新しいテレビ番組が誕生するまでには、多くの試行錯誤があります。その中心的な役割を果たすのがパイロット版(Pilot Episode)です。これは、シリーズ本編を制作する前に、そのコンセプトが視聴者に受け入れられるか、また予算を投じる価値があるかを判断するために制作される「試作回」のようなものです。
主に米国、英国、アイルランドなどの放送業界で採用されているこの手法は、いわば番組の「実証実験」であり、放送局や配信プラットフォームに番組を売り込むための強力なプレゼンテーション資料となります。
Key Facts
- 目的: 番組のコンセプトが実現可能か、また商業的な成功が見込めるかを検証すること。
- 成功率: 米国のテレビ業界では、制作されたパイロット版のうちシリーズ化に至るのは約4分の1程度とされる。
- 活用法: 成功した場合は第1話として放送されるが、再撮影や配役変更により未放送となるケースもある。
- 代替案: パイロット版を飛ばしてシーズン全編を注文する「ストレート・トゥ・シリーズ」という形式も増加している。
パイロット版制作のサイクルと競争
米国の大手放送局(ABC, CBS, NBC, Fox, The CWなど)では、毎年夏から春にかけて定型的な開発サイクルが回っています。まず夏に数百件の企画案(エレベーターピッチ)が集まり、秋に脚本が選定され、1月頃に約20本のパイロット版制作が発注されます。
この時期は「パイロットシーズン」と呼ばれ、世界中から俳優が集まり激しいオーディション競争が繰り広げられます。例えば、人気ドラマ『フレンズ』のキャスティングでは、6つの主要役にそれぞれ1,000人以上の写真が検討され、幾度もの絞り込みを経て最終的に決定されました。最終的な決定権は、多くの場合、制作会社ではなく放送局の幹事が握っています。
パイロット版の多様な形式
パイロット版には、その目的や構造に応じていくつかの種類が存在します。
1. プレミス・パイロット(Premise Pilot)
キャラクターや世界観を導入することに特化した形式です。そのまま第1話として放送することを想定して制作されますが、シリーズ化が決まった後に設定変更が行われた場合、再撮影や配役の変更が行われることがあります。例えば『ギルガメッシュ島』や『スタートレック』では、初期のパイロット版の内容が変更され、後のエピソードで回想として利用されたり、別の回として放送されたりしました。
2. プルーフ・オブ・コンセプト(Proof of Concept)
「概念実証」とも呼ばれ、導入部分ではなく、シリーズが軌道に乗った後の「標準的なエピソード」を提示する形式です。これにより、放送局は番組が長期的にどのような展開になるかを具体的にイメージできます。クイズ番組などのバラエティ形式でよく用いられ、デモンストレーションのために架空の出場者が起用されることもあります。
3. バックドア・パイロット(Backdoor Pilot)
既存の番組の中で、特定の脇役やゲストキャラクターに焦点を当てたエピソードを放送し、その反応を見てスピンオフ作品を制作するか検討する手法です。視聴者にキャラクターを事前に浸透させることができるため、リスクを抑えた展開が可能です。
4. その他の特殊な形式
- プット・パイロット(Put Pilot): 放送局が放送することを事前に約束し、もし放送しなかった場合にはスタジオに多額の違約金を支払う契約形式です。
- テストラン(Test Run): 単発のパイロットではなく、数話分の短編シリーズとして放送し、その反響で本制作を決める手法です。トークショーなどでよく見られます。
- 10/90モデル: パイロット版を作らずにまず10話を放送し、一定の視聴率を達成すれば残り90話を注文して、合計100話(シンジケーション/再放送権の販売に必要な数)にする効率的なモデルです。
パイロット版のその後:放送されない運命にある作品
すべてのパイロット版がシリーズ化されるわけではありません。シリーズ化に至らなかった「アンソールド・パイロット(Unsold Pilot)」は、そのままお蔵入りとなることが多いですが、稀に別の形で世に出ることがあります。
一部の作品は、映画として再編集され劇場公開されたり(例:『マルホランド・ドライブ』)、ビデオ作品としてリリースされたりします。また、1950年代から80年代にかけての米国では、お蔵入りとなったパイロット版をまとめて夏休みのオムニバス番組として放送し、制作費を回収する手法が一般的でした。
| 形式 | 主な目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| プレミス | 世界観の導入 | 第1話としての利用を想定 |
| プルーフ・オブ・コンセプト | 日常的な展開の提示 | 標準的なエピソード構成を検証 |
| バックドア | スピンオフの検証 | 既存番組のキャラクターを活用 |
| ストレート・トゥ・シリーズ | 迅速な展開 | パイロット版を飛ばしてシーズン制作 |
Frequently Asked Questions
パイロット版は必ず第1話になりますか?
いいえ、必ずしもそうではありません。成功してそのまま第1話になることもありますが、配役や設定の変更により再撮影され、元のパイロット版が未放送になったり、後から別のエピソードとして放送されたりすることもあります。
「ストレート・トゥ・シリーズ」とは何ですか?
パイロット版を制作して検証するプロセスを省略し、最初から1シーズン分(あるいはそれ以上)の制作を決定する形式です。実績のあるクリエイターや、既存の有名IP(知的財産)に基づいた作品で多く採用され、近年はNetflixなどの配信プラットフォームで一般的になっています。
バックドア・パイロットのメリットは何ですか?
すでに人気のある番組の視聴者層に新しいキャラクターを披露できるため、ゼロから新番組を立ち上げるよりも視聴者の関心を集めやすく、スピンオフの成功率を高められる点にあります。
パイロット版が不採用になった後はどうなりますか?
多くは放送されませんが、一部は単発のテレビ映画として放送されたり、劇場用映画に作り替えられたりすることがあります。また、過去には複数の不採用作品をまとめたオムニバス番組として放送された例もあります。
References
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