私たちは日々、複雑で曖昧な出来事に直面しています。その際、単に情報を処理するだけでなく、「これはどういう意味があるのか」を解釈し、納得感のある物語を構築します。このプロセスこそがセンスメイキング(Sensemaking)、日本語で言えば「意味付け」と呼ばれる概念です。
もともと組織研究の分野で提唱されたこの考え方は、従来の「合理的な意思決定」という視点から、「いかにして行動の意味を構築するか」という視点への転換をもたらしました。本記事では、センスメイキングの定義から、その核心となる7つの特性、そして実社会での応用例までを詳しく解説します。
Key Facts
- 定義: 曖昧な状況や混乱した出来事に対し、人々が納得できる意味を与える継続的なプロセス。
- 提唱者: 1960年代後半にカール・E・ワイック(Karl E. Weick)によって組織研究に導入された。
- 核心: 正確さ(Accuracy)よりも、納得感のある妥当性(Plausibility)を重視する。
- 視点の転換: 「意思決定(Decision-making)」から、行動を通じて意味を創り出す「意味付け(Sensemaking)」へ。
- 応用範囲: 組織論にとどまらず、軍事作戦、医療安全、災害分析など幅広い分野で活用されている。
センスメイキングの概念と歴史的背景
センスメイキングとは、人々が共同で経験したことに意味を与えるプロセスのことです。ワイックはこれを「人々が自身の行動を正当化するために、妥当なイメージを遡及的に(後から)構築し続けること」と定義しました。
この概念が登場する前、組織論の主流は「どのように意思決定を行うか」という点にありました。しかし、ワイックは1969年の著書『The Social Psychology of Organizing』において、組織を固定的な「実体」としてではなく、意味を構築し続ける「活動(Organizing)」として捉えるべきだと主張しました。これは、当時のベトナム戦争における米政府の不合理な資源投入など、事後的に正当化される「後付けの合理性」への批判的な視点から生まれたものです。
現在では、センスメイキングが個人の精神的なプロセスなのか、あるいは対話を通じた社会的なプロセスなのか、また日常的なものか稀なイベントへの反応なのかといった点について議論が続いていますが、「曖昧な状況を理解するためのプロセスである」という点では合意が得られています。
ワイックが定義するセンスメイキングの7つの特性
センスメイキングを深く理解するために、ワイックは以下の7つの重要な特性を挙げています。
1. アイデンティティの重要性
「自分が何者であるか」という自己認識が、出来事の解釈や行動に決定的な影響を与えます。文脈の中でのアイデンティティが、何に注目し、どう意味付けるかを左右します。
2. 遡及的(レトロスペクティブ)な性質
意味付けは、出来事が起きた後に行われます。過去を振り返るタイミングや視点によって、注目するポイントが変わり、結果として導き出される意味も変化します。
3. 環境の構築(エナクトメント)
人々は対話や物語(ナラティブ)を通じて、自らが直面する環境を形作ります。言葉にして語ることで、経験を整理し、複雑な状況をコントロール可能なものへと変換します。
4. 社会的な活動
センスメイキングは一人で完結するものではなく、他者との対話や共有された物語を通じて行われます。自分自身との対話も含め、相互作用の中で意味が洗練されていきます。
5. 継続的なプロセス
意味付けは一度で終わるのではなく、常に更新され続けるフィードバックループです。行動し、その結果を観察し、再び意味を書き換えるというサイクルを繰り返します。
6. 文脈からの手がかり(キュー)の抽出
膨大な情報の中から、特定の「手がかり」を抽出して参照点とします。このシンプルな構造が種となり、より大きな意味のネットワークへと発展します。
7. 正確さよりも妥当性の重視
複雑で不確実な世界では、厳密な「正解」を求めるよりも、「納得できる説明(妥当性)」があることの方が実用的です。人々は、事実としての正確さよりも、物語としての整合性を優先する傾向があります。
実社会における応用と展開
センスメイキングの視点は、計画よりも「実際の行動」に重点を置くため、不確実性の高い危機管理や専門的な現場で活用されています。
危機管理と災害分析
1980年代のボパール化学工場事故の分析などを通じ、災害時に現場でどのような意味付けが行われ、それが結果にどう影響したかという研究が進みました。深い不確実性の中で、人々がどう状況を解釈したかが成否を分けます。
軍事作戦(ネットワーク中心戦)
米国国防総省が推進するネットワーク中心戦(NCO)では、個人の意味付けと共有された認識、そしてコラボレーションの相互作用が重視されています。複雑な戦況において、組織全体で迅速に状況を把握し、共通の理解を構築することが意思決定の質を高めるとされています。
医療安全
患者の安全管理においても、高リスクな状況を早期に検知するための概念的枠組みとして利用されています。医療従事者が状況をどう解釈し、安全性をどう共創するかが研究対象となっています。
| 比較項目 | 従来の意思決定モデル | センスメイキング・アプローチ |
|---|---|---|
| 焦点 | 選択と決定のプロセス | 意味の構築と解釈のプロセス |
| 時間軸 | 未来的(計画的) | 遡及的(事後的・継続的) |
| 重視すること | 客観的な正確さと合理性 | 主観的な妥当性と納得感 |
| アプローチ | 分析的なプランニング | 行動とナラティブによる構築 |
Frequently Asked Questions
センスメイキングと単なる「理解」は何が違うのですか?
単なる理解が既存の知識に当てはめる作業であるのに対し、センスメイキングは曖昧な状況において、自ら行動し、後から振り返ることで「納得できる意味を創り出す」という動的なプロセスである点が異なります。
なぜ「正確さ」よりも「妥当性」が重視されるのですか?
現実の世界、特に組織のような複雑な環境では、唯一の正解に辿り着くことが困難な場合が多いからです。実務においては、完璧な正解を待つよりも、チーム全員が納得して動ける「妥当な物語」がある方が、迅速な行動と組織的な連携が可能になります。
センスメイキングを促進するにはどうすればよいですか?
対話やナラティブ(物語化)を推奨することが有効です。出来事を言葉にして共有し、異なる視点から意味を検討し合うことで、個人の解釈が組織全体の共有認識へと発展しやすくなります。
センスメイキングに関連する他の概念はありますか?
研究分野では、意味を壊す「センスブレイキング(Sensebreaking)」や、特定の意味を提示する「センスギビング(Sensegiving)」、意味を隠す「センスハイディング(Sensehiding)」など、派生した多くの概念が定義されています。
References
- Brown, Andrew D.; Colville, Ian; Pye, Annie (February 2015). "Making Sense of Sensemaking in Organization Studies". Organization Studies. 36 (2): 265–277. :10.1177/0170840614559259. :10871/16256. 0170-8406. 145461963.
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- "Sense-Making/Sensemaking".
- Westwood, Robert Ian; Clegg, Stewart, eds. (2003). Debating organization: point-counterpoint in organisation studies. Malden, Mass. Berlin: Blackwell. p. 186. .
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