科学や工学の分野で圧力を測定する際、「パスカル(Pa)」以外によく目にする単位にTorr(トル)があります。特に高真空の物理学やエンジニアリングの領域で不可欠なこの単位は、歴史的な背景を持ちながら、現代では厳密な数値として定義されています。
本記事では、Torrの定義から、混同されやすい「水銀柱ミリメートル(mmHg)」との微細な違い、そして実用的な変換方法までを詳しく解説します。
Key Facts
- 定義: 1 Torrは標準大気圧(101,325 Pa)のちょうど 1/760 に相当する。
- 由来: 1644年に気圧計の原理を発見したイタリアの物理学者エヴァンジェリスタ・トリチェリにちなんで命名された。
- 用途: 主に高真空物理学や真空工学の分野で広く利用されている。
- 表記: 単位名は小文字で「torr」、記号は頭文字を大文字にして「Torr」と書くのが正解。
- 関係性: 1 mmHgとほぼ等しいが、厳密にはわずかに異なる(差は0.000015%未満)。
Torrの定義と科学的な意味
Torrは絶対尺度に基づく圧力単位です。現在の定義では、1標準大気圧(101,325 Pa)の 1/760 と定められています。これを計算すると、1 Torrは約133.32パスカルとなります。
もともとは「水銀柱1ミリメートル(1 mmHg)」と同じ意味として意図されていました。しかし、その後の単位の再定義により、TorrはmmHgよりもごくわずかに低い値となりました。とはいえ、この差は極めて小さいため、ほとんどの実用的な場面では同一視されています。
また、Torrは国際単位系(SI)には含まれていませんが、接頭辞を付けて「ミリトル(mTorr = 0.001 Torr)」として使用されることが一般的です。
歴史的背景:トリチェリと気圧の発見
この単位の名称は、17世紀の数学者であり物理学者でもあったエヴァンジェリスタ・トリチェリに由来します。彼は1644年、世界で初めて水銀を用いた気圧計を公開し、大気圧という概念を現代的な視点から説明しました。
当時の科学者たちは、気圧計の液柱の高さが変動することに気づいていましたが、トリチェリがそれを「大気圧の変化」として解明したことで、気象学という学問の基礎が築かれました。
かつては「0℃における水銀柱760mm」が標準大気圧とされていました。しかし、重力加速度は地球上の場所(緯度や標高)によって異なるため、水銀柱の重さを基準にする定義では場所によって値が変わってしまうという不正確さがありました。そのため、1954年の第10回国際度量衡総会において、大気圧を101,325 Paと固定し、Torrをその 1/760 と再定義することで、場所や物質の密度に依存しない不変の基準が確立されました。
マノメーター単位と現代の利用シーン
水銀柱(mmHg)や水柱(cmH2O)のように、液体の密度と重力加速度を前提とした単位を「マノメーター単位(液柱圧力単位)」と呼びます。これらの単位は定義に曖昧さが残るため、現在は使用が推奨されていません。
しかし、医療や生理学の分野、あるいはダイビングや気象報告などの特定領域では、依然としてこれらの液柱単位が慣習的に使われています。一方で、精密な真空制御が求められる物理学や工学の世界では、厳密に定義されたTorrが重宝されています。
圧力単位の変換まとめ
| 単位 | パスカル (Pa) | 標準大気圧 (atm) | psi (ポンド/平方インチ) | Torr / mmHg |
|---|---|---|---|---|
| 1 Pa | 1 | ≈ 9.87 × 10⁻⁶ | ≈ 1.45 × 10⁻⁵ | ≈ 7.50 × 10⁻³ |
| 1 bar | 100,000 | ≈ 0.987 | ≈ 14.50 | ≈ 750.06 |
| 1 atm | 101,325 | 1 | ≈ 14.70 | 760 |
| 1 Torr | ≈ 133.32 | ≈ 1.32 × 10⁻³ | ≈ 0.0193 | ≈ 1.00 |
表記上の注意点とよくある間違い
Torrを記述する際は、表記ルールに注意が必要です。単位名として文章中で使う場合は小文字の「torr」を用い、記号として用いる場合は頭文字を大文字にした「Torr」を使用します。例えば、ミリトルと表記する場合は「mTorr」が正しく、「mtorr」や「milliTorr」は誤りです。
また、簡略化して「T」と表記されることがありますが、これは磁束密度の単位であるテスラ(Tesla)の記号であるため、不適切です。同様に「Tor」という綴りも誤りであるため、正確な表記を心がける必要があります。
Frequently Asked Questions
TorrとmmHgは完全に同じものですか?
実用上の計算ではほぼ同じとして扱われますが、厳密には異なります。Torrは標準大気圧の 1/760 と定義されていますが、mmHgは水銀の密度と標準重力に基づいています。その差は0.000015%未満と極めてわずかです。
なぜ「T」ではなく「Torr」と書く必要があるのですか?
物理学において記号「T」は、磁場の強さを表す単位「テスラ(Tesla)」に割り当てられているためです。混同を避けるため、圧力の単位としては必ず「Torr」と表記します。
Torrはどのような場面で使われますか?
主に高真空物理学や真空工学の分野で利用されます。非常に低い圧力を扱うため、パスカルよりも扱いやすい数値として定着しています。
1 Torrをパスカルに換算するといくらになりますか?
1 Torrは、101,325 Pa ÷ 760 = 約133.322 Pa となります。
Torrという名前の由来は何ですか?
1644年に水銀気圧計を発明し、大気圧の概念を初めて科学的に説明したイタリアの物理学者、エヴァンジェリスタ・トリチェリ(Evangelista Torricelli)の名前に由来しています。
References
- Devices similar to the modern barometer, using water instead of mercury, were studied by a number of scientists in the early 1640s (see History of the Barometer). Torricelli's explanation of the principle of the barometer appears in a letter to Michelangelo Ricci dated 11 June 1644.
- "Rules and style conventions". NIST. 13 January 2010. Retrieved 29 September 2012.
- BIPM – Resolution 4 of the 10th CGPM.
- National Physical Laboratory: Pressure units.
- BS 350: Part 1: 1974 – Conversion factors and tables. . 1974. p. 49.
- Council directive 80/181/EEC (20 December 1979)
- Note that a pressure of 1 bar (100000 Pa) is slightly less than a pressure of 1 atmosphere (101325 Pa).
- Cohen E. R. et al. Quantities, Units and Symbols in Physical Chemistry, 3rd ed. Royal Society of Chemistry, 2007 (IUPAC pdf copy).
- DeVoe H. Thermodynamics and Chemistry. Prentice-Hall, Inc., 2001, .