古代メソポタミアの高度な天文学的知見を今に伝える貴重な遺物の一つに、アミ・サドゥカの金星粘土板(エヌマ・アヌ・エンリル第63番粘土板)があります。この粘土板は、金星の運行を詳細に記録した天文データであり、古代バビロニアの歴史的な年表を特定するための重要な鍵として、現代の歴史学者や天文学者の間で議論され続けています。
主要な事実(Key Facts)
- 正体: 金星の出現・消失時間を21年間にわたって記録した天文データ。
- 推定作成時期: 紀元前17世紀半ば(ハンムラビ王の後の第4代王アミ・サドゥカの治世)。
- 材質とサイズ: 粘土製。高さ17.14cm、幅2.22cm、長さ9.2cm。
- 保管場所: イギリスの大英博物館(登録番号 K.160)。
- 出典: バビロニアの占星術に関する膨大なテキスト「エヌマ・アヌ・エンリル」の一部。
天文記録の内容と構造
この粘土板には、金星が日の出前または日の入り後に地平線上に現れたり、消えたりしたタイミング(ヘリアカルライジングおよびヘリアカルセッティング)が、太陰暦の日付とともに記されています。記録されている期間は21年間に及び、当時の人々が極めて精密に天体を観測していたことを示しています。
歴史的背景と伝承
もともとは紀元前17世紀頃に編纂されたと考えられていますが、現存する粘土板の多くは紀元前1千年紀に書き写されたコピーです。大英博物館が所蔵する有名なコピーは、ニネヴェの図書館から発見された紀元前7世紀の楔形文字粘土板であり、1870年にヘンリー・ロウリンソンとジョージ・スミスによって初めて公開されました。
現在、このテキストの写本は断片的なものを合わせて20枚ほど確認されており、大きく6つのグループに分類されます。その中でも、1924年にキシュで発見された「ソースB」と呼ばれる写本は、アッシリアのサルゴン2世の治世(紀元前720年〜704年)にバビロンで作成されたものを基にしており、最古の写本の一つとされています。
年代学への影響と解釈の困難さ
この粘土板の最大の価値は、古代近東の年代決定(クロノロジー)に利用できる点にあります。1912年、フランツ・クグラーは粘土板にある「黄金の玉座の年」という記述をアミ・サドゥカ王の治世8年目と結びつけ、天文学的な計算を用いて年代を特定しようと試みました。
しかし、その解釈は一様ではなく、採用する年代学(高年代学、中年代学、低年代学、超低年代学)によって、記録の開始時期は紀元前1702年から1550年まで幅広く提案されています。
分析における課題
現代の分析において、いくつかの問題点が指摘されています。まず、写本の転記過程で誤りが混入した可能性があり、特に13年目と21年目の記録は天文学的に不可能であり、誤記であると考えられています。また、大気屈折の影響や、地球の自転速度の変動(クロックタイム・エラー)といった物理的な要因が、当時の観測データと現代の計算結果の乖離を生んでいる可能性が議論されています。
基本データまとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 材質 | 粘土 |
| 寸法 | 17.14cm (高) × 9.2cm (長) × 2.22cm (幅) |
| 推定成立期 | 紀元前1650年頃(中年代学に基づく) |
| 所蔵先 | 大英博物館 (K.160) |
| 記録内容 | 21年間の金星の視認タイミング |
Frequently Asked Questions
この粘土板には具体的に何が書かれていますか?
金星が地平線上に現れたとき(初見)と、消えたとき(末見)のタイミングが、太陰暦の日付とともに21年分記録されています。
なぜこの粘土板が歴史的に重要視されるのですか?
天体の運行は数学的に計算可能であるため、記録された金星の動きを現代の天文学で検証することで、アミ・サドゥカ王が実際にいつ統治していたかという絶対的な年代を特定できる可能性があるためです。
記録の内容に間違いはあるのでしょうか?
はい。一部の年(特に13年目と21年目)のデータは物理的にあり得ない数値であり、後世に書き写される際の誤記であると考えられています。
「エヌマ・アヌ・エンリル」とは何ですか?
バビロニアの占星術に関する膨大なテキスト集で、天体現象を「前兆(予兆)」として捉え、地上の出来事を占うための記録がまとめられています。
現在、この粘土板はどこで見ることができますか?
最も有名なコピーの一つであるK.160は、イギリスのロンドンにある大英博物館に所蔵されています。
References
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We then discuss why the 56/64 year Venus cycle cannot be traced in the Venus Tablet and therefore cannot serve as an anchor for the fixing of chronologies.
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