ストロンチウム(Sr)は、周期表の第2族に属するアルカリ土類金属の一種です。銀白色に淡い黄色を帯びた外観を持ち、化学的な性質は隣接するカルシウムやバリウムの中間的な特徴を備えています。私たちの日常生活では、夜空を彩る花火の鮮やかな赤色や、かつてのテレビ画面の裏側など、意外な場所でこの元素の恩恵を受けてきました。
この元素の名称は、スコットランドのストロンチアン村で発見された鉱物「ストロンチアン石」に由来しています。1787年にウィリアム・クルックシャンクによって発見され、その後1808年にハンフリー・デービーが電気分解を用いて初めて金属として単離することに成功しました。
Key Facts
- 元素記号: Sr(原子番号38)
- 外観: 淡い黄色味を帯びた銀白色の金属
- 主な用途: 花火の赤色発色剤、旧来のブラウン管ガラスのX線遮蔽材
- 天然存在: 主にセレスチン(硫酸ストロンチウム)やストロンチアン石として存在
- 生物学的特徴: 体内でカルシウムと似た挙動を示し、主に骨に蓄積される
物理的・化学的特性
ストロンチウムは、カルシウムよりも柔らかく、バリウムよりも硬いという物理的性質を持っています。融点は777°C、沸点は1377°Cであり、これらもグループ内の他元素の中間的な値を示します。また、密度は約2.582 g/cm³(20°C時)です。
化学的には2価の陽イオン(Sr2+)として振る舞うことが一般的です。イオン半径が大きいため、高い配位数を取る傾向があり、クラウンエーテルなどの多座配位子と強力な錯体を形成することが知られています。
特筆すべきは、その特有の炎色反応です。ストロンチウム化合物に熱を加えると、非常に鮮やかな深紅色の光を放ちます。



天然での存在と生産
地球の地殻において15番目に多い元素であり、平均して約360ppm含まれています。自然界では単体で存在することはなく、主に硫酸塩であるセレスチン(SrSO4)や、炭酸塩であるストロンチアン石(SrCO3)として産出されます。特にセレスチンは採掘に適した大規模な鉱床が多く見つかっています。

現在の主要な生産国はスペイン、イラン、中国、メキシコ、アルゼンチンなどです。かつては米国でも採掘されていましたが、1959年以降は行われていません。
産業利用の変遷
ストロンチウムの用途は時代とともに大きく変化してきました。19世紀にはテンサイからの砂糖精製プロセス(ストロンチアン法)に利用されていました。
その後、20世紀のテレビ普及期には、ブラウン管(CRT)の前面ガラスに大量に使用されました。ストロンチウム酸化物とバリウム酸化物を配合することで、内部で発生する有害なX線を遮蔽する役割を果たしていたためです。一時期、米国での消費量の約75%がこの用途に充てられていましたが、液晶や有機ELディスプレイへの移行に伴い、需要は激減しました。

現代では、花火の赤色を出すための発色剤としての利用が有名です。ストロンチウム塩が燃焼することで、夜空に美しい赤色が描き出されます。

放射性同位体と生物学的影響
ストロンチウムには安定同位体のほかに、人工的に生成される放射性同位体が存在します。特に注目されるのがストロンチウム90(90Sr)です。これは核分裂生成物として発生し、半減期が約28.91年と長いため、核兵器の落下物や原発事故による環境汚染の懸念物質となります。
生物学的にストロンチウムはカルシウムと化学的性質が酷似しているため、人体に吸収されるとカルシウムの代わりに骨に蓄積されます。これにより、90Srが骨に定着すると、骨がんや白血病などのリスクを高める可能性があります。一方で、短半減期の89Sr(半減期50.56日)は、その特性を活かして骨がんの治療に利用されています。

また、海洋生物の中には、アカンサリアと呼ばれる原生動物が硫酸ストロンチウムで精巧な骨格を作る例もあります。人体におけるストロンチウムの生物学的半減期は代謝により複雑に変動しますが、平均して約18年と推定されています。

ストロンチウムの基本データまとめ
| 項目 | 詳細値・内容 |
|---|---|
| 原子番号 / 原子量 | 38 / 87.62 |
| 分類 | 第2族 アルカリ土類金属 |
| 融点 / 沸点 | 777 °C / 1377 °C |
| 密度 (20°C) | 2.582 g/cm³ |
| 主な天然鉱物 | セレスチン、ストロンチアン石 |
| 代表的な炎色反応 | 深紅色 |
Frequently Asked Questions
ストロンチウムが花火に使われるのはなぜですか?
ストロンチウム化合物が燃焼する際に、特有の鮮やかな赤色の光を放出する性質(炎色反応)を持っているためです。これにより、花火の赤い色彩を実現しています。
ブラウン管にストロンチウムが使われていた理由は何ですか?
ブラウン管の動作中に発生するX線を吸収し、外部に漏れるのを防ぐためです。ストロンチウムとバリウムを含む特殊なガラスを用いることで、安全性を確保していました。
ストロンチウム90が人体に危険なのはなぜですか?
化学的にカルシウムに似ているため、体内に取り込まれると骨に蓄積されやすいためです。そこで長期間にわたって放射線を出し続けるため、骨組織や造血組織に悪影響を及ぼす可能性があります。
天然のストロンチウムはどこで見つかりますか?
主にセレスチン(硫酸ストロンチウム)やストロンチアン石(炭酸ストロンチウム)という鉱物の形で地殻中に存在しています。また、海水中にも微量に含まれています。
ストロンチウムは医療に利用されていますか?
はい。放射性同位体であるストロンチウム89は、その骨への親和性を利用して、骨転移を伴うがんの疼痛緩和などの治療に用いられています。
References
- Greenwood and Earnshaw, p. 112
- "Standard Atomic Weights: Strontium". . 1969.
- Prohaska, Thomas; Irrgeher, Johanna; Benefield, Jacqueline; Böhlke, John K.; Chesson, Lesley A.; Coplen, Tyler B.; Ding, Tiping; Dunn, Philip J. H.; Gröning, Manfred; Holden, Norman E.; Meijer, Harro A. J. (4 May 2022). "Standard atomic weights of the elements 2021 (IUPAC Technical Report)". Pure and Applied Chemistry. :10.1515/pac-2019-0603. 1365-3075.
- "Periodic Table of Elements: Strontium - Sr (EnvironmentalChemistry.com)". environmentalchemistry.com. Retrieved 7 December 2022.
- Arblaster, John W. (2018). Selected Values of the Crystallographic Properties of Elements. Materials Park, Ohio: ASM International. .
- Colarusso, P.; Guo, B.; Zhang, K.-Q.; Bernath, P. F. (1996). "High-Resolution Infrared Emission Spectrum of Strontium Monofluoride" (PDF). J. Molecular Spectroscopy. 175 (1): 158. :1996JMoSp.175..158C. :10.1006/jmsp.1996.0019.
- Weast, Robert (1984). CRC, Handbook of Chemistry and Physics. Boca Raton, Florida: Chemical Rubber Company Publishing. pp. E110. .
- Kondev, F. G.; Wang, M.; Huang, W. J.; Naimi, S.; Audi, G. (2021). "The NUBASE2020 evaluation of nuclear properties" (PDF). Chinese Physics C. 45 (3) 030001. :10.1088/1674-1137/abddae.
- "Mineral Resource of the Month: Strontium". U.S. Geological Survey. 8 December 2014. Retrieved 16 August 2015.
- Greenwood and Earnshaw, pp. 112–13
📸 フォトギャラリー







