地球の深部で繰り広げられるダイナミックな地質活動の証人とも言えるのが、エクロジャイトです。その名は古代ギリシャ語で「選択」を意味する言葉に由来しており、その類まれなる美しさから「選ばれし岩石」として名付けられました。1822年にルネ・ジュスト・ウイによって初めて定義されたこの岩石は、地球内部の極限状態を解き明かす重要な鍵を握っています。
エクロジャイトは、主に赤色のガーネット(アルマンディンやパイロープ)と、ナトリウムに富む緑色の輝石であるオムファサイトから構成される変成岩です。これらの鉱物の組み合わせが、この岩石に特徴的な色彩を与えています。

Key Facts
- 主成分:ガーネットとオムファサイト(ナトリウム輝石)からなる二成分岩石。
- 形成条件:沈み込み帯において、低温度勾配(10°C/km未満)かつ超高圧環境で形成される。
- 分類:化学組成に基づき、グループA、B、Cの3種類に分けられる。
- 重要性:部分溶融することでトナライトや花崗閃緑岩などのマグマを生成し、火山活動に寄与する。
- 分布:北米、ヒマラヤ、ブラジル、マリなど世界各地で確認されている。
エクロジャイトの形成メカニズムと相
エクロジャイトは、玄武岩などの苦鉄質岩が、プレートの沈み込みに伴って地殻深部から上部マントルへと運ばれることで形成されます。この過程で、12kbar(キロバー)を超える極めて高い圧力と、中〜高温の環境にさらされることでエクロジャイト相と呼ばれる変成作用が起こります。
この圧力条件は、緑色片岩相や青色片岩相、角閃岩相、あるいは顆粒岩相よりも遥かに高く、地球内部の深い場所でのみ達成される条件です。特に、含水ケイ酸塩鉱物であるローソナイトを含むエクロジャイトは、地下45kmから300kmという深さで形成されると予測されており、地表で発見されることは稀です。

化学組成による分類と地表への到達経路
エクロジャイトは、主成分であるガーネットと単斜輝石の化学組成(特にパイロープやジェダイトの含有量)によって、A、B、Cの3つのグループに分類されます。グループAからCに向かうにつれて、岩石の苦鉄質的な性質(SiO₂やMgOの量)が弱まり、アルカリ成分が増加する傾向にあります。
これらのグループは、地表に現れる経路とも密接に関係しています。
- グループA:主にクラトン(安定地塊)地域から、キンバーライトの噴火に伴い150km以上の深部からゼノリス(捕獲岩)として運ばれます。
- グループB:グループAと組成が似ていますが、ペリドタイト(かんらん岩)のマントル物質に囲まれたレンズ状やポッド状の形態で存在します。
- グループC:雲母片岩や青色片岩の層間に見られることが多く、カリフォルニア沿岸やニューカレドニアの構造ブロックなどで代表されます。

起源を巡る論争:マントルか地表か
エクロジャイトの起源については、長年議論が続いています。特にゼノリスとして発見される個体について、「もともと地表付近にあった海洋地殻が沈み込んだものか」あるいは「マントル内部で生成されたものか」という点が焦点となっています。
グループAのゼノリスは、後からの交代作用によって元の組成が書き換えられているため、解析が困難です。しかし、酸素同位体比の分析から、海底での熱水変質を受けた玄武岩がプロトリス(原岩)であったとする説が有力視されています。一方で、マントル内での部分溶融による残留物から形成されたとする「累積モデル」も提唱されており、研究が進められています。

地球科学における重要性と分布
エクロジャイトは単なる岩石標本ではなく、地球の物質循環を理解する上で不可欠な存在です。エクロジャイトが部分的に溶融すると、トナライト、トロンジェマイト、花崗閃緑岩といったマグマが生成されます。これがマントルのペリドタイトと反応してパイロキセナイトとなり、さらにそれが溶けることで玄武岩へとつながるプロセスは、大規模な火山活動のメカニズムを説明するモデルとなっています。
世界的な分布としては、北米のフランシスカン層やアパラチア山脈、オーストラリアの中央部、ヒマラヤ北西部などで見られます。また、ブラジルやマリでは、約6億2000万年から6億5000万年前という非常に古い時代のコエサイト(超高圧相の石英)を含むエクロジャイトが発見されています。
| グループ | 主な特徴 | 主な出現形態・場所 |
|---|---|---|
| グループA | 最も苦鉄質、交代作用の影響大 | キンバーライト中のゼノリス(深さ150km超) |
| グループB | グループAに近い組成 | ペリドタイト中のレンズ状・ポッド状 |
| グループC | アルカリ含有量が高く、苦鉄質性が低い | 雲母片岩や青色片岩の層間(カリフォルニア等) |
Frequently Asked Questions
エクロジャイトは何からできている岩石ですか?
主に赤色のガーネットと、緑色のオムファサイト(ナトリウムに富む輝石)という2種類の鉱物で構成されています。また、副成分としてコエサイト、キアナイト、ルチル、石英などが含まれることがあります。
どのような環境で形成されますか?
プレートの沈み込み帯において、地殻深部から上部マントルに至る超高圧(12kbar以上)かつ、温度勾配が低い環境で、玄武岩などの苦鉄質岩が変成することで形成されます。
なぜ「選ばれし岩石」と呼ばれているのですか?
「エクロジャイト」という名前が、古代ギリシャ語で「選択」や「選り抜き」を意味する「eklogḗ」に由来しているためです。これは、この岩石が持つ視覚的な美しさにちなんでいます。
エクロジャイトが地球の火山活動にどう関わっていますか?
エクロジャイトが部分的に溶けることで特定のマグマ(トナライトなど)が生成されます。これが周囲のマントル物質と反応し、最終的に玄武岩などのマグマとなって地表に噴出することで、大規模な火山活動に寄与していると考えられています。
世界で最も古いエクロジャイトはどこで見つかりましたか?
コエサイトを含む最古のエクロジャイトは、ブラジル(約6億5000万年前)とマリ(約6億2000万年前)で確認されています。
References
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