Composite body, painted, and glazed bottle. Iran, 16th century (Metropolitan Museum of Art)
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セラミック釉薬陶磁器釉薬の種類焼成プロセス釉薬の成分

セラミック釉薬の科学と歴史機能性と美学の融合

🗓 2026年8月10日

陶磁器の表面を彩るガラス質のコーティング、それが釉薬(ゆうやく)です。釉薬は単なる装飾的な仕上げではなく、土器特有の多孔質(小さな穴が開いている状態)を塞いで液体を浸透させないようにする重要な役割を担っています。また、表面の強度を高め、汚れの付着を防ぐという実用的なメリットも提供します。

現代では、食器やタイル、建築用テラコッタ、さらには送電線の碍子(がいし)といった工業製品に至るまで、幅広い分野で釉薬が活用されています。仕上げによって、光沢のある質感から落ち着いたマットな質感まで、多様な表情を作り出すことが可能です。

Key Facts

  • 主目的: 防水性の確保、表面強度の向上、装飾的な色彩の付与。
  • 基本成分: ガラス形成剤であるシリカを中心に、融点を下げるフラックス(融剤)と、流れを防ぐアルミナで構成される。
  • 代表的な種類: 植物灰を用いる「灰釉」、低融点の「鉛釉」、不透明な白を出す「錫釉」などがある。
  • 装飾技法: 釉薬の下に描く「下絵付け」と、焼成後の釉薬の上に描く「上絵付け」に大別される。

釉薬の歴史的展開

釉薬の技術は、適切な材料の発見と、高温を維持できる焼成技術の進化とともに緩やかに発展しました。紀元前4千年紀には石材への施釉が見られ、古代エジプトのファイアンス(粘土ではなくフリットを主成分とする素材)は、焼成中に自然にガラス層を形成する自己施釉的な特性を持っていました。

紀元前1500年頃、中東やエジプトでアルカリ釉(灰釉を含む)が登場し、中国では長石を粉末にした釉薬が使われ始めました。紀元前100年頃には、世界的に鉛釉が普及しました。中国では戦国時代から漢代にかけて鉛釉の土器が作られ、さらに古い商代(紀元前1600年〜1046年)には、高温で焼成されるプロト・セラドン(青磁の原型)のせっ器が既に製造されていました。

日本においては、古墳時代の須恵器に自然に降りかかった灰による緑色の釉薬が見られます。その後、552年から794年にかけて多様な色の釉薬が導入され、唐三彩の影響を受けた色釉も一時的に流行しましたが、次第に日本独自の自然灰釉が広く浸透していきました。

Detail of dripping rice-straw ash glaze (top), Japan, 1852

イスラム圏の陶芸家たちは、8世紀頃から高度な施釉技術を発展させました。特に、鉛釉に錫を加えて不透明な白にする「錫釉」の開発は画期的であり、これが後にヨーロッパへ伝わり、イタリアのマイオリカやオランダのデルフトウェアへと繋がりました。

İznik tiles in the Enderûn Library, Topkapi Palace, Istanbul

釉薬の化学組成とメカニズム

釉薬の基本構造は、ガラスの主成分となるシリカ(二酸化ケイ素)に基づいています。しかし、シリカ単体では融点が高すぎるため、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの金属酸化物をフラックス(融剤)として加え、溶ける温度を下げます。また、溶けた釉薬が作品から流れ落ちないよう、粘性を高めるためにアルミナ(酸化アルミニウム)が添加されます。

色彩や質感の調整には、以下のような酸化物が使われます:

  • 着色剤: 酸化鉄、炭酸銅、炭酸コバルトなど。
  • 乳濁剤: 酸化錫や酸化ジルコニウム(不透明な白を作るため)。

特殊な手法として「塩釉」があります。これは高温の窯の中に塩やソーダ灰を投入し、発生したナトリウム蒸気が粘土中のアルミナやシリカと反応して、耐久性のあるナトリウムシリケートガラス層を形成させる手法です。ただし、現在は有害な塩化水素ガスが発生するため、環境上の理由からほとんど使われていません。

Sancai lead-glazes in a Tang dynasty tomb guardian

製造と塗布のプロセス

釉薬の原料には、長石や石英などの天然鉱物のほか、フリットと呼ばれる中間素材が使われます。フリットは、原料を一度溶かして急冷し、粉砕したものです。これにより、毒性のある成分を安定化させたり、溶解性を高めたりすることができます。

塗布方法は、スプレー、浸漬(ディッピング)、垂らし、刷毛塗りなどがあります。重要な点として、作品の底面(高台)は釉薬を付けないか、ワックスで防いでおく必要があります。これは、焼成中に釉薬が溶けて窯の棚板と作品が癒着するのを防ぐためです。

Composite body, painted, and glazed bottle. Iran, 16th century (Metropolitan Museum of Art)

焼成には、一度の焼成で仕上げる「生掛け」と、素焼き後に釉薬を掛けて再度焼く「二度焼き」があります。窯の中で温度が上がると、釉薬成分が溶融し、粘土体と化学的に結合して、緻密で不浸透なガラス層が形成されます。

Glazed stupa model, Yuan dynasty

装飾技法と色彩の表現

釉薬を用いた装飾は、塗布するタイミングによって大きく3つの手法に分かれます。

1. 下絵付け(Underglaze)

素焼き前または素焼き後の素地に絵を描き、その上から透明な釉薬を掛けて焼成します。顔料が釉薬の下に封じ込められるため、鮮やかな発色が持続します。代表例は中国の青花(染付)で、酸化コバルトによる深い青色が特徴です。

Chinese celadon shrine; coloured glaze, with the figure left unglazed. Ming dynasty, 1300-1400

2. 上絵付け(Overglaze)

一度釉薬を掛けて焼成した(本焼き)後、その表面にエナメル状の顔料で描き、再び低温で焼成します。低温で焼くため、高温に耐えられない多様な色使いが可能になります。

3. 中絵付け(Inglaze)

焼成前の釉薬の上に直接絵を描き、釉薬と一緒に焼成させる手法です。マイオリカなどの錫釉陶器でよく見られます。

日本の伊万里焼や中国の豆彩・五彩などは、これらの技法を組み合わせて複雑で豪華な装飾を実現しています。

安全性と環境への影響

歴史的に、鉛やカドミウムは低融点での光沢を出すために多用されてきました。しかし、不適切な配合や焼成が行われた場合、酸性の食品(柑橘類やコーヒーなど)に触れることでこれらの重金属が溶け出し、健康被害を引き起こすリスクがあります。

また、バリウムを用いて「バリウムブルー」という色を作ることがありますが、バリウムには毒性があるため、現在はより安全なストロンチウムへの代替が進んでいます。環境面では、リチウムやコバルトなどの鉱物採掘による環境破壊や、焼成時に放出されるフッ素・硫黄酸化物などのガス対策が課題となっています。

釉薬の種類 主な成分/特徴 主な用途・例
灰釉(かいゆう) 植物灰(カリウム、石灰) 東アジアの伝統陶器、須恵器
鉛釉(えんゆう) 酸化鉛(低融点、高光沢) 唐三彩、ヴィクトリア朝マイオリカ
錫釉(すずゆう) 酸化錫(不透明な白) デルフトウェア、イスラム陶器
塩釉(えんゆう) 塩(ナトリウム蒸気) ヨーロッパのせっ器
長石釉(ちょうせきゆう) 長石(高温焼成) 磁器、白磁

Frequently Asked Questions

釉薬を塗らないとどうなりますか?

釉薬を塗らない陶器(素焼きの状態など)は多孔質であるため、水や液体が染み込みやすく、汚れも付着しやすくなります。また、表面がざらついており、強度も釉薬がある場合に比べて低くなります。

「下絵付け」と「上絵付け」の最大の違いは何ですか?

最大の違いは、装飾を施すタイミングと焼成回数です。下絵付けは釉薬の下に描き、本焼きと一緒に仕上げます。一方、上絵付けは本焼き後の表面に描き、さらに低温で追加の焼成を行うため、より多彩な色表現が可能です。

なぜ作品の底には釉薬を塗らないのですか?

焼成中に釉薬が溶けて液体状になると、作品が窯の棚板に張り付いてしまうためです。これを防ぐために、底面(高台)はあえて釉薬を付けないか、剥がし取る処理を行います。

鉛釉は現在でも使われていますか?

使用されていますが、健康への影響から厳格な規制があります。現代の商業用釉薬では、鉛をシリカと分子レベルで結合させたり、フリット化したりすることで、溶け出し(リーチング)のリスクを最小限に抑える工夫がなされています。

フリットとは具体的に何ですか?

釉薬の原料を一度高温で溶かしてガラス状にし、それを水で急冷して砕いた粉末のことです。これにより、水に溶けやすい成分を安定させたり、化学反応を事前に完了させたりすることで、最終的な焼成を安定させることができます。

References

  1. Division, Company Statistics. "Statistics of U.S. Businesses Main Page". Archived from 2015 the original on 26 November 2015. {{}}: Check |url= value ()
  2. C D Fortnum, 1875, Maiolica, Chapter II on Enamelled or Stanniferous Glazed Wares "It was found that by the addition of a certain portion of the oxide of tin to the composition of glass and oxide of lead the character of the glaze entirely alters. Instead of being translucent it becomes, on fusion, an opaque and beautifully white enamel..."
  3. Paul T. Craddock (2009). Scientific Investigation of Copies, Fakes and Forgeries. Routledge. p. 207.  . Pottery only began to be glazed from the mid second millennium BC, coincident with the first production of glass.
  4. Daiheng, Gao (2002). Chinese Architecture – The Lia, Song, Xi Xia and Jin Dynasties (English ed.). Yale University Press. pp. 166, 183.  .
  5. Zhiyan, Li (2002). Chinese Ceramics -- From the Paleolithic Period through the Qing Dynasty (English ed.). New York & London, Beijing: Yale University Press, Foreign Languages Press. pp. 144, 145, 152.  .
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  7. Madan, Gaurav (2005). S.Chands Success Guide (Q&A) Inorganic Chemistry. S. Chand Publishing.  .
  8. Dictionary Of Ceramics. Arthur Dodd & David Murfin. 3rd edition. The Institute Of Minerals. 1994.
  9. The Potter's Directory of Shape and Form. Neal French. 1998.
  10. Ryan, W. and Radford, C. (1987). Whitewares: Production, Testing and Quality Control. Pergamon Press.

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