Annual mean sea surface salinity for the World Ocean. Data from the World Ocean Atlas 2009.[1]
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塩分濃度サリニティ海水海洋循環PSS-78

塩分濃度(サリニティ)の科学定義から海洋循環への影響まで

🗓 2026年8月10日

水の中にどれだけの塩分が溶け込んでいるかを示す塩分濃度(サリニティ)は、地球上の水圏環境を理解する上で極めて重要な指標です。単に「しょっぱさ」を決めるだけでなく、水の密度や熱容量といった物理的特性を左右し、ひいては地球規模の気候を制御する海洋循環にまで深く関わっています。

Key Facts

  • 定義:水に溶解している塩類(塩化ナトリウムなど)の総量。通常、g/Lやg/kg(‰)で表記される。
  • 物理的影響:温度や圧力と共に、水の密度や熱容量を決定する熱力学的状態変数である。
  • 海洋の役割:塩分濃度の差が密度の違いを生み、深層への沈み込みや海流(海洋循環)を駆動させる。
  • 生物への影響:生息できる生物の種類を制限し、塩分に適応した「塩生植物」や「好塩菌」などの生態系を形成する。
  • 環境変化:気候変動により、海水が濃い海域はより濃く、淡い海域はより淡くなる傾向にある。

塩分濃度の定義と測定の複雑さ

概念としてはシンプルに「溶けている塩の量」を指しますが、厳密な測定は困難を伴います。天然水には塩化ナトリウムだけでなく、硫酸マグネシウムや硝酸カリウムなど多様な化合物がイオン状態で混在しているためです。一般的に、0.2μmから0.45μmの微細なフィルターを通過できる物質が「溶解物質」として定義されます。

海水の平均的な塩分濃度は約35g/kgですが、河口付近では低くなり、死海のような極端な環境では200g/kgを超えることもあります。一方、雨水の総溶解固形物(TDS)は通常20mg/kg以下と極めて低くなっています。

海洋学の世界では、極めて高い精度(有効数字5桁レベル)での比較が求められます。そのため、「IAPSO標準海水」というボトル詰めされた標準試料を用いて、世界中の研究者が測定値を校正しています。

International Association for the Physical Sciences of the Oceans (IAPSO) standard seawater.

水域別の塩分分類

水域は、含まれる塩分量によって大きく4つのカテゴリーに分類されます。淡水から始まり、塩分が極めて高い「かん水(Brine)」に至るまで、その範囲は非常に広範です。

水域の塩分濃度分類
分類 塩分濃度(%) 塩分濃度(‰) 主な水域の例
淡水 0.05% 未満 0.5 ‰ 未満 河川、湖沼
汽水 0.05% ~ 3% 0.5 ~ 30 ‰ 河口域、汽水湖
塩水 3% ~ 5% 30 ~ 50 ‰ 一般的な海水
かん水 5% 超(最大28%程度) 50 ‰ 超 塩湖、塩原、かん水プール

海洋学における測定基準の変遷

海水の塩分測定手法は、技術の進化と共に変化してきました。1980年代以前は、硝酸銀を用いた滴定法でハロゲン化物イオン濃度(塩素度)を測定し、それに係数を掛けて算出する「クヌーセン塩分」が主流でした。

その後、電気伝導度を利用してイオン量を推定する「実用塩分尺度1978(PSS-78)」が導入されました。この尺度では単位を持たない数値として扱われますが、慣習的にPSU(Practical Salinity Unit)と表記されることがあります。

2010年には、さらに高度な「海水熱力学方程式2010(TEOS-10)」が登場しました。ここでは、地域的な組成の違いを考慮した「絶対塩分」という概念が導入され、g/kgという質量分率で表記されます。これにより、密度や熱力学的特性をより正確に算出することが可能になりました。

Annual mean sea surface salinity for the World Ocean. Data from the World Ocean Atlas 2009.[1]

地球環境と生態系への影響

塩分濃度は、海洋の「ベルトコンベア」とも呼ばれる熱塩循環の原動力です。表面で冷やされ、かつ塩分が高まって密度が増した海水は、深海へと沈み込みます。このプロセスが地球全体の熱輸送と物質循環を支えています。しかし、近年のグリーンランドの氷床融解による淡水の流入は、北大西洋の塩分濃度を低下させ、この循環に影響を与える可能性が指摘されています。

生物学的な視点では、塩分は生息域を決定する決定的な要因です。広範囲の塩分濃度に適応できる生物を広塩性(euryhaline)、狭い範囲にしか適応できないものを狭塩性(stenohaline)と呼びます。また、極端な高塩分環境で生き抜く「好塩菌(halophiles)」のような極限環境微生物も存在します。

Frequently Asked Questions

塩分濃度が高いと、なぜ水は沈み込みやすいのですか?

塩分濃度が高くなると、水の中に溶けている溶質の質量が増えるため、同じ体積あたりの密度が高くなります。密度が高くなった水は、周囲の軽い水よりも重くなるため、重力によって下方へ沈み込む性質を持ちます。

「汽水」とはどのような水を指しますか?

淡水(河川水など)と海水が混ざり合った、中間の塩分濃度(一般に0.5‰から30‰の間)を持つ水を指します。主に河口域などで見られ、独特の生態系が形成されています。

PSS-78とTEOS-10の違いは何ですか?

PSS-78は電気伝導度に基づいた「実用的な」尺度であり、単位を持ちません。対してTEOS-10は、組成の地域差を補正して算出する「絶対的な」質量分率(g/kg)を用いるため、より物理的に正確な熱力学的計算が可能です。

気候変動は海水の塩分濃度にどう影響しますか?

一般的に、蒸発が激しい海域では塩分がさらに濃くなり、降水や氷河の融解水が流入する海域ではさらに淡くなるという「二極化」が進むと予測されています。これは海洋循環のパターンを変化させ、気候に影響を及ぼす可能性があります。

References

  1. World Ocean Atlas 2009. nodc.noaa.gov
  2. Pawlowicz, R. (2013). "Key Physical Variables in the Ocean: Temperature, Salinity, and Density". Nature Education Knowledge. 4 (4): 13.
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  7. Wetzel, R. G. (2001). Limnology: Lake and River Ecosystems, 3rd ed. Academic Press.  .
  8. Pawlowicz, R.; Feistel, R. (2012). "Limnological applications of the Thermodynamic Equation of Seawater 2010 (TEOS-10)". Limnology and Oceanography: Methods. 10 (11): 853–867. :2012LimOM..10..853P. :10.4319/lom.2012.10.853.  93210746.
  9. Unesco (1981). The Practical Salinity Scale 1978 and the International Equation of State of Seawater 1980. Tech. Pap. Mar. Sci., 36
  10. Unesco (1981). Background papers and supporting data on the Practical Salinity Scale 1978. Tech. Pap. Mar. Sci., 37

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International Association for the Physical Sciences of the Oceans (IAPSO) standard seawater.