私たちの足元に広がる地球の深部は、未知の領域に満ちています。特に、生命の根源であり地球の気候や地質を左右する炭素が、地表から数キロ、あるいは数百キロという深さでどのように振る舞っているのか。この壮大な謎に挑むために設立されたのが、世界規模の研究プログラム「ディープ・カーボン・オブザーバトリー(DCO)」です。
DCOは、単なる地質学的な調査にとどまらず、生物学、物理学、化学など、従来の学問的な境界を越えた統合的な「深部炭素科学」という新分野を切り拓いています。世界47カ国から900名以上の科学者が集結し、地球内部における炭素の役割を根本から書き換えようとしています。
Key Facts
- 地下深部の巨大生態系: 地下4.8km(海底下2.5km)まで生命が存在し、その炭素量は最大230億トンに達する。
- 地球コアの炭素: 地球の核(コア)には大量の炭化鉄が存在し、地球全体の炭素予算の約3分の2を占めている可能性がある。
- 火山活動の影響: 火山による二酸化炭素(CO2)の放出量は従来説の2倍であると判明したが、それでも人類による排出量の100分の1程度に過ぎない。
- 超深部ダイヤモンド: 地下670km以上のマントルから採取されたダイヤモンドに地表由来の有機物の痕跡が見つかり、炭素の循環が深部まで及んでいることが証明された。
DCOの成り立ちと目的
DCOの構想は、2007年にカーネギー研究所のロバート・ヘイゼン博士が、生命の起源と地球物理学的反応の関連性について語ったことから始まりました。その後、アルフレッド・P・スローン財団のジェシー・オーズベル氏らとの協力により、2009年8月に正式に発足しました。
当初は生命の起源に焦点を当てていましたが、議論を重ねる中で、地球を理解するためには中心的な要素である「炭素」の挙動を包括的に捉える必要があるという結論に達しました。これにより、地表だけでなく、地殻、マントル、そして核に至るまでの全地球的な炭素循環を解明することが最大の目的となりました。
4つの主要研究コミュニティ
DCOは、研究効率を高めるために専門性を分けた4つのコミュニティで構成されています。
1. 貯蔵量とフラックス(Reservoirs and Fluxes)
地球内部で炭素がどこに蓄えられ、どのように移動(フラックス)しているかを調査しています。プレートの沈み込みや火山のガス放出が主な経路ですが、その正確な量や歴史的な変動はまだ完全には解明されていません。また、隕石の分析を通じて、地球が他の天体に比べて揮発性元素が少ない理由や、マントル・核に隠された巨大な炭素貯蔵所の有無を研究しています。
2. 深部生命(Deep Life)
地下深くに生息する微生物の多様性と、それらが炭素循環に与える影響を研究しています。驚くべきことに、地球上の細菌や古細菌の約70%が地下に生息していると推定されており、そのバイオマスは人類全体の炭素量の250倍から400倍に相当します。極限環境での代謝や生存限界を明らかにすることで、生命の定義を広げています。
3. 深部エネルギー(Deep Energy)
地質学的な時間スケールで、還元型炭素化合物(メタンなど)がどのように生成され、移動するかを定量化しています。特に、生物を介さずに化学反応のみで生成される「非生物的メタン」を識別するため、最新の同位体分析技術を導入し、世界各地のフィールド調査を行っています。
4. 極限物理・化学(Extreme Physics and Chemistry)
地球深部や他惑星の内部のような、超高圧・超高温条件下での炭素の挙動を研究しています。熱力学や化学反応速度論を用い、未知の炭素含有物質の特定や、固体と流体の相互作用を理論的・実験的にモデル化しています。
研究成果のまとめ
| 研究領域 | 主な発見・成果 | 科学的意義 |
|---|---|---|
| 深部生物圏 | 地下4.8kmまで微生物が存在 | 生命の生存限界の更新と巨大生態系の確認 |
| 地球内部構造 | 核に大量の炭化鉄が存在する可能性 | 地球全体の炭素予算の再評価 |
| 炭素循環 | 超深部ダイヤモンドに地表の有機物痕跡 | 沈み込み帯による炭素輸送の証明 |
| 大気への影響 | 火山性CO2放出量は想定の2倍 | 自然放出量と人為的放出量の対比を明確化 |
データサイエンスとオープンアクセスの推進
DCOは、膨大かつ複雑なデータを扱うため、専用のデータサイエンスチームを設置しています。異なる専門分野の情報を統合し、地球規模の炭素モデルを構築するためのインフォマティクス手法を導入しています。
また、科学的知見を広く共有するため、オープンアクセス出版を強く推進しています。その象徴的な成果が、2013年に公開された『Carbon in Earth』(Reviews in Mineralogy and Geochemistry 第75巻)であり、深部炭素に関する知見を体系的にまとめたオープンリソースとなっています。
Frequently Asked Questions
DCOとはどのような組織ですか?
2009年に設立された、地球内部における炭素の役割を解明するための世界的な研究プログラムです。地質学者だけでなく、生物学者や物理学者、化学者が協力して「深部炭素科学」という分野を研究しています。
地下深くにどれくらいの生命が住んでいるのですか?
研究によると、地球上の細菌や古細菌の約70%が地下に生息していると考えられています。その炭素量は最大230億トンに達し、地表に住む全人類の炭素量の数百倍という極めて巨大な生態系を形成しています。
「非生物的メタン」とは何ですか?
微生物などの生物活動によらず、地殻やマントルにおける高温・高圧下の化学反応によって生成されるメタンガスのことです。DCOは最新の質量分析計を用いて、この非生物的なメタンを正確に識別しています。
火山のCO2排出は地球温暖化に大きく影響していますか?
DCOの研究で、火山からのCO2放出量は以前の想定の2倍であることが分かりました。しかし、それでも人類が排出しているCO2量に比べると100分の1程度であり、主因は人為的な活動にあることが明確になっています。
地球の核(コア)に炭素があるというのは本当ですか?
はい。研究により、地球の核には炭化鉄として相当量の炭素が含まれている可能性が示唆されており、それが地球全体の炭素予算の約3分の2を占めているという説が提唱されています。
References
- "People Browser". Deep Carbon Observatory Data Portal. Archived from the original on 15 January 2019. Retrieved 31 January 2017.
- "About the DCO". Deep Carbon Observatory. 1 December 2013. Retrieved 2 August 2017.
- Deep Carbon Observatory (10 December 2018). "Life in deep Earth totals 15 to 23 billion tons of carbon – hundreds of times more than humans". . Archived from the original on 15 February 2019. Retrieved 11 December 2018.
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