テーブルトークRPGの金字塔『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』の世界において、Fiend Folio(フィエンド・フォリオ)は、単なるモンスターのデータ集以上の意味を持つ書籍です。読者の投稿から生まれたクリーチャーや、異次元の恐怖を形にしたこの図鑑は、版を重ねるごとにその役割を変えながら、ゲームの世界観を拡張し続けてきました。

Key Facts

  • 起源:雑誌『White Dwarf』の読者投稿コーナー「Fiend Factory」のアイデアがベースとなっている。
  • 初版の波乱:Games WorkshopとTSRの権利争いにより、出版まで約2年の遅延が発生した。
  • 象徴的なモンスター:ギザンキ(Githyanki)が初版の表紙を飾り、コミュニティに強い印象を与えた。
  • 進化:第3版では150種類以上のモンスターが収録され、プレステージ・クラスやシンビオントなどの新概念が導入された。

AD&D第1版:コミュニティの創造力から生まれた図鑑

1981年8月にTSRから出版された最初の『Fiend Folio』は、もともとイギリスのGames Workshop社が1979年末にリリースする予定だったプロジェクトでした。編集者のドン・ターンブル氏が主導し、主に雑誌『White Dwarf』の「Fiend Factory」というコラムに寄せられた読者のアイデアを基に構成されていました。

しかし、出版権を巡るGames Workshop社とTSR社のビジネス上の対立により、完成した原稿は長らく日の目を見ませんでした。最終的にTSR社が自ら出版し、これを機に同社はイギリス国内での事業展開を開始しました。全128ページのハードカバー版には、ギザンキやグレル、アサシン・バグといった独創的な生物が並び、TSRの既存モジュールに登場していたドロウやクオ・トアなども統合されました。

また、本書は単なるリストではなく、ダンジョンや屋外、さらにはアストラル界やエーテル界でのランダムエンカウント表を搭載しており、『ダンジョンマスターズ・ガイド』の代替として活用できる実用的な設計となっていました。

特筆すべきは、著作権の移転に伴う影響です。Fiend Folioへの収録条件として、Games Workshop社はモンスターの著作権をTSR社へ譲渡しました。これにより、当時TSR社と独占契約を結んでいたGrenadier Models社以外のメーカー(Citadel Miniatures社など)は、これらのモンスターのフィギュア製造を停止せざるを得なくなりました。

その後、1983年に『モンスター・マニュアルII』が登場し、ハードカバーの装丁がオレンジ色の背表紙へと統一されましたが、『Fiend Folio』だけはデザイン変更されぬまま絶版となりました。1999年にはペーパーバック版が再販されています。

AD&D第2版:形式の変更とアップデート

1992年4月、第2版ルール向けに『Monstrous Compendium Fiend Folio Appendix』(MC14)がリリースされました。この版は従来の書籍形式ではなく、カードボードのカバーに64枚のルーズリーフを綴じる形式を採用していました。

内容はRPGA(Role Playing Game Association)のメンバーによって作成または更新された60種類以上のモンスターで構成されており、初代『Fiend Folio』に登場したクリーチャーの多くが、新ルールに合わせて調整されて収録されました。

D&D第3版:システムの拡張と新概念の導入

2003年4月にWizards of the Coast社から出版された第3版の『Fiend Folio』は、全224ページのハードカバー本として登場しました。ここでは、初代のモンスターを一部引き継ぎつつ、150種類以上の膨大なクリーチャーが収録され、その半数以上が完全新作でした。特に異次元(エクストラプラナー)由来のモンスターに重点が置かれています。

この書籍は、後の「3.5版」への移行を見据えた先駆的な設計となっていました。例えば、「エクストラプラナー」や「スウォーム(群れ)」といったサブタイプの導入、またモンスターにプレイヤーキャラクターと同様のスキルポイントや特技を割り当てる仕組みなどが、本書で初めて実装され、後の改訂版モンスター・マニュアルに継承されました。

さらに、ゲームプレイに深みを与える以下の新要素が導入されました:

  • プレステージ・クラス:悪魔的な存在のための3つの特殊クラス(冒涜、腐敗、憑依)が追加。
  • グラフトとシンビオント:生体サイバネティクスのような「接ぎ木(グラフト)」や、生きた装備品である「共生体(シンビオント)」という概念が登場。
  • 強力な上位個体:バロールを超える力を持つ「クルリキール」や「ミルミクシクス」、ピット・フィエンドを凌駕する「パエリリオン」などの強力な悪魔が追加。

なお、第1版の多くのモンスターは、後にNecromancer Games社が発行した『Tome of Horrors』においてd20システム(第3版ルール)へとアップデートされ、高い評価を得ました。

版 / タイトル 出版年 形式 主な特徴
AD&D 第1版 1981年 ハードカバー 読者投稿ベース、ギザンキの初登場
AD&D 第2版 (Appendix) 1992年 ルーズリーフ RPGAメンバーによる更新、MC14として出版
D&D 第3版 2003年 ハードカバー 150種以上の収録、シンビオント等の新概念導入

Frequently Asked Questions

Fiend Folioのモンスターはどこから来たのですか?

初版の多くは、雑誌『White Dwarf』の「Fiend Factory」というコラムに寄せられた、一般のゲーマーや寄稿者によるアイデアから生まれました。そのため、当時のコミュニティの創造性が色濃く反映されています。

ギザンキ(Githyanki)とはどのような存在ですか?

チャールズ・ストロス氏によってデザインされ、初版『Fiend Folio』の表紙を飾ったモンスターです。この露出により、D&Dコミュニティの間で非常に高い知名度を得ることとなりました。

第3版のFiend Folioで導入された「シンビオント」とは何ですか?

「共生体」を意味し、生物的な装備品としてキャラクターに付着し、能力を付与する新しいゲーム要素として導入されました。

なぜ初版の出版に時間がかかったのですか?

編集者のドン・ターンブル氏によって原稿は予定通り完成していましたが、出版権を持つGames Workshop社とTSR社の間でビジネス上の紛争が発生し、出版が約2年遅れたためです。

第1版のモンスターは後の版でも使われていますか?

はい。第2版のAppendixで更新されたほか、第3版向けにはNecromancer Games社の『Tome of Horrors』などでd20ルールへの変換が行われ、受け継がれています。