かつてのフロリダ州には、過酷な奴隷制度から逃れた人々が築いた、希望と自立の象徴ともいえる共同体が存在しました。その中でも特に規模が大きく、繁栄したのがアンゴラと呼ばれる集落です。ここは、逃亡奴隷(マルーン)たちが先住民族のレッドスティックス族と密接な関係を築き、農業を通じて豊かな生活を営んでいた場所でした。
当時のスペイン領フロリダは、土地を奪われた先住民や自由を求める黒人にとっての聖域となっていました。一般的に「地下鉄道」は北部のカナダ方面へ向かうルートが有名ですが、この時代には南のフロリダを目指して逃れる人々も多く存在していたのです。

Key Facts
- アンゴラの規模: 当時の逃亡奴隷集落としては異例の600〜750人が居住していた。
- 同盟関係: タンパベイ地域のレッドスティックス族(先住民)と強い協力関係にあった。
- 壊滅の理由: 1821年にアンドリュー・ジャクソンによる攻撃を受け、焼き払われた。
- 地理的特徴: オイスター川沿い(現在のサラソタベイやマナティー川周辺)に位置していたとされる。
- 歴史的意義: 米国における黒人自立コミュニティの極めて重要な事例の一つである。
自由への避難所としてのフロリダ
植民地時代から米国独立後の数十年にわたり、スペイン統治下のフロリダは、抑圧から逃れる人々にとっての重要な拠点でした。ここでは、さまざまな形態の自律的なマルーン共同体が形成されました。
初期の共同体と変遷
最初期の事例として、小規模ながら自律的な黒人コミュニティであったフォート・モーゼが挙げられますが、これは1763年に放棄されました。その後、1815年には1812年戦争に従軍した黒人退役軍人(コロニアル・マリンズ)約80名がタンパベイ地域に運ばれ、新たな基盤を築きました。
また、アパラチコラ川のプロスペクト・ブラフにも共同体がありましたが、1816年にエドモンド・P・ゲインズ将軍率いる軍によって破壊されました。この悲劇を逃れた人々はスワニー川流域へ移動し、セミノールの指導者ボウレッグスの町周辺に再び集落を形成しました。彼らは第一次セミノール戦争におけるアンドリュー・ジャクソンの侵攻に対しても、粘り強く抵抗し、集落の避難を成功させた記録が残っています。
繁栄した集落「アンゴラ」の実態
歴史家のカンター・ブラウン・ジュニアによれば、当時の多くのマルーン集落は、敵に見つからないよう極めて小規模に維持されていました。しかし、アンゴラは600人から750人という驚異的な人口を抱えており、彼らが高度な組織力と能力を持っていたことを証明しています。
立地と当時の様子
記録によると、アンゴラはタンパベイから8〜9マイル離れたオイスター川の北側に位置していました。1828年の調査記録では、この地域の豊かな土地に15軒の家屋の跡があり、トマトやリマ豆、芳香植物などが自生していたことが記されています。これは、彼らが単に生存していただけでなく、計画的な農業を行い、豊かな生活を営んでいたことを示唆しています。
| 共同体名 | 主な構成員 | 特徴・結末 |
|---|---|---|
| アンゴラ | マルーン、レッドスティックス族 | 大規模な農業共同体。1821年に破壊される。 |
| フォート・モーゼ | 逃亡奴隷 | 米国初の自律的黒人町。1763年に放棄。 |
| プロスペクト・ブラフ | コロニアル・マリンズ等 | 1816年の「ネグロ・フォートの戦い」で破壊。 |
| ボウレッグス・タウン | マルーン、セミノール族 | スワニー川流域に形成。現在は考古学的調査が進む。 |
破壊とその後:散り散りになった人々
1821年、フロリダの事実上の領土知事となったアンドリュー・ジャクソンは、タンパベイ近郊のマルーンやレッドスティックス族を排除し、逃亡奴隷を再び拘束することを決定しました。ジャクソンは米国政府の正式な承認を得ないまま、同盟関係にあったカウエタ・クリーク族を利用してアンゴラへの襲撃を命じ、集落は完全に焼き払われました。
この襲撃による恐怖から、多くの人々がケープ・フロリダを経由してバハマへ逃れました。特に元コロニアル・マリンズの人々は、イギリス領での保護を約束されていたため、バハマのアンドロス島に「レッド・ベイズ」という新たな定住地を築きました。
生き残ったレッドスティックス族の一部は、ピース川上流のミナッティというコミュニティを形成しました。また、第二次セミノール戦争で追われた多くのマルーンやブラックセミノールは、セミノール族と共に戦い、後にオクラホマ州のインディアン領土や、遠くメキシコのコアウイラ州エル・ナシミエントまで移住しました。
現代に受け継がれる記憶と考古学
アンゴラの正確な全容はまだ解明されていませんが、ブラデントンにあるマナティー・ミネラル・スプリングス公園などで当時の遺物が発見されています。1967年にはリトル・マナティー川の堤防から、アフリカの影響を受けたマホガニー製の太鼓が発見され、現在はフロリダ自然史博物館に保管されています。
2019年には、国立公園局がこの地を「自由へのネットワーク(Network to Freedom)」に登録しました。また、2018年7月には、バハマへ逃れた人々の末裔も参加した「バック・トゥ・アンゴラ・フェスティバル」が開催され、失われた共同体の歴史を称えています。
Frequently Asked Questions
アンゴラとはどのような場所でしたか?
19世紀初頭のフロリダ州に存在した、逃亡奴隷(マルーン)と先住民レッドスティックス族による自律的な農業共同体です。当時の基準では非常に大規模な集落であり、高い自立能力を持っていました。
なぜアンゴラは破壊されたのですか?
1821年、アンドリュー・ジャクソンが逃亡奴隷を再び奴隷制に戻し、自由な共同体を排除しようとしたためです。彼はクリーク族の同盟者を使い、集落を焼き払いました。
破壊後、人々はどこへ向かったのですか?
多くの人々がバハマへ逃れ、アンドロス島に新たな集落を築きました。また、一部はフロリダ国内の別の地域へ移動し、最終的にオクラホマ州やメキシコまで移住した人々もいました。
現在、アンゴラの跡地で何が見つかっていますか?
マナティー・ミネラル・スプリングス公園などで考古学的な遺物が発見されており、特にアフリカ文化の影響が見られるマホガニー製の太鼓などが重要な資料となっています。
「地下鉄道」との関係はありますか?
一般的に地下鉄道は北を目指すルートを指しますが、当時のフロリダはスペイン領であったため、南へ向かって自由を求める人々にとっての避難路(南向きの地下鉄道)として機能していました。
References
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