かつて、人々が映画館に足を運ぶ最大の目的の一つに、世界で今何が起きているかを知るという「ニュース体験」がありました。その中心にあったのが、1935年から1951年にかけてアメリカで公開されたニュースリール(映画館で本編前に上映されたニュース映像)シリーズ「The March of Time」です。Time Inc.がスポンサーを務めたこのシリーズは、単なる事実の羅列ではなく、ドラマチックな演出と鋭い視点を持つ、現代のドキュメンタリーや報道番組の先駆けとなりました。
Key Facts
- 制作期間:1935年2月1日から1951年8月まで。
- 配信形態:映画館で上映される15〜30分のニュースリール形式。
- 最大視聴者数:ピーク時には月間約2,500万人の米国人が視聴。
- 主な功績:1937年にアカデミー名誉賞を受賞。
- 影響:後のフォトジャーナリズムや、雑誌『Life』の創刊に大きな影響を与えた。
革新的な報道スタイルと制作の舞台裏
「The March of Time」は、もともと1931年から放送されていたラジオ番組をベースに誕生しました。ナレーターを務めたウェストブルック・ヴァン・フォーヒスの特徴的な語り口と、ルイスおよびリチャードのデ・ロシュモン兄弟による緻密な構成が、視聴者を強く惹きつけました。
制作費は1エピソードあたり約5万ドルと当時としては非常に高額であり、月1本ほどのペースで制作されていました。このため、商業的な収益性は低かったものの、その圧倒的なクオリティと影響力から、ベースとなったラジオ番組が終了した後も6年間にわたって映画制作が継続されました。
配給体制は時代とともに変遷し、当初のFirst Division Picturesから、RKO Radio Pictures、そして20th Century-Foxへと引き継がれました。このシリーズで培われた「視覚的なジャーナリズム」の手法は、Time社が1936年に創刊した写真雑誌『Life』の成功へと直結することになります。
時代を映し出したコンテンツの内容
全200近いセグメントの中で、どのようなテーマが扱われたのでしょうか。歴史家のレイモンド・フィールディングによる分析では、単一国家の情勢に関するエピソードが全体の約3割以上を占めていました。また、経済問題が10%、国内政治が5%を占めていました。
特に、1935年から1942年にかけては戦争の脅威に関する内容が約24%を占め、1941年12月の真珠湾攻撃以降、第二次世界大戦終結まで、ほぼすべてのエピソードが戦争に関連するテーマとなりました。また、ルイス・デ・ロシュモンの強い関心から、世界の水路が持つ地政学的な役割に焦点を当てた回も多く制作されました。
中でも1938年のエピソード「Inside Nazi Germany」は、その歴史的価値が認められ、後に米国議会図書館の国立映画レジストリに保存されることとなりました。
![Crowd in front of a New York news cinema running Inside Nazi Germany (1938), deemed "culturally significant" by the Library of Congress and selected for preservation in the National Film Registry[6]](/images/c1/d3/c1d359f1f5cdbfbe5fdc3b2c1f4cbe372b13da9492e33f0160e4123a1bea6182.jpg)
テレビの普及とニュースリールの終焉
1951年、この革新的なシリーズは幕を閉じます。その最大の要因は、家庭へのテレビの普及でした。毎日最新のニュースが自宅で視聴できる時代になり、映画館で週に一度、あるいは月に一度ニュースを見るという形式は時代遅れとなったのです。Pathé NewsやFox Movietone Newsなどの他社シリーズはしばらく存続しましたが、ニュースリールという文化そのものが衰退していきました。
しかし、「The March of Time」が残した遺産は消えていません。1949年には、アイゼンハワー将軍の著書に基づいたテレビドキュメンタリー『Crusade in Europe』を制作し、エミー賞やピーボディ賞を受賞するなど、映像報道の形式をテレビへと適応させました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 制作・スポンサー | Time Inc. |
| 公開期間 | 1935年 〜 1951年 |
| ナレーター | ウェストブルック・ヴァン・フォーヒス |
| 主な配給社 | First Division Pictures, RKO, 20th Century-Fox |
| 主な受賞歴 | アカデミー名誉賞 (1937年) |
| 形式 | 2〜3リールのフィルム (15〜30分) |
Frequently Asked Questions
「The March of Time」は単なるニュース映像だったのでしょうか?
いいえ。当時の標準的なニュースリールよりも長く、詳細で、制作者の主観や意見が強く反映された構成になっていました。現代のドキュメンタリーに近い形式であり、ドラマチックな音楽やナレーションを用いた演出が特徴でした。
このシリーズが後のメディアに与えた影響は?
視覚的なストーリーテリングの手法は、雑誌『Life』の創刊に大きな影響を与えました。また、現代のニュース番組やドキュメンタリー、さらにはリアリティショーのような演出の原点の一つであると評されています。
なぜこのシリーズは赤字だったのですか?
1エピソードあたり約5万ドルという非常に高い制作コストがかかっていたためです。しかし、Time社にとってはブランド価値の向上や、新しいジャーナリズムの手法の実験場としての意義があったと考えられます。
どのようなテーマが最も多く扱われましたか?
特定の国や地域の情勢に関するものが最も多く、全体の3割を超えていました。また、第二次世界大戦期間中は、ほぼすべてのエピソードが戦争に関する内容となっていました。
テレビ放送への移行はどう行われましたか?
1949年に『Crusade in Europe』という大規模なテレビドキュメンタリーシリーズを制作し、成功を収めました。これにより、映画館からテレビへと報道ドキュメンタリーの主戦場が移り変わる流れを先導しました。
References
- Meyers, Cynthia (2018). "The March of Time Radio Docudrama: Time Magazine, BBDO, and Radio Sponsors, 1931–39". American Journalism. 35 (4): 420–443. :10.1080/08821127.2018.1527634. 166288067.
- Meyers, Cynthia (2018). "The March of Time Radio Docudrama: Time Magazine, BBDO, and Radio Sponsors, 1931–39". American Journalism. 35 (4): 420–443. :10.1080/08821127.2018.1527634. 166288067.
- Fielding, Raymond (1978). The March of Time, 1935–1951. New York: Oxford University Press. .
- "Pictorial Journalism". The New York Times. February 2, 1935.
- Gilling, Ted (May 7, 1989). "Real to Reel: Newsreels and re-enactments help trio of documentaries make history come alive". .
- "Complete National Recording Registry Listing". loc.gov. Retrieved March 18, 2018.
- "Synopsis" (PDF). The March of Time Newsreels. Archives. Archived from the original (PDF) on February 6, 2015. Retrieved December 4, 2015.
- Setliff, Jonathan Stuart (2007). The March of Time and the American Century (PDF) (PhD diss.). University of Maryland. pp. 78–81, 88–89. Retrieved March 18, 2023.
- "France: Motorist Moe"; , September 10, 1934
- "Preserved Projects". Academy Film Archive.