1960年代初頭、アメリカの音楽シーンを席巻したサーフロックとホットロッド・ミュージック。その黄金時代に鮮やかな足跡を残したのが、ヴォーカルグループのリップ・コード(The Rip Chords)です。彼らは単なる歌唱グループではなく、当時の音楽業界の精鋭たちが集結したスタジオプロジェクト的な側面を持っていました。
もともとは「ジ・オポジッツ(The Opposites)」という名で活動していたアーニー・ブリンガスとフィル・スチュワートの二人組でしたが、後にプロデューサーのテリー・メルチャーと、後にビーチ・ボーイズの一員となるブルース・ジョンストンが加わり、厚みのあるハーモニーを構築しました。彼らの音楽は、太陽に照らされたカリフォルニアの風景を彷彿とさせる「カリフォルニア・サウンド」の象徴となりました。
Key Facts
- 代表曲:Billboard Hot 100で4位を記録した「Hey Little Cobra」が最大のヒット曲。
- 音楽性:ポップス、サーフロック、ホットロッド・ミュージックを主軸としたヴォーカルスタイル。
- 制作体制:演奏は伝説的なスタジオミュージシャン集団「レッキング・クルー」が担当。
- 特異な構造:レコーディングを行うメンバーと、ツアーを行うメンバーが異なる「二重構造」のグループだった。
- 活動期間:1962年から1965年までコロンビア・レコードで活動。
結成からコロンビア・レコード契約まで
グループの原点は、1950年代半ばにイングルウッド高校で出会ったアーニー・ブリンガスとフィル・スチュワートにあります。二人は互いの歌声の相性の良さに気づき、プロとしての道を模索していました。1962年、女優ドリス・デイ夫妻が所有していたアーウィン・レコードの目に留まったことで、運命が動き出します。
当時のアーウィン・レコード副社長ボブ・クリスタルは二人の才能を高く評価し、コロンビア・レコードのA&Rプロデューサーであったテリー・メルチャーへのオーディションをセッティングしました。これがきっかけとなり、彼らはコロンビア・レコードとの契約を勝ち取ります。
当初は、神学を学ぶブリンガスと私立探偵のスチュワートという対照的な経歴から「ジ・オポジッツ」と名乗っていましたが、イメージの誤解を避けるため、リリース直前に「リップ・コード」へと改名されました。この名称はテリー・メルチャーによる言葉遊びから生まれたものでした。
スタジオの魔法と「レッキング・クルー」の貢献
リップ・コードは純粋なヴォーカルグループであり、自分たちで楽器を演奏して楽曲を完成させるバンドではありませんでした(スチュワートが限定的にギターを弾いたことはありますが)。そのため、彼らの楽曲には当時の最高峰のスタジオミュージシャンが集まったレッキング・クルー(The Wrecking Crew)が起用されました。
ギタリストのグレン・キャンベル、ドラマーのハル・ブレイン、ベーシストのレイ・ポールマンといった名手たちがバックを支え、洗練されたサウンドを実現しました。特にデビュー曲「Here I Stand」におけるグレン・キャンベルのリードギターは、楽曲に大きな推進力を与えたと評されています。
ヒット曲の誕生とメンバーの変遷
グループの方向性が定まり、最大のヒットとなる「Hey Little Cobra」が1963年10月に録音されました。この曲の制作過程では、ブリンガスが神学大学での研究のため不在だったため、テリー・メルチャーとブルース・ジョンストンがヴォーカルとして参加し、リードおよびバックコーラスを担いました。この楽曲は1964年2月にBillboard Hot 100で4位に達し、世界的な成功を収めました。
しかし、この成功の裏で、レコーディングに参加したメルチャーとジョンストンのヴォーカル貢献は、当初クレジットに記載されませんでした。彼らはあくまでプロデューサーとして名前が載っていたためです。

「レコーディング組」と「ツアー組」の乖離
「Hey Little Cobra」の成功後、グループはブリンガス、スチュワート、メルチャー、ジョンストンの4名によるヴォーカル体制へと拡大しました。しかし、ブリンガスが学業に専念していたため、ライブツアーに参加することができませんでした。
そこで現実的な解決策として、リッチ・ロトキンとアーニー・マーカスという2人の若者がツアーメンバーとして雇われました。結果として、スチュワート、ロトキン、マーカスの3名が「公に顔を出すリップ・コード」として活動することになります。彼らは『アメリカン・バンドスタンド』への出演や映画『A Swingin' Summer』への出演を果たしましたが、実際のレコーディングに彼らが参加したことはありませんでした。
このため、アルバムジャケットや宣伝写真にはツアーメンバーが掲載され、実際の歌唱メンバーであるメルチャーやジョンストンの存在は伏せられるという、音楽業界でも珍しい状況が続きました。この事実は、2006年にリリースされたベストアルバム『Summer U.S.A.! The Best of the Rip Chords』によって明確に整理されました。
活動の終焉とその後
1964年には「Three Window Coupe」などのヒットを飛ばしましたが、1965年の「Don't Be Scared」を最後に、グループは解散しました。当時のサーフ・サウンドというトレンドが急速に変化したことが要因とされています。
解散後、1983年にはブルース・ジョンストンとテリー・メルチャーが再びリップ・コード名義で1曲を録音したほか、1990年代半ばにはツアーメンバーだったロトキンとマーカスがグループを再結成し、現代まで活動を続けています。
ディスコグラフィー概要
| 区分 | タイトル | リリース年 | 主な特徴・チャート成績 |
|---|---|---|---|
| シングル | Here I Stand | 1962-63 | Billboard #51 / デビュー曲 |
| シングル | Hey Little Cobra | 1963-64 | Billboard #4 / 最大のヒット曲 |
| シングル | Three Window Coupe | 1964 | Billboard #28 |
| アルバム | Hey Little Cobra and Other Hot Rod Hits | 1964 | Billboard Album Chart #56 |
| アルバム | Three Window Coupe | 1964 | カリフォルニア・サウンドを凝縮した作品 |
Frequently Asked Questions
リップ・コードは楽器を演奏するバンドでしたか?
いいえ、彼らはヴォーカルグループであり、楽器演奏は行いませんでした。すべての楽曲の演奏は、グレン・キャンベルやハル・ブレインらを含むスタジオミュージシャン集団「レッキング・クルー」が担当していました。
なぜアルバムジャケットのメンバーと歌っている人が違うのですか?
レコーディングを担当したメンバー(ブリンガス、スチュワート、メルチャー、ジョンストン)とは別に、ツアー専用のメンバー(スチュワート、ロトキン、マーカス)を起用していたためです。宣伝活動にはツアーメンバーが優先的に起用されていました。
ビーチ・ボーイズとの関係はありますか?
メンバーの一人であるブルース・ジョンストンが、後にビーチ・ボーイズに加入したことで深い繋がりがあります。彼のヴォーカルスタイルがリップ・コードのサウンドにも大きな影響を与えました。
「Hey Little Cobra」のリードボーカルは誰が担当しましたか?
この曲のリードボーカルは、プロデューサーのテリー・メルチャーが担当しました。バックコーラスにはブルース・ジョンストンが参加しています。
現在もリップ・コードとして活動しているグループはありますか?
はい。かつてのツアーメンバーであったリッチ・ロトキンとアーニー・マーカスが1990年代にグループを再始動させ、現在もツアーやレコーディング活動を行っています。
References
- Summer USA! Best of the Ripcords, on the CD Insert p.2.
- Friends Magazine, Editor, Bruce Hilton, EUB Board of Publication, 1965, p. 6. Also see: Hey Little Cobra and other Hot Rod Hits, Sony Music Special Products, © 1996, Sundazed Music, Inc., p. 3.
- Hollywood Reporter, December 6, 1962.
- Hey Little Cobra and other Hot Rod Hits, Sony Music Special Products, © 1996, Sundazed Music, Inc., p. 3.
- Inglewood Daily News, March 22, 1963.
- Hey Little Cobra and other Hot Rod Hits, Sony Music Special Products, © 1996, Sundazed Music, Inc., p. 3. Also: Summer U.S.A.! The Best of the Rip Chords, Sony Music Special Products, © & (p) 2006, Sundazed Music, Inc., p. 8.
- Cash Box, 4/6/63; 4/27/63; 5/25/63.
- Jesusgate: A History Of Concealment Unraveled, October 2012, Rainbow Ridge Publishing, p. 1;
- Hey Little Cobra and other Hot Rod Hits, Sony Music Special Products, © 1996 Sundazed Music, Inc., pp. 3, 7.
- "Gracia Nitzsche Remembered". Spectropop.com. Retrieved October 3, 2019.