中国の月探査プログラムにおいて、歴史的な転換点となったのが嫦娥5号(Chang'e 5)です。このミッションは、中国にとって初となる「月からのサンプルリターン(試料回収)」を目的として設計されました。月面から直接土壌を採取し、それを地球まで持ち帰るという極めて複雑なプロセスを完遂したことで、中国の宇宙開発能力は新たなステージへと到達しました。
このプロジェクトは、中国国家航天局(CNSA)が主導し、段階的な技術向上を目指す長期計画の一環として実施されました。まずは月周回(嫦娥1号・2号)、次に月面へのソフトランディングとローバー展開(嫦娥3号・4号)を経て、この嫦娥5号によるサンプル回収という高度な目標に挑んだのです。
Key Facts
- ミッション目的: 月面からの土壌サンプル採取および地球への帰還。
- 採取量: 約1,731gの月面サンプル(深さ約1mのコアサンプルを含む)。
- 打ち上げ: 2020年11月23日、海南島・文昌宇宙発射場より長征5号ロケットで打ち上げ。
- 着陸地点: 月の嵐の洋(Oceanus Procellarum)にあるリュンカー山(Mons Rümker)付近。
- 帰還日: 2020年12月16日、中国の内モンゴル自治区に着陸。
ミッションを支えた高度な機体構成
嫦娥5号は、単一の機体ではなく、役割の異なる4つのモジュールが組み合わさった複雑な構成となっていました。これにより、着陸、採取、離陸、そして地球への輸送という一連の工程を分担して遂行しました。
- 着陸機(Lander): 月面への安全な降下と着陸を担当。
- 上昇機(Ascender): 採取したサンプルを搭載し、月面から離陸して月軌道上の周回機とドッキングする役割。
- 周回機(Orbiter): 月軌道での待機および、サンプルを受け取った後の地球への帰還を制御。
- 再突入カプセル(Re-Entry Capsule): 地球の大気圏に再突入し、サンプルを安全に地上へ届ける容器。

打ち上げには、強力な推力を誇る長征5号ロケットが使用され、文昌宇宙発射場から宇宙へと送り出されました。

月面着陸からサンプル回収までの軌跡
2020年11月23日の打ち上げ後、機体は数回の軌道修正を経て11月28日に月周回軌道に投入されました。その後、着陸機と上昇機が周回機から分離し、12月1日に月面のリュンカー山付近へと降り立ちました。

月面に到達した機体は、表面の土壌だけでなく、地下約1メートルまで掘り進めてコアサンプルを採取するという高度な作業を行いました。採取されたサンプルは上昇機へと移され、12月3日に月面を離陸。月軌道上で周回機と自動的にランデブー・ドッキングし、サンプルを転送しました。

サンプルを転送し終えた上昇機は、宇宙ゴミ(スペースデブリ)となることを避けるため、あえて月面へと再落下させる措置が取られました。その後、サンプルを積んだ再突入カプセルのみが地球へと向かい、12月16日に内モンゴル自治区へ無事着陸しました。

科学的成果と今後の展望
回収された約1,731gのサンプルは、中国科学院地質地球物理研究所などで詳細な分析が行われました。この研究により、月面の地質学的歴史や、イルメナイト(チタン鉄鉱)に含まれるヘリウムの気泡など、貴重な科学的データが得られています。



![Helium-filled bubbles in ilmenite samples returned from Chang'e 5[48]](/images/29/b9/29b94f011a925cceeb5e175467e99f5a4dc9192f2e8f67fb7a5502597a0a7079.jpg)
これらの成果は、その後の月探査計画に大きな影響を与えています。例えば、嫦娥6号では同様のアーキテクチャを用いて、人類未踏の「月の裏側」からのサンプルリターンに挑戦し、2024年に成功を収めています。
ミッション概要まとめ
嫦娥5号の主要なスペックとスケジュールを以下の表にまとめます。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 打ち上げ日 | 2020年11月23日 |
| 打ち上げ重量 | 8,200 kg |
| 月面着陸日 | 2020年12月1日 |
| サンプル採取量 | 約1,731 g |
| 地球帰還日 | 2020年12月16日 |
| 使用ロケット | 長征5号 |
Frequently Asked Questions
嫦娥5号が採取したサンプルの量はどれくらいですか?
合計で約1,731gの月面土壌が採取されました。これには表面の土だけでなく、地下約1メートルから採取されたコアサンプルも含まれています。
月面から地球へどのようにサンプルを運んだのですか?
まず「上昇機」が月面から離陸して月軌道上の「周回機」とドッキングし、サンプルを転送しました。その後、「再突入カプセル」にサンプルを格納して地球へ向かい、大気圏を通過して着陸するという手順を踏みました。
着陸地点はどこでしたか?
月の「嵐の洋(Oceanus Procellarum)」地域にあるリュンカー山(Mons Rümker)付近に着陸しました。
このミッションの後の計画はどうなりましたか?
嫦娥5号で確立されたサンプルリターン技術を応用し、2024年には月の裏側からサンプルを回収する「嫦娥6号」ミッションが実施されました。
なぜ上昇機は月面に落下させたのですか?
サンプルを周回機に転送した後、不要となった上昇機が月軌道に残り続けると、将来的な宇宙ゴミ(スペースデブリ)となり、他の探査の妨げになる可能性があるためです。
References
📸 フォトギャラリー







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