『ウンデッドニーに我が心を埋めよ』が描いたアメリカ西部の残酷な真実

アメリカ西部の歴史といえば、多くの人が勇敢な開拓者やロマンあふれるフロンティア精神を思い浮かべるかもしれません。しかし、1970年に出版されたディー・ブラウンの著書『ウンデッドニーに我が心を埋めよ(Bury My Heart at Wounded Knee)』は、そうした美化された神話を根底から覆しました。本書は、19世紀後半に展開されたアメリカの領土拡張が、そこに暮らしていた先住民たちにどれほど壊滅的な打撃を与えたかを克明に描き出したノンフィクションの金字塔です。

Key Facts

  • 視点の転換:開拓者側ではなく、犠牲となったネイティブアメリカンの視点から歴史を再構築した。
  • 主題:強制移住、絶え間ない戦争、そして先住民の文化や宗教を抹消しようとした連邦政府の政策を告発。
  • 社会的影響:アメリカ・インディアン運動(AIM)の盛り上がりやベトナム戦争への批判的視点と共鳴し、世界的なベストセラーとなった。
  • 世界的普及:17以上の言語に翻訳され、累計約400万部を売り上げるなど、歴史認識に大きな影響を与えた。

作品の構成と歴史的アプローチ

著者のディー・ブラウンは、もともとアーカンソー州で育ち、図書館員としてのキャリアを通じてアメリカ西部の歴史に深く精通していました。彼は、あえて「東向きに(先住民の視点で)」歴史を読み直すことを読者に促しました。

初期の接触から衝突へ

物語の導入部では、1492年のコロンブス到達から1860年までの流れを概観しています。ブラウンは、初期の先住民たちがヨーロッパ人に対して非常に寛容で平和的な態度を取っていたことを強調します。しかし、入植者が増え、土地の強奪が進むにつれ、生存をかけた抵抗が始まったと説いています。特に「マニフェスト・デスティニー(明白な天命)」という思想の下で、先住民の土地を奪い、彼らを「永久的なインディアン国境」へと追いやっていった過程を批判的に記述しています。

部族ごとの悲劇的な記録

1860年以降の記述では、個別の部族に焦点を当てた詳細なエピソードが展開されます。ナバホ、サンティー・ダコタ、フンクパパ・ラコタ、オグララ・ラコタ、シャイアン、アパッチといった部族たちが、どのように政府の裏切りや軍事攻撃にさらされたかが描かれています。本書のタイトルは、スティーブン・ヴィンセント・ベネットの詩から引用されており、先住民への最後の大規模攻撃が行われた「ウンデッドニー」という地名に、失われた魂への哀悼が込められています。

項目 詳細
著者 ディー・ブラウン(Dee Brown)
初版刊行年 1970年
ジャンル 歴史ノンフィクション
主なテーマ アメリカ西部の拡大と先住民の虐殺・文化破壊
翻訳言語数 17言語以上

時代背景と社会的反響

本書がこれほどまでの影響力を持ったのは、出版当時のアメリカ社会が激動期にあったためです。

権利回復運動との共鳴

1968年に結成されたアメリカ・インディアン運動(AIM)による活動が激化していた時期に本書は登場しました。アルカトラズ島の占拠や、1973年のウンデッドニーでの抗議行動など、先住民による権利回復への熱望が社会的に高まっており、ブラウンの記述は彼らの主張を裏付ける歴史的根拠として受け入れられました。

ベトナム戦争と道徳的葛藤

また、当時のアメリカはベトナム戦争の渦中にあり、特に「マイライ虐殺」などの軍による暴挙が明るみに出ていました。批評家や読者は、19世紀の先住民に対する虐殺と、現代のベトナムでの惨劇に共通する「アメリカの傲慢さ」を見出しました。これにより、本書は単なる歴史書ではなく、国家の道徳的欠陥を問い直す鏡のような存在となったのです。

評価と批判:歴史的意義をめぐって

多くの読者やジャーナリストから絶賛された一方で、専門的な歴史学者の間では議論を呼びました。

  • 肯定的な評価:一次資料や評議会記録を駆使した緻密な構成が評価され、それまで無視されてきた「敗者の歴史」を白日の下に晒した点が高く評価されました。
  • 批判的な視点:一部の学者は、特定の視点を強調しすぎている点や、先住民の歴史を「衰退と消滅」の物語に還元してしまった(消えゆくインディアン神話の再生産)と指摘しています。
  • 対抗言論:後にネイティブアメリカンであるデイヴィッド・トロイヤーは、死や破壊ではなく「生」に焦点を当てた『The Heartbeat of Wounded Knee』を執筆し、ブラウンの描いた「終焉」という物語に新たな視点を提示しました。

メディア展開と後世への影響

本書の内容は、後の世代に伝えるため様々な形態でアダプテーションされました。2007年にはHBOによってテレビ映画化され、エミー賞を6部門で受賞するなど高い評価を得ました。また、中学生向けに構成し直した児童書『The Saga of the Sioux』も出版され、若い世代への歴史教育に寄与しています。

Frequently Asked Questions

この本のタイトルにある「ウンデッドニー」とは何ですか?

ウンデッドニーは、アメリカ陸軍がネイティブアメリカンに対して行った最後の大規模な攻撃が行われた場所です。また、伝説的な指導者クレイジー・ホースの埋葬地の一つとも言われており、先住民にとって深い悲しみと喪失の象徴となっています。

著者のディー・ブラウンは先住民だったのでしょうか?

いいえ、彼は白人のアメリカ人です。しかし、彼はあえて先住民の視点から歴史を記述することにこだわり、彼らを「歴史の犠牲者」として描き出すことで、従来の白人中心の歴史観を覆そうと試みました。

この本は現在でも歴史的な資料として信頼されていますか?

一般的に非常に影響力のある作品とされていますが、現代の歴史学では、先住民を単なる「犠牲者」として描くのではなく、彼らの主体性や生存し続ける力に注目する傾向があります。そのため、批判的な視点も含めて併読することが推奨されています。

どのような部族について詳しく書かれていますか?

主にナバホ、サンティー・ダコタ、フンクパパ・ラコタ、オグララ・ラコタ、シャイアン、アパッチなどの部族について深く掘り下げており、その他の部族についても言及されています。

この本がベストセラーになった最大の理由は何だと思いますか?

単に歴史的事実を並べただけでなく、ベトナム戦争や公民権運動といった当時の社会情勢と合致し、アメリカ人が自国のアイデンティティや道徳的な矛盾に向き合わざるを得ないタイミングで出版されたことが大きな要因と考えられます。