地球上には数多くの火山が存在しますが、その中でも特に破壊的な噴火の歴史を持ち、かつ人口密集地に隣接しているため、極めて高いリスクを抱える火山があります。国際火山学および地球内部化学連合(IAVCEI)は、こうした火山を重点的に研究し、災害被害を最小限に抑えることを目的とした「デケイド・ボルケーノ(Decade Volcanoes:10年火山)」というプロジェクトを立ち上げました。
この取り組みは、1990年代に国連が主導した「自然災害削減のための国際的な10年」の一環として開始されました。単に科学的な好奇心を満たすためではなく、人々の命を守るための実用的なリスク管理を目的としています。
Key Facts
- 選定数: 世界中で16の火山が指定されている。
- 目的: 火山の特性を深く理解し、公衆の意識を高めることで自然災害の深刻さを軽減すること。
- 選定基準: 複数の火山災害リスクがあること、最近の活動履歴があること、人口密集地に近いこと、研究へのアクセスと地元協力が得られること。
- 主なリスク: 火砕流、溶岩流、テフラ(火山灰など)の降下、ラハール(火山泥流)、山体崩壊など。
リスク軽減へのアプローチと課題
デケイド・ボルケーノ・プロジェクトの基本戦略は、計画ワークショップを開催し、各火山の防災体制における強みと弱みを明確にすることです。特に重要視されているのが、地質学者などの専門家と、実際に避難指示などを出す行政・防災担当者との円滑なコミュニケーションです。科学的な知見をいかに迅速に実効性のある防災策に変換できるかが鍵となります。
しかし、資金調達には困難が伴いました。当初期待されていた国連からの資金提供は実現せず、メキシコの国内機関や、フランス・ドイツとインドネシアの二国間協定、あるいは欧州連合(EU)などの多様なソースから資金を募る形となりました。
また、発展途上国同士(例:フィリピンとインドネシア、あるいはメキシコとコロンビアなど)の専門家や防災リーダー間の交流は、多くの公的資金の枠組みで認められていなかったため、十分に行われてきませんでした。実際には、先進国の事例よりも、似た環境にある途上国同士の経験の方が共感を得やすく、特に危機を乗り越えた防災リーダーの言葉は、現地の担当者にとって強い説得力を持つため、こうした交流の欠如は課題となっています。
プロジェクトの成果と直面した悲劇
このプログラムは、多くの具体的な成果を上げてきました。1992年のエトナ山では、溶岩流がザッフェラーナの町を襲う危険があった際、溶岩チューブの開口部に巨大なコンクリートブロックを投入して流れを遮断し、町を救うことに成功しました。
また、研究が進んだことで、コロンビアのガレラス山の噴火史が明確になったり、フィリピンのタアル火山において水が爆発的噴火を促進させる重要な要因であることが判明したりしました。さらに、米国のマウント・レーニア周辺での開発前の地質リスク評価の義務化や、イタリアのヴェスヴィオ山におけるナポリ市の一部を対象とした避難計画の策定など、制度面でのリスク軽減も進んでいます。
一方で、監視体制を整えていても被害を防ぎきれないという厳しい現実も突きつけられました。日本の雲仙岳では、厳重な監視が行われていたにもかかわらず、大規模な火砕流によって火山学者3名を含む43名が犠牲となりました。また、1993年のガレラス山では、会議に参加していた科学者たちが突発的に火口へ登頂し、予期せぬ噴火に巻き込まれて科学者6名と観光客3名が死亡するという悲劇が起きています。
さらに、グアテマラのサンタ・マリア山やコンゴ民主共和国のニラゴンゴ山のように、内戦などの社会不安が研究や監視活動を妨げるケースもあり、限られたリソースを巡る競争も課題となっています。
指定された16のデケイド・ボルケーノ一覧
以下に、現在指定されている16の火山とその特徴をまとめます。
| 火山名 | 国・地域 | 標高 | 主なリスク・特徴 | 直近の噴火 |
|---|---|---|---|---|
| アバチンスキー・コリャクスキー | ロシア | 2,741m / 3,456m | ペトロパブロフスク・カムチャツキー市に近接 | 2008/2009年 |
| コリマ山 | メキシコ | 4,260m | コリマ州全域に影響 | 2019年 |
| ガレラス山 | コロンビア | 4,276m | ナリニョ県全域に影響 | 2014年 |
| マウナロア | アメリカ | 4,169m | ハワイ最大の盾状火山。ヒロ市に危険 | 2022年 |
| エトナ山 | イタリア | 3,403m | カターニア市に灰や溶岩爆弾の影響 | 2026年(予定/活動中) |
| メラピ山 | インドネシア | 2,968m | ジョグジャカルタ特別州など広範囲に影響 | 2024年 |
| ニラゴンゴ山 | コンゴ民主共和国 | 3,470m | 流動性の高い溶岩がゴマ市を脅かす | 2021年 |
| マウント・レーニア | アメリカ | 4,392m | 大規模なラハール(泥流)の危険性が極めて高い | 1894-95年 |
| ヴェスヴィオ山 | イタリア | 1,281m | ナポリ市に近接。過去にポンペイを破壊 | 1944年 |
| 雲仙岳 | 日本 | 1,473m | 長崎県に影響。火砕流および津波の可能性 | 1995年 |
| 桜島 | 日本 | 1,117m | 鹿児島県全域(奄美諸島除く)に影響 | 2025年 |
| サンタ・マリア山 | グアテマラ | 3,772m | ケツァルテナンゴ県などに影響 | 2013年 |
| サントリーニ(テラ) | ギリシャ | 367m | 過去に巨大噴火と津波を発生させた | 1950年 |
| タアル火山 | フィリピン | 311m | マニラ首都圏を含む広範囲に影響 | 2026年(予定/活動中) |
| テイデ山 | スペイン | 3,715m | テネリフェ島に影響。津波の可能性 | 1909年 |
| ウラウン山 | パプアニューギニア | 2,334m | ニューブリテン島に位置 | 2023年 |
Frequently Asked Questions
なぜ「デケイド(10年)」という名前がついているのですか?
このプロジェクトが、1990年代に国連が推進した「自然災害削減のための国際的な10年(International Decade for Natural Disaster Reduction)」の一環として開始されたためです。
どのような基準で火山が選ばれているのでしょうか?
単に活動的であるだけでなく、火砕流や泥流など複数の危険要因があること、人口密集地に近く多くの人々を脅かす可能性があること、そして現地での研究へのアクセスや協力が得られることなどが基準となっています。
このプロジェクトによって具体的にどのような成果がありましたか?
エトナ山での溶岩流の方向変更による町への被害回避や、マウント・レーニアでの地質リスク評価の法制化、ヴェスヴィオ山における避難計画の策定など、科学的知見に基づいた実効的な防災策が導入されています。
監視体制があれば、必ず被害を防げるのでしょうか?
いいえ。日本の雲仙岳の事例のように、厳重な監視が行われていても、予測困難な火砕流によって専門家を含む多くの犠牲者が出る場合があります。監視は不可欠ですが、万全ではないことが示されています。
研究を妨げる要因にはどのようなものがありますか?
資金不足に加え、グアテマラやコンゴ民主共和国のように、地域的な内戦や社会不安が原因で、現地での調査や継続的な監視活動が困難になるケースがあります。
References
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