宇宙の起源に迫る鍵を握る「彗星」。NASAが主導したスターダスト計画は、彗星の周囲に漂う塵を直接採取し、地球に持ち帰るという極めて困難な挑戦に挑んだサンプルリターンミッションです。1999年に打ち上げられたこの探査機は、太陽系の初期状態を保存しているとされる彗星の物質を回収し、科学的な新発見をもたらしました。
Key Facts
- ミッション目的:彗星ワイルド2および宇宙塵のサンプル採取と地球への帰還。
- 主要成果:史上初めて彗星のサンプルリターンに成功し、後に星間物質の可能性を持つ粒子を特定。
- 運用期間:1999年の打ち上げから2011年の運用終了まで、合計約12年にわたる長期ミッション。
- 拡張ミッション:「NExT」として彗星テンペル1の再訪と撮影を実施。
ミッションの概要と目的
スターダスト計画は、1980年代からの彗星研究の流れを汲み、低コストで効率的な「ディスカバリー計画」の一環として設計されました。最大の目的は、彗星ワイルド2のコマ(彗星核を取り囲むガスと塵の雲)から粒子を回収し、地球上の研究施設で詳細に分析することでした。
このミッションでは、単に彗星を観察するだけでなく、物理的なサンプルを回収することで、太陽系形成時の化学組成や、太陽系外から飛来した「星間塵」の正体を明らかにすることが期待されていました。

探査機の設計と高度な採取メカニズム
探査機は、ロッキード・マーティン社とワシントン大学によって開発されました。最大の特徴は、高速で飛来する塵を破壊せずに捕獲するためのエアロゲルコレクターです。これは非常に低密度な固体で、粒子をゆっくりと減速させて包み込む役割を果たしました。
搭載された主要機器には、ナビゲーションカメラ(NavCam)や、彗星および星間塵分析装置(CIDA)、塵フラックスモニター(DFMI)などが含まれており、サンプル採取と同時に詳細な観測が行われました。

旅の軌跡:ワイルド2への到達とサンプルリターン
1999年2月7日にデルタIIロケットで打ち上げられたスターダストは、地球の重力を利用したスイングバイを経て、2002年には小惑星5535アンネフランクに接近し、運用テストを実施しました。その後、2004年1月2日に目標である彗星ワイルド2に接近。時速約22,000km(6.1km/s)という猛烈な速度で通過しながら、エアロゲルを用いて塵を採取しました。
採取後、探査機は再び地球へと向かい、2006年1月15日にサンプルリターンカプセルをユタ州のボンネビル塩湖に投下しました。これにより、人類は初めて彗星の物質を直接手にすることに成功したのです。

拡張ミッション「NExT」と最終局面
サンプルリターン後も探査機は運用を続け、2007年には拡張ミッション「NExT(New Exploration of Tempel 1)」が承認されました。2011年2月15日、かつてディープ・インパクト探査機が衝突実験を行った彗星テンペル1に再接近し、衝突跡を含む表面の最新画像を撮影しました。
2011年3月24日、残りの燃料をすべて使い切る「バーン・トゥ・デプレッション(燃料枯渇燃焼)」を行い、燃料推定システムの精度向上に寄与するデータを送信した後、その長い旅に幕を閉じました。

科学的成果と分析結果
回収されたサンプルからは、アミノ酸の一種であるグリシンが検出されるなど、生命の材料となる有機物の存在が確認されました。さらに2014年には、採取された粒子のうち7つが太陽系外から飛来した「星間塵」である可能性が高いことが発表され、宇宙の他領域の物質を直接分析できる道が開かれました。

ミッション仕様まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 打ち上げ日 | 1999年2月7日 |
| 運用終了日 | 2011年3月24日 |
| 打ち上げ質量 | 385 kg |
| 主要ターゲット | 彗星ワイルド2、彗星テンペル1、小惑星5535アンネフランク |
| サンプル回収地 | 米国ユタ州(2006年1月15日) |
| 開発・運用 | NASA / JPL |
Frequently Asked Questions
スターダスト計画で最も画期的だった点は何ですか?
彗星の塵を採取し、それを地球に持ち帰る「サンプルリターン」を世界で初めて成功させた点です。これにより、遠隔観測では不可能な高精度な化学分析が可能になりました。
エアロゲルとはどのような仕組みで塵を捕まえるのですか?
エアロゲルは非常に軽量で多孔質な素材であり、高速で衝突する微粒子を衝撃で破壊することなく、ゆっくりと減速させて内部に保持する「宇宙のキャッチャーミット」のような役割を果たします。
星間塵の発見とはどういう意味ですか?
太陽系が形成される前から宇宙を漂っていた、あるいは他の恒星系から飛来した物質がサンプルに含まれていたことを意味します。これは太陽系外の化学組成を直接調べる貴重な機会となりました。
拡張ミッションNExTの目的は何でしたか?
以前にディープ・インパクト探査機が衝突した彗星テンペル1を再訪し、衝突によって生じたクレーターや表面の変化を撮影して、彗星の構造や地質学的変化を研究することでした。
探査機は最終的にどうなったのですか?
2011年3月に残りの燃料をすべて消費させる燃焼操作を行い、通信を停止して運用を終了しました。現在は宇宙空間を漂うデコミッショニング(運用停止)状態にあります。
References
- "Stardust Launch" (PDF). jpl.nasa.gov (Press Kit). . February 1999. Archived (PDF) from the original on 16 November 2001.
- "Stardust". solarsystem.nasa.gov. . 22 December 2017. Retrieved 2 December 2022.
- "Instrument Host Information: Stardust". . . Retrieved 20 January 2018.
- "Stardust/NExT". nssdc.gsfc.nasa.gov. . Retrieved 20 January 2018.
- D. C. Agle; Dwayne Brown (25 March 2011). "NASA Stardust Spacecraft Officially Ends Operations". nasa.gov. . Archived from the original on 10 April 2016. Retrieved 16 January 2016.
- Hazel Muir (15 January 2006). "Pinch of comet dust lands safely on Earth". New Scientist. Retrieved 20 January 2018.
- "Mission Information: Stardust". . Retrieved 20 January 2018.
- "Mission Information: NExT". . Retrieved 20 January 2018.
- Tony Greicius, ed. (14 February 2011). "NASA's Stardust Spacecraft Completes Comet Flyby". NASA. Archived from the original on 4 June 2017. Retrieved 20 January 2018.
- Chris Dolmetsch (15 January 2006). "NASA Spacecraft Returns With Comet Samples After 2.9 Bln Miles". . Archived from the original on 28 March 2014.
📸 フォトギャラリー




