Hába in 1957
← ホームへ戻る

アロイス・ハーバ微分音音楽の先駆者が切り拓いた新しい音の世界

🗓 2026年8月14日

西洋音楽の伝統的な12音階という枠組みを超え、「音と音の間」にある未知の領域を追求した作曲家がいました。チェコ出身のアロイス・ハーバ(1893-1973)は、微分音音楽(半音よりもさらに狭い音程を用いる音楽)の世界的権威であり、現代音楽における最も大胆な革新者の一人です。

彼は単に新しい理論を唱えただけでなく、その理論を具現化するための特殊な楽器まで設計し、作曲・教育の両面から音楽言語の拡張に人生を捧げました。本記事では、伝統への挑戦を続けたハーバの生涯とその独創的な音楽世界を紐解きます。

Key Facts

  • 微分音の探求: 四分音(1/4音)を中心に、六分音、五分音、十二分音など多様な音階を導入した。
  • 楽器の革新: 四分音ピアノや六分音ハーモニウムなど、微分音を演奏するための専用楽器を設計・製作させた。
  • アテマティック様式: 特定の主題(テーマ)を繰り返さない「非主題的」な構成手法を追求した。
  • 多作なキャリア: 16曲の弦楽四重奏曲を含む103の作品番号(Opus)を持つ多作な作曲家であった。
  • 国際的な影響: プラハ音楽院で教授を務め、世界各地から学生を受け入れ、現代音楽の普及に貢献した。

音楽的覚醒と理論の形成

ハーバの音楽的才能は幼少期に現れ、5歳にして絶対音感を持っていることが判明しました。故郷モラヴィア地方の民族音楽や教会の聖歌に親しむ中で、彼はチェコ語の持つ独特なピッチやリズム、音色に強い関心を抱くようになります。

青年期には、ヨーロッパの音楽体系が唯一の正解ではないことを学び、既存のルールに縛られない独自の視点を養いました。その後、プラハでヴィテズスラフ・ノヴァークに師事し、ドビュッシーやシュトラウスなどの作品分析を通じて、より前衛的な表現への道を模索しました。

Hába in 1957

ウィーンとベルリンでの飛躍

第一次世界大戦中、ウィーンに滞在したハーバはフランツ・シュレッカーに師事し、その急進的な傾向を強めていきます。ここで彼は、2台のピアノを四分音ずらして調律させるという、初の四分音作品『組曲(Suite)』を書き上げました。また、シェーンベルクの「非主題的(アテマティック)」なスタイルからも強い影響を受けています。

その後、活動拠点をベルリンに移すと、フェルッチョ・ブゾーニとの出会いにより六分音体系への関心を深めました。しかし、ナチスの台頭により弾圧を受けたことで、彼は再びプラハへと戻ることになります。

微分音の具現化:専用楽器の開発と実践

ハーバにとって、理論を実際の音として提示することは不可欠でした。通常の楽器では演奏不可能な微分音を実現するため、彼は楽器製作会社と協力し、特殊なキーボード楽器を開発しました。

特に1924年から1925年にかけて製作された四分音ピアノは、従来の半音階の間にさらに音を挿入することで、極めて緻密な音程表現を可能にしました。

Quarter-tone grand piano (1924) designed by Hába, built by Förster firm; it consists of two independent bodies, features the three manuals (aux. short key/quarter tone higher/normal).(exhibited at Czech Museum of Music)[5]

さらに、ブゾーニの設計を参考にした六分音ハーモニウムなども製作され、これらの楽器を用いて、より複雑な音階を用いた作品群が書き進められました。

Sixth-tone harmonium (1937) designed by Hába, built by Förster firm; it features triple-reed, three manuals, two knee levers, and six registers.(exhibited at Czech Museum of Music)[5]

オペラ作品と政治的信念

ハーバの革新性はオペラ作品にも及びました。1931年の『母(Matka)』では四分音のクラリネットやトランペットを導入し、国際的な名声を確立しました。また、十二分音体系を用いた『新しい土地(Nová země)』や、六分音体系の『汝の王国が来ますように(Přijď království tvé)』など、作品ごとに異なる音階システムを使い分けました。

同時に、彼は熱烈な共産主義者でもあり、作品を通じて社会主義的な視点を表現しました。そのため、一部の作品は当時の文化省によってプロパガンダであるとして上演を禁止されるなどの困難にも直面しました。

晩年と音楽史への遺産

第二次世界大戦中のナチス占領下では、作品の上演が禁止され、教授職も奪われるという苦難の時代を過ごしました。戦後、共産主義政権下では一時的にスタイルを簡略化し、体制に沿った作風を強いられた時期もありましたが、1953年の退職後は再び自由な実験的探求に戻りました。

1960年代には、第16番弦楽四重奏曲において「五分音」を用いるなど、死の直前まで音の可能性を追求し続けました。彼の挑戦は、単なる奇抜な試みではなく、民族音楽に根ざした「音楽言語の豊穣化」を目指したものでした。

アロイス・ハーバが追求した主な音階システム
音階システム 特徴 代表的な適用例
四分音 (Quarter-tone) 半音をさらに半分に分けた音程 弦楽四重奏曲 第2番、オペラ『母』
六分音 (Sixth-tone) 半音を3等分した音程 弦楽四重奏曲 第5, 10, 11番、オペラ『汝の王国が来ますように』
五分音 (Fifth-tone) 半音を5等分した音程 弦楽四重奏曲 第16番
十二分音 (Twelfth-tone) 半音を12等分した極めて狭い音程 オペラ『新しい土地』

Frequently Asked Questions

微分音音楽とは具体的にどのような音楽ですか?

一般的な西洋音楽で使用される「半音」よりもさらに狭い音程(四分音や六分音など)を使用する音楽のことです。これにより、従来の音階では表現できなかった繊細なニュアンスや、全く新しい響きを生み出すことができます。

なぜハーバは特殊な楽器を作る必要があったのですか?

標準的なピアノや管楽器は12音階(半音単位)で設計されているため、物理的に四分音や六分音を正確に演奏することができないからです。彼の理論を正確に音にするためには、鍵盤の数や管の構造を変更した専用の楽器が必要でした。

アテマティック」な構成とは何ですか?

音楽における「テーマ(主題)」の繰り返しを避ける手法のことです。一度提示されたメロディを何度も繰り返して展開させる伝統的な形式を否定し、常に変化し続ける流動的な音楽構造を目指しました。

ハーバの音楽は現代の音楽にどのような影響を与えましたか?

彼は「音の境界」を広げた先駆者であり、その実験精神は後の現代音楽や電子音楽、また民族音楽の学術的な分析における音程の捉え方に大きな影響を与えました。未知の領域へ踏み出す勇気は、多くの後進の作曲家にインスピレーションを与え続けています。

References

  1. Myles Lee Skinner, "Toward a Quarter-Tone Syntax: Analyses of Selected Works by Blackwood, Haba, Ives and Wyschnegradsky", PhD diss. (Buffalo: State University of New York at Buffalo, 2006; Ann Arbor: ProQuest/UMI, 2007), p. 15 Archived 2016-04-05 at the .
  2. Patricia Strange and , The Contemporary Violin: Extended Performance Techniques (, & : , 2001), p. 165.
  3. Lubomír Spurný and Jiří Vysloužil, Alois Hába: A Catalogue of the Music and Writings, trans. Paul Victor Christiansen (Prague: Koniasch Latin Press, 2010).
  4. David Ewen, The World of Twentieth-Century Music (: , 1968).[]
  5. Bohuslav Čížek. "Quarter-Tone and Sixth-Tone Musical Instruments Built according to Designs by Alois Hába". Musicalia (1–2 / 2013). Journal of Czech Museum of Music: 43-52.
  6. Editors of the Encyclopædia Britannica, "Alois Hába: Czech Composer", Encyclopædia Britannica Online (accessed 12 September 2016).
  7. Vlasta Reittererová, "Alois Hába", Český rozhlas website (accessed 12 September 2016).
  8. Joe Monzo, "Alois Hába – List of works" adapted in 1999 from Jirí Vyslouzil, Alois Hába: zivot a dílo, Prague, 1974.
  9. "Alois Hába" (discography), Discogs (accessed 12 September 2016).
  10. Distler, Jed. Review of Hába - 'The Complete Piano Works' Supraphon SU4357-2, June 2025, p70.

📸 フォトギャラリー

Hába in 1957
Quarter-tone grand piano (1924) designed by Hába, built by Förster firm; it consists of two independent bodies, features the three manuals (aux. short key/quarter tone higher/normal).(exhibited at Czech Museum of Music)[5]
Sixth-tone harmonium (1937) designed by Hába, built by Förster firm; it features triple-reed, three manuals, two knee levers, and six registers.(exhibited at Czech Museum of Music)[5]