地球上の森林は、単に面積が維持されているかということ以上に、「質」としての健全性が問われています。そこで開発されたのが森林景観完全性指数(Forest Landscape Integrity Index: FLII)です。これは、人間による改変が森林生態系にどの程度影響を与えているかを数値化した世界的な指標であり、野生生物保存協会(WCS)を中心とする国際的な研究チームによって構築されました。
FLIIは、約300メートル四方のピクセル単位で、0(最も改変が進んでいる)から10(最も自然に近い)までのスコアを割り当てます。これにより、森林の「完全性」を視覚的かつ定量的に把握することが可能になります。

Key Facts
- 世界的な現状: 2019年初頭のデータでは、世界の森林の約40.5%が「高い完全性」を維持している。
- 人間活動の影響: 残存する森林の91.2%が、何らかの形で人間による圧力の影響を受けている。
- 主要な保全地域: 高い完全性を保つ森林は、ロシアやカナダの北方林、およびアマゾン、中央アフリカ、ニューギニアなどの熱帯林に集中している。
- 保護区の現状: 高い完全性を持つ森林のうち、国家指定の保護区に含まれているのはわずか27%に過ぎない。

森林における「完全性」とは何か
生態学における生態学的完全性(Ecological Integrity)とは、ある生態系の構造、種組成、および生態学的プロセスが、自然な変動範囲内に収まっている状態を指します。森林の場合、単なる「森林減少(面積の喪失)」や、土地利用が変わらずに機能だけが低下する「森林劣化」とは異なる概念として扱われます。
FLIIでは、景観スケールにおける累積的な人間活動による改変の逆数として完全性を定義しています。つまり、人間による干渉が少なければ少ないほど、スコアは高くなります。

FLIIの算出メカニズムと手法
この指数は、Google Earth Engineを用いて4つの主要な空間データを統合して算出されています。
1. 森林範囲の定義と基準
2019年時点の森林を基準としており、「樹高5メートル以上で、樹冠被覆率が20%以上」の木本植生を森林と定義しています。2000年の樹冠推定値から、2001年から2018年までの樹冠喪失分を差し引くことで算出されました。

2. 直接的および間接的な圧力の評価
人間による影響は、以下の2つのアプローチで評価されます。
- 観測された圧力: 道路や建物などのインフラ、農地、最近の森林減少など、地図上で直接的に確認できる活動。
- 推測される圧力: 選択的伐採、燃料となる薪の採取、狩猟など、直接的なマッピングは困難だが、道路や居住地などの「観測された圧力」の周辺で発生しやすい影響。これらは距離に応じた減衰関数を用いてモデル化されています。

3. 接続性の喪失
森林の喪失や断片化によって、森林同士のつながり(接続性)がどれだけ損なわれたかを推定します。これにより、ある地点の完全性が周囲の森林被覆状況からどのような影響を受けているかを反映させます。

世界的な分析結果と国別傾向
2019年の分析では、世界平均のFLIIスコアは7.76でした。完全性のレベルは以下の3つのクラスに分類されています。
| クラス | FLIIスコア | 世界的な森林面積の割合 | 面積(約) |
|---|---|---|---|
| 高い (High) | 9.6以上 | 40.5% | 1,740万km² |
| 中程度 (Medium) | 6.0超 〜 9.6未満 | 33.9% | 1,460万km² |
| 低い (Low) | 6.0以下 | 25.6% | 1,100万km² |

国別のランキングを見ると、セーシェルやスーダン、ガイアナなどが高い平均スコアを記録しています。一方で、日本は平均スコア5.8となり、「中程度」から「低い」の境界付近に位置しています。また、ロシアとカナダの2カ国だけで、世界的に完全性が高い森林面積の約半分を占めているという極端な偏りが見られます。





































































































































































実社会での活用と応用
FLIIは単なる研究データに留まらず、国際的な政策や保全戦略に組み込まれています。
政策と報告への適用
「昆明・モントリオール生物多様性枠組」のターゲット2における生態学的完全性のモニタリングや、世界資源研究所(WRI)の森林劣化の測定指標として活用されています。また、欧州委員会の共同研究センター(JRC)による世界森林タイプマップにもこのレイヤーが組み込まれています。
学術研究と金融基準
先住民族の土地と保護区が重なる地域の完全性分析や、生物多様性重要地域(KBA)の状況監視など、多様な研究に利用されています。さらに、High Integrity Forest (HIFOR) メソドロジーでは、認定基準の一部としてFLIIの閾値が採用されています。
指標の限界と注意点
FLIIは保守的な推定値であり、いくつかの限界があることが認められています。例えば、非常に小規模なインフラや抽出活動は完全にマッピングできない場合があり、2000年以前の改変がデータに反映されていない可能性があります。また、気候変動や外来種の侵入といった要因は直接的に考慮されていません。さらに、定義上、樹木作物やプランテーションも「森林」に含まれるため、これらは通常、低い完全性スコアとして算出されます。
Frequently Asked Questions
FLIIと森林減少(Deforestation)の違いは何ですか?
森林減少は「森林面積が失われること」を指しますが、FLIIが測る完全性は「森林が残っていても、その内部の生態系がどれだけ自然な状態で維持されているか」という質的な側面を評価するものです。
なぜロシアやカナダのスコアが高いのでしょうか?
これらの国々には、人間活動の影響をほとんど受けていない広大な北方林(タイガ)が広がっており、インフラ整備や開発が進んでいない地域が多いためです。
この指数はどのように更新されますか?
研究チームは、新しいグローバルデータセットが利用可能になれば、年次ベースでの更新を含め、手法をアップデートできるとしています。
保護区に入っていれば必ず完全性は高いのでしょうか?
いいえ。データによると、高い完全性を持つ森林の約73%は保護区の外にあります。ただし、保護区内の森林の56%が高い完全性を維持しているため、保護区の設定はある程度の効果を上げていると言えます。
FLIIのスコアが低いことは何を意味しますか?
スコアが低いことは、道路の建設、農業への転換、選択的伐採などの人間活動によって、その地域の生態系構造やプロセスが自然な状態から大きく乖離していることを示しています。
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