カトリック教会の豊かな精神的遺産を現代に伝えるため、高品質な書籍制作にこだわる出版社があります。それが、2002年にロンドンで設立されたバロニウス・プレス(Baronius Press)です。元セント・オースティン・プレス編集者のアシュリー・ペイバー氏ら、出版・印刷業界に精通した若きカトリック信徒たちによって創設されました。
社名は、16世紀から17世紀にかけて活躍したナポリ出身の教会史家、チェザーレ・バロニウス枢機卿に由来しています。また、カトリック司祭の伝統的な装いであるカソック(司祭服)とビレッタ(四角帽子)を組み合わせたロゴマークを掲げ、そのアイデンティティを明確にしています。
Key Facts
- 設立: 2002年、イギリス・ロンドンにて。
- 理念: 古典的なカトリック書籍を現代的な組版で再構成し、視認性と装丁の質を向上させること。
- 主要実績: デジタル組版による初のドゥアイ・レイムス聖書や、有効な認可(インプリマトゥール)を持つ1962年ミサ典書の出版。
- 出版範囲: 聖書、典礼書、教義書、および聖人たちの古典的著作。
出版へのこだわりと革新的なアプローチ
バロニウス・プレスが掲げた最大の目標は、伝統的なカトリック書籍の質を高め、より幅広い読者に手に取ってもらうことでした。単に古い書籍をそのまま複製する「ファクシミリ版」ではなく、再組版(Retypesetting)という手法を採用した点が特徴です。
再組版を行うことで、現代的なレイアウトの導入とテキストの明瞭化が可能となり、読者の利便性が飛躍的に向上しました。さらに、高級レザーなどの高品質な素材を用いた装丁を施すことで、保存性と美しさを兼ね備えた書籍を実現しています。
聖書出版の展開
同社の記念すべき第一作は、デジタル組版による「ドゥアイ・レイムス聖書」でした。その後、携帯用のポケット版や、詩編と新約聖書をまとめた版、さらには特大サイズ版へと展開。2008年には、旧約聖書の付録(マナセの祈り、第3・第4エズラ書)を含む「ドゥアイ・レイムス/クレメンス・ウルガタ並行版」をリリースし、ラインナップを拡充しました。
典礼書と教義書の重要性
2004年には、聖ピエトロ司祭兄弟団の協力のもと、伝統的なローマ・ミサで使用される「1962年ミサ典書」を出版しました。これは、認可(インプリマトゥール)を得た伝統的ミサ用典礼書としては、実に35年以上ぶりの出版となりました。その後、教皇ベネディクト16世の使徒書簡『スムムルム・ポンティフィクム』に合わせた「Motu Proprio版」も刊行され、現在でも有効な認可を持つ数少ない1962年ミサ典書として高く評価されています。
また、1961年の典礼形式(editio typica)に準拠した「ローマ聖務日課書(ラテン語・英語併記)」や「聖母マリアの小聖務日課」なども出版。特に後者は、必要なグレゴリオ聖歌をすべて収録した初の書籍として注目を集めました。
学術的貢献と著作権を巡る法的争い
バロニウス・プレスは、信仰の実践だけでなく、神学的研究への貢献も重視しています。2017年には、ロバート・ファスティジ氏の編集によるルードヴィヒ・オット著『カトリック教義の基礎(Fundamentals of Catholic Dogma)』の改訂版を出版しました。この版は、ドイツ語原典の最新の変更点や、カトリック教会のカテキズムへの参照を盛り込んだ精緻な内容となっています。
一方で、この『カトリック教義の基礎』の英語翻訳版の著作権を巡り、米国の出版社TAN Books(および親会社のSaint Benedict Press)との間で法的な争いがありました。バロニウス・プレスは、自社が取得した独占的権利を侵害されたとして2016年に提訴。2019年の和解により、TAN/SBP社は同書および、フランソワ・トロシュやレジナルド・ガリグー=ラグランジュらの著作を含む、バロニウス・プレスが権利を持つ複数の作品の出版を停止することとなりました。
主要出版物まとめ
| カテゴリー | 代表的なタイトル |
|---|---|
| 聖書 | ドゥアイ・レイムス聖書、ノックス訳ウルガタ聖書 |
| 典礼書 | 1962年ローマ典礼ミサ典書、1961年ローマ聖務日課書、聖母マリアの小聖務日課 |
| 教義・神学 | ルードヴィヒ・オット『カトリック教義の基礎』、トレント公会議カテキズム、ボルチモア・カテキズム |
| 霊的古典 | 十字聖ヨハネ『魂の暗い夜』、アビラ聖テレサ『完全への道』、リジューの聖テレーズ『ひとつの魂の物語』、トマス・ア・ケンピス『キリストにならう』 |
Frequently Asked Questions
バロニウス・プレスが他の出版社と異なる点は何ですか?
単なる古書の再版ではなく、現代的なデジタル組版を用いてテキストを再構成し、視認性を高めている点です。また、伝統的なカトリックの典礼や教義に厳格に準拠し、適切な認可(インプリマトゥール)を得た書籍を制作している点に特徴があります。
「インプリマトゥール」とは何を意味しますか?
カトリック教会において、司教などの権威者が、その書籍の内容に信仰や道徳上の誤りがないことを確認し、出版を許可したことを示す公式な認可のことです。
1962年ミサ典書にはどのような特徴がありますか?
伝統的なローマ・ミサ(トリエント・ミサ)で使用される典礼書です。バロニウス・プレス版は、有効な認可を得て出版されており、特に教皇ベネディクト16世の指針に基づいたエディションが提供されています。
どのような種類の書籍を出版していますか?
聖書やミサ典書などの典礼書から、聖人たちの霊的な古典、そして詳細なカトリック教義書まで、幅広く伝統的なカトリック文献をカバーしています。ハードカバーの豪華本から、親しみやすいペーパーバックの「クリスチャン・クラシックス」シリーズまで展開しています。
著作権に関する訴訟の結果はどうなりましたか?
2019年の和解により、相手方であったTAN Books/Saint Benedict Press社は、『カトリック教義の基礎』およびバロニウス・プレスが独占的権利を持つその他の著作物の出版を停止することとなりました。
References
- "About Baronius Press Ltd". baroniuspress.com. Retrieved 12 October 2019.
- Baronius Press, Ltd. v. Saint Benedict Press, LLC (District Court, WD North Carolina 29 September 2016), Text.
- Hirtle, Peter B. (2008). "Copyright Renewal, Copyright Restoration, and the Difficulty of Determining Copyright Status". D-Lib Magazine. 14 (7/8).