現代のビジネスや研究において、異なるアプリケーションやデータソース間で情報を円滑にやり取りすることは極めて重要です。そこで活用されるのが共通データモデル(Common Data Model: CDM)です。これは、多様な形式で存在するデータを標準的な構造に整理し、論理的なインフラを統一することで、関連するシステムが同一のデータに基づいて動作し、共有できるようにする仕組みを指します。
CDMは、堅牢な情報システムの不可欠な構成要素であり、共通の通信プロトコルと併せて、機敏性の高い(アジャイルな)アプリケーション設計を実現するための鍵となります。また、組織内で単一の共通データモデルを提供することは、データウェアハウスにおける代表的な役割の一つです。
Key Facts
- 目的:異なる形式のデータを標準構造に統合し、アプリケーション間のデータ交換を容易にする。
- 機能:論理的なインフラを標準化し、複数のソースからのデータを一貫して操作可能にする。
- 重要性:効率的な情報システムやアジャイルなアプリ開発、データウェアハウスの構築に寄与する。
- 適用範囲:医療、気候変動、物流、ITインフラなど、広範な専門分野で導入されている。
分野別に見るCDMの具体例
ITおよび汎用テクノロジー
IT分野では、システムの相互運用性を高めるために多くの標準モデルが策定されています。例えば、サービス指向アーキテクチャ(SOA)向けには、HPやIBMなどが共同で定義したS-RAMPがあり、リポジトリのデータモデルと相互作用プロトコルを規定しています。また、異なるコンテンツ管理システム間での連携を可能にするオープン標準としてCMIS(Content Management Interoperability Services)が存在し、バージョン管理を含むファイルやフォルダの共通モデルを提供しています。さらに、科学的な配列データ向けには、セマンティクスを段階的に拡張する3層構造を持つNetCDF Java共通データモデルが利用されています。
医療・ゲノムデータ
医療分野では、世界中の異なるソースから得られる電子健康記録(EHR)や請求データを統合することが急務です。米国国立衛生研究所(NIH)傘下のOMOPや、患者中心のアウトカム研究のためのPCORnetなどが、このための共通モデルを構築しています。また、FDAのSentinelイニシアチブで用いられるSentinel Common Data Modelや、2019年に発表されたGeneralized Data Model(階層構造により柔軟なデータ関係を定義可能)など、研究目的や規制当局への提出形式(SDTMベースのJANUSなど)に合わせた多様なモデルが存在します。
環境・気候データ
コペルニクス気候変動サービス(C3S)が提供するClimate Data Store (CDS)では、CDMがメタデータとアクセスの統合レイヤーとして機能しています。これにより、提供元が異なる不均一な気候データセットであっても、名称や単位が統一され、クラウドベースの処理や下流アプリケーションで一貫して利用できるようになります。
物流・交通インフラ
航空宇宙・防衛分野では、欧州のASDと米国のAIAが共同開発したSX002D仕様に共通データモデルが含まれており、業界間の互換性と共通性を確保しています。また、鉄道セクターにおいてはRailTopoModelという専用の共通データモデルが導入されています。さらに、国境を越えた大型輸送の申請手続きを迅速化させるためのパイロットプロジェクト(X-trans.eu)でも、承認に必要な情報を網羅したCDMが基盤として活用されました。
Microsoft Common Data Model
ビジネス領域における汎用的なモデルとして、Microsoftがパートナーと共に維持・管理しているMicrosoft Common Data Modelがあります。これは、ビジネスで頻繁に利用される概念や活動をエンティティ、属性、セマンティックメタデータとして定義した拡張可能なスキーマ集です。GitHubで公開されており、Microsoft DataverseやPower Platform、Dynamics 365などのサービスで実際に運用されています。
共通データモデルの概要まとめ
| 適用分野 | 代表的なモデル/規格 | 主な目的・特徴 |
|---|---|---|
| 汎用IT/SOA | S-RAMP, CMIS | リポジトリの共有、コンテンツ管理システムの相互運用 |
| 医療・ヘルスケア | OMOP, PCORnet, Sentinel | 電子健康記録(EHR)や請求データの世界的な統合 |
| 気候科学 | CDS Common Data Model | 不均一な気候データセットの名称・単位の統一 |
| ビジネス/ERP | Microsoft CDM | ビジネス概念の標準化(Dataverse等で活用) |
| 輸送・物流 | SX002D, RailTopoModel | 航空宇宙の互換性確保、鉄道インフラのデータ交換 |
Frequently Asked Questions
共通データモデル(CDM)を導入する最大のメリットは何ですか?
最大のメリットは、異なるシステム間での「データの共通言語」を構築できることです。これにより、データの形式変換にかかるコストが削減され、異なるアプリケーション間でのスムーズな情報交換や、組織横断的なデータ分析が可能になります。
CDMはデータウェアハウスとどのような関係がありますか?
データウェアハウスの主要なタスクの一つが、社内の多様なデータソースから情報を集約し、単一の共通データモデルに統合することです。これにより、一貫性のあるレポート作成や意思決定支援が可能になります。
Microsoft Common Data Modelは誰でも利用できますか?
はい、Microsoft Common Data ModelはGitHubで公開されており、標準化された拡張可能なデータスキーマとして提供されています。主にMicrosoftのエコシステム(Power Platformなど)で活用されています。
医療分野で複数のCDM(OMOPやPCORnetなど)が存在するのはなぜですか?
データの利用目的(臨床研究、規制当局への報告、患者中心のアウトカム研究など)によって、必要とされるデータの粒度や構造が異なるためです。そのため、用途に最適化した複数のモデルが開発されています。
CDMとメタデータはどのように異なりますか?
メタデータは「データに関するデータ(説明情報)」を指しますが、CDMはそれらのメタデータを含め、データがどのように構造化され、互いにどう関連し合うべきかという「設計図(モデル)」全体を指します。
References
- "What Is a Common Data Model? – How Does It Work?". Synopsys.
- Serra, James (June 2019). "Common Data Model". James Serra's Blog.
- Salvaneschi, Paolo; Lazzari, Marco (1997). "Weak Information Systems for Technical Data Management" (PDF). Worldwide ECCE Symposium on Computers in the Practice of Building and Civil Engineering. Lahti, Finland. pp. 310–314. Retrieved 2015-11-29.
- "What is Data Modeling? | IBM". www.ibm.com. Retrieved 2023-07-04.
- "Climate Data Store Common Data Model". Copernicus Climate Data Store.
- Buontempo, Carlo; Burgess, Samantha N.; Dee, Dick; et al. (2022). "The Copernicus Climate Change Service: Climate Science in Action". Bulletin of the American Meteorological Society. 103 (12): E2669–E2687. :10.1175/BAMS-D-21-0315.1.
- Lublinsky, Boris (April 27, 2010). "HP, IBM, Software AG and TIBCO Releases Version 0.9 of the SOA Repository Specification". InfoQ.
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