1960年代、人類が月を目指して競っていた時代に、ソビエト連邦が打ち上げた無人探査機「ゾンド6号Soyuz 7K-L1 s/n 12)」は、極めて野心的な目的を持っていました。このミッションの主眼は、月を周回して高精細な写真を撮影し、再び地球へと戻ってくるという高度な航行技術の実証にありました。

主要な事実(Key Facts)

  • ミッション目的: 月の表面をカラーおよび白黒で撮影し、地球へ帰還すること。
  • 月への接近: 1968年11月14日に月を周回し、最短距離2,420kmまで接近。
  • 撮影成果: パンクロマチックフィルムを用い、月面(表側および裏側)の立体写真を含む画像を撮影。
  • 帰還方式: 減速負荷を抑えるための「スキップ再突入」方式を採用。
  • 結末: 機体トラブルにより機内気圧が低下し、積載されていた動物は死亡。最終的にカザフスタンに墜落。

月周回ミッションの遂行と成果

ゾンド6号の心臓部であるL1誘導システムは、開発に多大な時間を要しましたが、本ミッションでは完璧に機能しました。1968年11月14日、探査機は月を周回し、最短で2,420kmまで接近することに成功しました。

撮影にはパンクロマチックフィルム(全色感光性フィルム)が使用され、130mm×180mmサイズの写真が記録されました。撮影距離は約3,300kmから11,000kmに及び、月の表側と裏側の両方を捉えただけでなく、一部の画像では立体視(ステレオ写真)が可能なデータが得られました。

外部からの追跡と通信の謎

この飛行は、イギリスのジョドレルバンク天文台によって詳細に追跡されていました。天文台はテレメトリデータ(遠隔測定データ)と音声通信を傍受していましたが、後の分析で、送信されていたデータは実際のセンサー値ではなくシミュレーションされたものである可能性が浮上しました。また、音声についても、録音テープの再生か、あるいは探査機を介した中継であったと考えられています。これらの貴重な信号記録は、2018年に同天文台のアーカイブから再発見されました。

帰還路でのトラブルと致命的な事故

地球への帰還プロセスにおいて、ゾンド6号は深刻な問題に直面しました。過酸化水素タンクの温度低下が懸念されたため、タンクを太陽光に直接さらすように機体を回転させました。この処置で温度上昇には成功しましたが、副作用として再突入カプセルのドアシールが損傷し、機内の気圧が低下し始めるという事態を招きました。

地球への再突入には、速度を効率的に落とし、減速時の負荷(G)を4〜7gに抑える「スキップ再突入」という特殊な手法が用いられました。しかし、1968年11月17日の再突入数時間前、カプセル内の気圧が大幅に低下し、搭載されていた実験動物はすべて死亡しました。

さらに、高度がまだ数マイルあった段階でパラシュートが不適切に射出されるという二次災害が発生しました。その結果、機体は予定していた着陸地点に近いカザフスタンの地表に激突しました。

事後調査と真相

墜落後、機体には自爆装置が搭載されていたため、まずその除去作業が行われ、その後になってようやくフィルムマガジンの回収に至りました。ソ連側は回収した写真を公開し、ミッションは完全に成功したと主張しました。

しかし、後の国家委員会による調査で、事故の真因が判明します。パラシュートを誤作動させたのは「コロナ放電」という現象であり、これがカプセル内の圧力が25mmHg(3.3kPa)という特定の条件下で発生したことが突き止められました。もしカプセルが完全に真空状態まで減圧されていれば、この放電は起こらず、事故は回避できた可能性がありました。

ミッション概要まとめ

ゾンド6号 ミッション詳細
項目 詳細内容
機体名称 Soyuz 7K-L1 (s/n 12)
月周回 1968年11月14日
最短接近距離 2,420 km
撮影フィルム パンクロマチックフィルム (130 x 180 mm)
再突入手法 スキップ再突入 (Skip Reentry)
最終結果 カザフスタンに墜落(フィルムは回収)

Frequently Asked Questions

ゾンド6号の主な目的は何でしたか?

月を周回して表側と裏側の写真を撮影し、地球のティウタタム(打ち上げ地点からわずか16kmの地点)に安全に帰還することを目的としていました。

「スキップ再突入」とはどのような技術ですか?

大気圏に一度進入した後に再び跳ね上がるように飛行することで速度を落とす手法です。これにより、乗員や機体にかかる減速負荷(G)を4〜7gという比較的低い範囲に抑えることができました。

なぜ機内の動物が死亡したのですか?

タンクの温度を上げるために機体を回転させた際、再突入カプセルのドアシールが損傷しました。その結果、機内の空気が漏れ出し、再突入の数時間前にほぼ完全な減圧状態となったためです。

パラシュートが誤作動した原因は何でしたか?

カプセル内の圧力が25mmHg(3.3kPa)という特定の低圧状態になったことで「コロナ放電」が発生し、それがトリガーとなって予定より高い高度でパラシュートが射出されたためです。

ミッションは成功したと言えるのでしょうか?

ソ連当局はフィルムを回収できたため成功と主張しましたが、実際には機体は墜落し、積載されていた生物はすべて死亡するという悲劇的な結末となりました。