世界的に人気のテーブルトークRPG(TRPG)であるDungeons & Dragons(D&D)は、そのルール体系を外部のクリエイターに開放することで、膨大なサードパーティ製コンテンツの誕生を促してきました。このエコシステムの中心にあるのが「オープンゲームライセンス(OGL)」と「システム参照ドキュメント(SRD)」です。しかし、近年このライセンス運用を巡って、開発元のWizards of the Coast社とコミュニティの間で激しい論争が巻き起こりました。
Key Facts
- OGL (Open Game License):D&Dのルールの一部を他者が利用して製品化することを許可するライセンス。
- SRD (System Reference Document):OGLの下で利用可能なルールやデータの要約をまとめた文書。
- CC-BY-4.0:SRD 5.1が移行した、不可逆的なクリエイティブ・コモンズ・ライセンス。
- 論争の核心:2023年初頭、OGL 1.0aの無効化やロイヤリティ徴収の可能性が浮上し、コミュニティから強い反発を受けた。
- 最終的な合意:Wizards社はOGL 1.0aを維持し、SRD 5.1をクリエイティブ・コモンズで公開することを決定した。
ライセンスの基礎知識:OGLとSRDとは
D&Dのオープンエコシステムを理解するには、まず2つの重要な概念を区別する必要があります。OGL(オープンゲームライセンス)は、いわば「利用規約」のようなもので、どのような条件でルールを使用できるかを定めています。一方、SRD(システム参照ドキュメント)は、実際に利用可能な「ルール内容そのもの」を記述した参照資料です。
この仕組みにより、他社はD&Dの基本メカニクスを利用して独自の冒険シナリオや新ルールを開発し、商業的に販売することが可能になりました。ただし、世界観や固有のキャラクターなどの「製品アイデンティティ(PI)」は保護されており、他社のPIを無断で使用することはライセンス違反となります。
第5版における展開と「One D&D」の波紋
2016年1月12日、Wizards社は第5版のSRDをOGL v1.0aの下でリリースし、オープン形式への回帰を表明しました。その後、2016年5月には改訂版となるSRD 5.1が発表されました。

転機が訪れたのは2022年8月です。次世代のD&D構想である「One D&D」のプレイテストが開始されると、次期バージョンにおいてOGLが廃止されるのではないかという憶測が広がりました。Wizards社は当初、サードパーティへの支援を継続すると述べつつも、ライセンスの進化は避けられないとして詳細を伏せていました。
2023年のライセンス論争とコミュニティの反撃
2022年末から2023年初頭にかけて、事態は深刻化しました。リークされた「OGL 1.1」案では、一部のクリエイターへのロイヤリティ支払い義務や収益報告が盛り込まれていたとされ、ファンや開発者から猛烈な反発を招きました。これを受けてWizards社は謝罪し、新たな「OGL 1.2」案を提示しました。
OGL 1.2ではロイヤリティや登録義務は排除されましたが、依然として旧来の「OGL 1.0a」を無効化(de-authorize)する方針が含まれていました。これに対し、15,000件以上のアンケート回答が集まり、その多くがOGL 1.2への不満やOGL 1.0aの維持を求めるものでした。具体的には、89%がOGL 1.0aの無効化に反対し、88%がOGL 1.2の下での出版を望まないという結果となりました。
決着:クリエイティブ・コモンズへの移行
コミュニティの圧倒的な拒絶反応を受け、Wizards社は2023年1月27日に方針を大幅に転換しました。同社はOGL 1.0aを無効化することを断念し、さらにSRD 5.1を不可逆的なクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC-BY-4.0)の下で即時公開することを発表しました。
この決定は、ファンやサードパーティ出版社にとって大きな勝利と受け止められました。これにより、D&Dの基本ルールは企業の意向で後から変更されることのない、より強固なオープン形式で保護されることになったためです。
D&Dライセンスの概要まとめ
| 項目 | OGL 1.0a / SRD 5.0 | OGL 1.2 (提案案) | SRD 5.1 (最終決定) |
|---|---|---|---|
| ライセンス形式 | オープンゲームライセンス | 新OGL + CC一部導入 | CC-BY-4.0 (不可逆的) |
| ロイヤリティ | なし | なし (1.2案時点) | なし |
| 旧版の扱い | 基準となるライセンス | 無効化を計画 | 維持・継続 |
| 主な特徴 | サードパーティ製品の急増 | コミュニティの強い反発 | 権利の永続的な開放 |
Frequently Asked Questions
OGLとSRDの最大の違いは何ですか?
OGLはルールを利用するための「契約書(ライセンス)」であり、SRDは実際に利用できる「ルールの内容(ドキュメント)」です。OGLという契約に同意することで、SRDに記載された内容を自分の作品に組み込むことができます。
なぜ2023年に大きな論争になったのですか?
Wizards社が提示した新ライセンス案(OGL 1.1/1.2)において、従来のライセンス(OGL 1.0a)を無効化しようとしたためです。これにより、過去にOGL 1.0aに基づいて作られた多くのサードパーティ製品の法的根拠が揺らぐ懸念が生じました。
クリエイティブ・コモンズ(CC-BY-4.0)への移行は何を意味しますか?
CC-BY-4.0は不可逆的なライセンスであるため、一度公開されたSRD 5.1の内容をWizards社が後から取り消したり、利用条件を一方的に変更したりすることができなくなります。これにより、クリエイターはより安心してコンテンツを制作できるようになりました。
製品アイデンティティ(PI)とは何ですか?
特定のブランドや世界観に紐づく固有の名称、キャラクター、設定などを指します。これらはOGLの対象外であり、他社が許可なく商業利用することは禁止されています。
One D&Dはライセンスに影響を与えましたか?
はい。One D&Dという次世代ルールの開発に伴い、Wizards社がライセンス体系の見直しを試みたことが、一連の論争の引き金となりました。
References
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