政治の世界では、有権者の感情に訴えかけるために、あえて定義を曖昧にした言葉が使われることがあります。オーストラリアにおけるWorking family(働く家族)という言葉は、まさにその典型的な例と言えるでしょう。この用語は、2007年の連邦選挙に向けて当時のケビン・ラッド首相とそのチームによって戦略的に活用されました。
Key Facts
- 戦略的活用: 2007年のオーストラリア連邦選挙でケビン・ラッド氏が多用した。
- 定義の曖昧さ: 選挙期間中は明確な定義が避けられ、政策の具体性を回避する手段となった。
- 概念の拡大: 後に年金受給者や自費リタイア者まで含まれるなど、定義が広範に拡大した。
- 具体的指標: 2008年の予算案では、年収5万〜6万ドル程度の世帯が具体例として挙げられた。
政治的レトリックとしての背景
「働く家族」という表現は、オーストラリアで突然生まれたものではありません。イギリスの2005年総選挙や、アメリカの政治シーンで頻繁に用いられてきた「Hardworking families(勤勉な家族)」という、いわゆるglittering generality(光り輝く一般論:具体的根拠はないが、誰もが肯定的に捉える抽象的な言葉)に近い性質を持っています。
2007年10月21日のリーダー討論会において、ラッド氏はこの言葉を16回も繰り返しました。しかし、選挙戦を通じてこの言葉の正確な定義を求める声があったにもかかわらず、政府側は意図的に定義を伏せ続けました。これにより、特定の政策に縛られることなく、幅広い層へのアピールを可能にしたと考えられています。
定義の変遷と具体化
選挙後、2008年5月の連邦予算策定に向けて、この用語はさらなる混乱を招きました。当時の財務大臣と首相は、定義の範囲を広げ、単身の年金受給者や自費リタイア者、あるいは介護を受けている人々までも「働く家族」に含める姿勢を見せました。実質的に、誰を排除することなくすべてを包括しようとしたためです。
ウェイン・スワン財務大臣による定義
2008年5月1日、ウェイン・スワン財務大臣はABCラジオの番組内で、より具体的なイメージを提示しました。彼が想定した「働く家族」とは、以下のような世帯です。
- 所得水準: 控えめな収入で生活している人々。
- 具体例(シドニーの場合): 主たる稼ぎ手が年収5万〜6万ドルで、配偶者がパートタイムで年収2万〜3万ドル程度を得ている世帯。
- 直面する課題: インフレや生活費の上昇、そして税負担の増加に苦しんでいる人々。
ラッド首相も同日、年収5万ドル程度の労働者や家族がこの定義に当てはまることを強調しました。
2008年連邦予算への影響
2008年5月13日の予算案第2読会演説では、「Working family」という言葉が13回使用されました。しかし、実際の予算措置における所得制限の閾値(しきい値)を見ると、政治的なレトリックと実務的な線引きには乖離があったことがわかります。
| 所得制限額 | 適用される措置・制度 |
|---|---|
| 10万オーストラリアドル | 単身者のメディケア税(これを超えると民間医療保険への加入が必要)、太陽光発電リベート、ベビーボーナス(支給対象外となる境界線) |
| 15万オーストラリアドル | カップル(夫婦)のメディケア税 |
Frequently Asked Questions
「Working family」という言葉がなぜ戦略的に使われたのですか?
定義を曖昧にすることで、特定の層に限定せず幅広い有権者の共感を得ることができ、同時に詳細な政策責任を回避することができたためです。
もともとオーストラリアで生まれた言葉ですか?
いいえ。イギリスやアメリカの政治で使われていた「Hardworking families」という概念に似ており、同様の政治的レトリックとして導入されました。
最終的にどのような人々が「働く家族」と定義されましたか?
当初は年収5万〜6万ドル程度の控えめな所得層を指していましたが、後に年金受給者やリタイア者まで含まれるなど、非常に広範な定義へと拡大しました。
予算案における所得制限は、定義された「働く家族」と一致していましたか?
政治的な説明では低所得層を強調していましたが、実際の制度上の制限(メディケア税やリベートなど)は、単身者で10万ドル、カップルで15万ドルといった、より高い所得水準に設定されていました。
References
- "A Conservative government will give hope to hardworking families – decent people who respect others, who take responsibility for their children and who contribute to their local communities." — speaking in on 2005-04-10 ("It's time to set an annual limit to immigration" Archived 2007-05-03 at the ) and "Then, it was mortgage rates at 15 per cent for a whole year with 1.5 million households suffering and over 250,000 families losing their homes—now, hardworking families are enjoying the lowest mortgage rates for 40 years. Then, it was 400,000 more on hospital waiting lists—now, it is almost 300,000 off. Then, it was crime doubled—now, it’s crime down by over a quarter." — in Agenda: magazine of the Association of Labour Councillors, winter 2004/5 ("Britain is Working" Archived 2006-02-10 at the )
- "Turning to tax allowances, the married couples' allowance has been abolished, which is a strange move for a government who profess to support the family. They have abolished the MIRAS tax relief which has hit home-buyers. The change to the allowances for couples with children—the new children's tax credit—which is tapered away for higher rate taxpayers, will affect hardworking families on middle incomes." — recorded in , 1999-07-23 (column 1229)
- "WASHINGTON VERSUS HARD-WORKING AMERICAN FAMILIES" — Frank Luntz Republican Playbook at PoliticalStrategy. ORG ("The Budget: Ending Wasteful Washington Spending" Archived 2005-04-04 at the )
- The working family election, "Life Matters", 22 October 2007, accessed 2 May 2008
- Who belongs in the "working family"? Archived 2008-07-24 at the , Stephanie Chalkley-Rhoden, www.electiontracker.net.au, 5 December 2007, accessed 2 May 2008
- "In Wayne's world, we are all one working family now". The Australian. 5 May 2008. Archived from the original on 12 May 2008. Retrieved 2008-05-12.
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- Interview Archived 2008-07-19 at the , and , Radio , 1 May 2008, accessed 2 May 2008
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