的なメッセージを持つ楽曲は、アーティストの手によって政治的な抗議の手段となったり、あるいは全く異なる文化的価値観へと塗り替えられたりすることがあります。本記事では、多様なジャンルのアーティストによってカバーされた「Hammer Song」の変遷を辿ります。
Key Facts
- 多様なジャンル:カントリー、ロック、ソウル、フォークなど、幅広いスタイルでカバーされた。
- 国際的な展開:アメリカだけでなく、チリ(スペイン語)やフランス語圏でもリリースされた。
- 解釈の変容:元のプロテスト(抗議)的な意味合いを保持したものから、保守的な家族観へ書き換えられたものまで存在する。
- 著名なアーティスト:ジョニー・キャッシュやブルース・スプリングスティーンなど、音楽史に名を刻む巨匠たちが取り上げた。
初期のカバーと多様なアプローチ
1960年代に入ると、この楽曲は様々なアーティストによって録音され始めました。1960年にはThe Limelitersが「The Hammer Song」としてアルバムに収録し、1963年にはMartha and the Vandellasがアルバム『Heat Wave』で披露しています。また、同じ1963年には、エルヴィス・コストロの父であるロス・マクマナスがジョー・ロス・オーケストラと共にロイヤル・バラエティ・ショーで歌唱しました。
さらに、ソウルの名手サム・クックは1964年のライブアルバム『Sam Cooke at the Copa』にそのパフォーマンスを記録しています。このように、初期のカバーは当時のポピュラー音楽の潮流に沿って、多様なスタイルで展開されました。
政治的メッセージと文化的再解釈
この曲は、単なる音楽的なカバーに留まらず、政治的な象徴として利用された側面があります。チリの歌手ヴィクトル・ハラは1969年のアルバム『Pongo en tus manos abiertas』にて、スペイン語版の「El martillo」を収録しました。彼はこの曲を通じて、アメリカの公民権運動とチリ国内の社会問題を結びつけ、左翼的な政治思想を推進しました。ハラは後に、政治風刺曲である「Little Boxes」もカバーしています。
一方で、意味合いが大きく変えられた例もあります。フランスのクロード・フランソワが1963年にリリースしたシングル版(Vline Buggyによる訳詞)では、原曲にあった抗議の精神は排除されました。代わりに、家族や労働の価値を重視する保守的なフランスの伝統が強調され、歌詞の中の「鐘」は教会の鐘を想起させるものとなりました。このバージョンはフランスのカントリーチャートで1位、ベルギー(ワロン地方)で2位を記録する大ヒットとなりました。
カントリーとロックへの昇華
1960年代後半から70年代にかけて、カントリーミュージックの枠組みで注目を集めます。ワンダ・ジャクソンは1969年にシングルとしてリリースし、アルバム『The Many Moods of Wanda Jackson』に収録。同年4月には全米カントリーチャート41位にランクインしました。
そして1972年、ジョニー・キャッシュが妻のジューン・カーター・キャッシュを迎えてハーモニーを奏でたバージョンをリリースします。カール・パーキンス(リード・ソロ)とボブ・ウートン(リズム)という2人のエレキギタリストを配したこのアレンジは、よりロックに近い力強いサウンドとなり、8月の全米カントリーチャートで29位を記録しました。この楽曲は1973年のアルバム『Any Old Wind That Blows』にも収録されています。
異色のカバーと後年の展開
意外なアーティストによるカバーも存在します。俳優のレナード・ニモイは1968年にこの曲をカバーしました。後に1993年の『Highly Illogical』や1997年の『Spaced Out』といったコンピレーションアルバムに再録されましたが、批評家からは非常に低い評価を受けました。また、パフォーマンスアーティストのボブ・フラナガンが、ニモイのバージョンを流しながら自身の身体に釘を打ち込むという過激なパフォーマンスを行ったことも知られています。
現代に近い事例では、ブルース・スプリングスティーンが2004年に豪華なメンバーと共にリハーサルなしで録音しています。当初、2006年のアルバム『We Shall Overcome: The Seeger Sessions』からは、「この曲があまりに有名すぎて、アルバム内の他のあまり知られていない曲が霞んでしまう」という懸念から除外されていました。しかし、2018年にリリースされたコンピレーションアルバム『Appleseed's 21st Anniversary – Roots And Branches』にて、ようやく日の目を見ることとなりました。
カバーバージョンの概要まとめ
| アーティスト | リリース年 | 特徴・傾向 | 主な成果/備考 |
|---|---|---|---|
| The Limeliters | 1960 | アルバム収録 | 「The Hammer Song」として発表 |
| クロード・フランソワ | 1963 | 保守的な家族観へ変更 | フランス・カントリーチャート1位 |
| ヴィクトル・ハラ | 1969 | スペイン語版(政治的文脈) | チリの社会問題と結びつけた |
| ワンダ・ジャクソン | 1969 | カントリー・シングル | 全米カントリーチャート41位 |
| ジョニー・キャッシュ | 1972 | ロック調のアレンジ | 全米カントリーチャート29位 |
| B. スプリングスティーン | 2018(公表) | セーガー・セッションズ版 | 2004年録音、後年コンピ盤に収録 |
Frequently Asked Questions
ジョニー・キャッシュ版の特徴は何ですか?
妻のジューン・カーター・キャッシュによるハーモニーが加わっている点と、2人のエレキギタリスト(カール・パーキンスとボブ・ウートン)を起用したロック色の強いサウンドが特徴です。
フランス版の歌詞は原曲とどう違いますか?
原曲にあるプロテスト(抗議)の要素が取り除かれ、代わりに家族や労働といった保守的な価値観が強調されています。また、鐘の音が教会の鐘を象徴するように変更されました。
ヴィクトル・ハラはこの曲にどのような意図を込めましたか?
スペイン語で「El martillo」と題し、アメリカの公民権運動への関心と、自身の母国であるチリの社会状況をリンクさせることで、左翼的な政治思想を表現しました。
ブルース・スプリングスティーンはなぜ当初アルバムに収録しなかったのですか?
この曲があまりに有名であるため、アルバムに収録した他の知名度の低い楽曲たちが、その影に隠れてしまうことを懸念したためです。
レナード・ニモイのカバーに対する評価はどうでしたか?
批評家からは非常に厳しく評価され、「真の低点(a real lowlight)」とまで称されるほど不評でした。