オーストラリアの首都地域(ACT)を中心に、通信インフラの近代化を牽引してきたTransACT。1996年の設立以来、同社は業界の常識を塗り替える革新的な技術導入を繰り返し、地域のデジタル環境を劇的に進化させてきました。卸売と小売を分離する「オープンアクセスネットワーク(OAN)」モデルを採用し、多様なプロバイダーと連携することで、効率的なサービス提供を実現したのが特徴です。

Key Facts

  • 業界初の導入: オーストラリアで初めてVDSLおよびGPONベースのFTTH(光ファイバー直接導入)ゲートウェイを実装。
  • 広範なネットワーク: ACT全域に張り巡らされた光ファイバー網に加え、ビクトリア州の3都市(ミルデューラ、バララット、ジーロング)へも展開。
  • 技術的進化: VDSLからVDSL2、そして最新のG.fastへと高速化を推進し、ニアギガビット通信を実現。
  • 企業の変遷: 2011年にiiNetに買収され、現在はTPG Telecom傘下のVision Networkとしてインフラが運用されている。

ネットワークの進化と技術的マイルストーン

初期の展開とVDSLの導入(フェーズ1&2)

TransACTが最初に展開した「フェーズ1」ネットワークでは、FTTC(路側光ファイバー)設計を採用しました。これは、建物から300メートル以内にノードを配置し、そこからVDSL技術を用いて高速ブロードバンドとデジタルTVを提供する方法です。当時主流だったADSLを遥かに凌ぐ速度を実現し、オーストラリアでこの技術を導入した初の通信事業者となりました。

続く「フェーズ2」では、Telstraの交換局内に独自のDSLAM(デジタル加入者線アクセスマルチプレクサ)を設置。これにより、キャンベラやクインビーアンのTelstra電話回線利用者が、距離条件を満たせばADSL2/2+サービスを利用できるようになりました。

次世代通信への移行:VDSL2とFTTP

2009年、同社はさらに高速なVDSL2へのアップグレードを開始しました。これにより、従来のADSL2+の最大4倍の速度を実現し、トリプルプレイ(音声・データ・ビデオの統合)サービスを強化。キャンベラの高密度開発地区などで順次導入されました。

さらに、G.984(GPON)規格に基づいたFTTH(光ファイバー直接導入)ゲートウェイを国内で初めて構築。2009年9月には、下り100Mbit/s、上り20Mbit/sという当時としては画期的な速度を提供しました。このPON(パッシブ光ネットワーク)技術の階層構造は、後に国家ブロードバンドネットワーク(NBN)を運営するNBNco社にも採用されることになります。

TransACT headquarters in Dickson, Australian Capital Territory

事業拡大とサービスの多様化

TransACTは個人向けサービスだけでなく、法人や政府機関向けに高度な卸売サービスも提供してきました。コロケーション、IPトランジット、VPN、最大1Gbit/sのVPLS(仮想プライベートLANサービス)など、企業のニーズに応える多様なソリューションを展開しました。

また、エンターテインメント分野では2010年7月に「eHub」をリリース。HDビデオ対応のセットトップボックスとパーソナルビデオレコーダーを組み合わせた、オーストラリア初の商用IPTV製品として市場に投入しました。地域社会への貢献としては、2000年から女子バスケットボールリーグ(WNBL)の「TransACT Canberra Capitals」の命名権スポンサーを務めていたことも特筆されます。

買収からVision Networkへの統合まで

2011年11月、iiNet社が6,000万ドルでTransACTを買収しました。当時のTransACTは、約4,500kmのネットワークと4万人の顧客(政府機関との重要契約50件を含む)を抱え、年間経常収益は約8,000万ドルに達していました。

その後、2022年3月までにTransACTブランドは段階的に廃止され、顧客はiiNetブランドへ移行しました。同時に、VDSL2ネットワークはTPG Telecomの卸売部門であるVision Networkへと移管されました。

最新の状況:G.fastによる高速化

Vision Networkは、キャンベラのFTTN(ノード光ファイバー)やビクトリア州のHFC(ハイブリッド光同軸)など、多様なインフラを管理しています。2024年中盤には、29万件の拠点に対してG.fast技術へのアップグレードを完了させました。これにより、ネットワークカバーエリアの83%で「ニアギガビット」の超高速通信が可能となり、一部地域ではNBNを上回る性能を提供しています。

インフラ概要まとめ

TransACTからVision Networkへの技術変遷
世代/段階 主要技術 特徴・成果
フェーズ1 FTTC / VDSL 国内初のVDSL導入、ADSLを凌駕する速度
フェーズ2 ADSL2 / 2+ Telstra交換局内へのDSLAM設置による拡大
次世代展開 VDSL2 / GPON (FTTP) 下り100Mbps実現、NBNのモデルとなるPON採用
現代 (Vision) G.fast ニアギガビット速度の提供、NBNの代替案として機能

Frequently Asked Questions

TransACTは現在も利用できますか?

いいえ、TransACTブランドは2022年までに廃止されました。現在はiiNetブランドに統合されており、インフラはVision Networkによって運用されています。

VDSL2とG.fastの違いは何ですか?

VDSL2は従来の銅線を利用した高速通信技術ですが、G.fastはさらに短距離でより高い周波数帯域を使用することで、光ファイバーに近い「ニアギガビット」の超高速通信を実現する技術です。

TransACTがNBNに影響を与えた点はありますか?

はい。TransACTが早期に導入したGPON(パッシブ光ネットワーク)ベースのネットワーク階層構造は、後にNBNcoが設計・構築した国家ブロードバンドネットワークの技術選定に影響を与えました。

Vision Networkはどのような地域をカバーしていますか?

キャンベラのFTTNに加え、ビクトリア州のジーロング、バララット、ミルデューラでのHFC、さらに主要都市(ブリスベン、シドニー、メルボルン、アデレード、パース)でのFTTBやFTTPなど、広範なインフラをカバーしています。