現代の金融市場において不可欠な存在であるS&Pグローバルは、そのルーツを19世紀末の専門出版業に持っています。単なるデータ提供会社ではなく、100年以上の時間をかけて出版、教育、放送、そして金融分析へとその事業領域を劇的に変化させてきた稀有な企業です。
Key Facts
- 創業の原点:1888年にジェームズ・H・マクグロウが鉄道関連の専門誌を購入したことが始まり。
- 戦略的統合:マクグロウ社とヒル社が合併し、巨大出版グループ「マクグロウヒル」を形成。
- 事業の転換点:1966年のスタンダード&プアーズ(S&P)買収により、金融格付け分野へ進出。
- 現代への進化:教育や放送事業を売却し、2016年に「S&Pグローバル」へ社名を変更して金融データ特化型へ移行。
- 近年の拡大:IHS Markitの買収(440億ドル)など、大規模なM&Aを通じて分析能力を強化。
出版業としての黎明期と拡大
会社の歴史は、1888年にジェームズ・H・マクグロウが「American Journal of Railway Appliances」という鉄道設備に関する専門誌を手に入れたことから始まります。彼はその後も出版事業を拡大し、1899年にはマクグロウ出版会社を設立しました。
同時期に、ジョン・A・ヒルも同様に技術・業界誌の出版に携わっており、1902年にヒル出版会社を立ち上げます。志を同じくする二人は1909年、書籍部門を統合して「マクグロウ・ヒル書籍会社」を設立。ジョン・ヒルが社長、ジェームズ・マクグロウが副社長に就任しました。その後、1917年には両社の全事業が統合され、「マクグロウ・ヒル出版会社」として一本化されました。
多角化時代:教育・放送・格付けへの進出
20世紀後半、同社は出版の枠を超えた積極的な事業拡大を展開します。1964年に組織再編を経て「マクグロウヒル社(McGraw-Hill, Inc.)」となり、1966年にはポール・タルボット・バブソンから格付け機関のスタンダード&プアーズ(Standard & Poor's)を買収しました。これが後の社名となる重要な転換点となりました。
さらに、1979年にはコンピュータ誌の「Byte」を買収し、1986年には全米最大の教育教材出版社であったエコノミー社を吸収。これにより、同社は米国最大の教育出版社としての地位を確立しました。
また、放送事業にも注力し、1972年にタイム社から4つのテレビ局を買収。1994年にはABCネットワークとの提携を強化し、サンディエゴやインディアナポリス、デンバーなどの放送局を運営するなど、メディア企業としての側面を強めていきました。
金融データ企業への純化と再定義
21世紀に入ると、同社は「選択と集中」の戦略に転換し、非中核事業の売却を加速させます。2009年に「Business Week」をブルームバーグに売却したのを皮切りに、2011年には放送事業部門を2億1,200万ドルでE.W.スクリプス社へ譲渡しました。
最大の転換は教育部門の切り離しです。2012年に「マクグロウヒル・エデュケーション」をアポロ・グローバル・マネジメントに25億ドル(最終的に24億ドルの現金)で売却。これに伴い、2013年に社名を「マクグロウヒル・フィナンシャル」へと変更しました。
その後も、2014年に建設業界向け事業(後のDodge Data & Analytics)を売却し、2016年にはJ.D.パワーを11億ドルで譲渡。そして同年4月、株主の承認を経て、現在のS&Pグローバル(S&P Global Inc.)へと社名を変更し、金融情報・分析の専門企業としてのアイデンティティを明確にしました。
最新の動向とグローバル戦略
S&Pグローバルは、さらなるデータ分析能力の向上を目指して大規模な買収を続けています。2020年には、分析企業であるIHS Markitを440億ドルという巨額の取引で買収することに合意しました。なお、買収後の2023年には、旧IHSのエンジニアリング部門をKKR & Co.へ売却し、同部門は「Accuris」として再出発しています。
また、2025年10月には、市場データおよび分析に強みを持つWith Intelligence社を18億ドルで買収することを発表しており、データプラットフォームとしての支配力をさらに強めています。
企業変遷のまとめ
| 年代 | 主要な出来事 | 戦略的意味合い |
|---|---|---|
| 1888年〜1917年 | マクグロウ社とヒル社の統合 | 専門出版業としての基盤構築 |
| 1966年 | スタンダード&プアーズを買収 | 金融格付け市場への参入 |
| 1986年 | エコノミー社を買収 | 全米最大の教育出版社へ |
| 2011年〜2013年 | 放送事業および教育事業を売却 | 非中核事業の整理と金融特化への移行 |
| 2016年 | S&Pグローバルへ社名変更 | ブランドの再定義と専門性の明確化 |
| 2020年〜2025年 | IHS MarkitやWith Intelligenceを買収 | 分析データ領域の圧倒的拡大 |
Frequently Asked Questions
S&Pグローバルの前身は何ですか?
19世紀末に設立されたマクグロウ出版会社とヒル出版会社が統合してできたマクグロウヒル社が前身です。もともとは鉄道などの技術的な専門誌を扱う出版社でした。
なぜ社名を何度も変更したのですか?
事業内容が「出版・教育」から「金融データ・分析」へと劇的に変化したためです。実態に合わせて、マクグロウヒル → マクグロウヒル・フィナンシャル → S&Pグローバルと変更されました。
教育事業はいつ、どこに売却されましたか?
2012年にアポロ・グローバル・マネジメントへの売却が発表され、2013年3月に24億ドルの現金で取引が完了しました。
IHS Markitの買収規模はどのくらいでしたか?
2020年に合意されたこの買収取引の規模は、約440億ドルにのぼる非常に大規模なものでした。
最近の買収事例にはどのようなものがありますか?
2025年10月に、市場データおよび分析企業であるWith Intelligence社を18億ドルで買収することを発表しています。