出版の世界において、作家の才能を最大限に引き出し、時代を象徴する傑作へと昇華させる「編集者」という役割があります。ロバート・ゴットリーブ(1931-2023)は、まさにその体現者でした。サイモン&シュスター、アルフレッドA・ノップ、そして名門誌『ザ・ニューヨーカー』という、アメリカ出版界の頂点とも言える組織で編集責任者を歴任した彼は、数多くのベストセラーと文学的金字塔を世に送り出しました。
Key Facts
- 主要キャリア:サイモン&シュスター、アルフレッドA・ノップ、ザ・ニューヨーカーの編集長を歴任。
- 代表的な編集作品:『キャッチ22』や『アメリカの死の作法』など、社会現象となった書籍を数多く担当。
- 編集実績:生涯で約600冊から700冊もの書籍に携わったとされる。
- 多才な活動:編集のみならず、ダンス批評家や歴史・伝記の著者としても活躍。
- 独自の審美眼:1940年代のルサイト製バッグを収集するなど、風変わりで鋭いユーモアの持ち主であった。
キャリアの原点とサイモン&シュスター時代
コロンビア大学とケンブリッジ大学で学んだゴットリーブは、1955年にサイモン&シュスターに入社しました。入社当初は編集助手の立場でしたが、上司の急逝や幹部の相次ぐ退職という混乱期にあり、その空白を埋める形で1959年には若くして編集局長に就任しました。彼は旧来の体制と新しい感覚の間で揺れる社内を率いながら、鋭い感性で新たな才能を発掘していきます。

『キャッチ22』という社会現象の創造
彼のキャリアにおいて最も象徴的な成功の一つが、ジョセフ・ヘラーの『キャッチ22』です。当初、多くの出版社が「難解すぎる」として敬遠したこの原稿にゴットリーブは注目しました。彼はヘラーと共に、750ページを超える膨大な草稿から約200ページを削ぎ落とす大胆な編集を行い、作品のキレを増幅させました。結果として、ペーパーバック版が爆発的にヒットし、100万部を超える大ベストセラーとなりました。

なお、タイトルの「22」という数字を巡っては、エージェントが自身の誕生日にちなんだと主張しましたが、ゴットリーブは「18よりも22の方がユーモラスだ」と自ら提案した記憶があるとして、これを強く否定しています。
出版界の頂点へ:ノップ社と『ザ・ニューヨーカー』
1968年、ゴットリーブはアルフレッドA・ノップ社へ移籍し、編集長および社長として辣腕を振るいました。その後、1987年にはウィリアム・ショーンの後継者として、世界で最も権威ある雑誌の一つ『ザ・ニューヨーカー』の編集長に就任します。1992年に同誌を離れた後も、再びノップ社に戻るなど、生涯を通じて出版の第一線で活躍し続けました。
多様なジャンルへの挑戦と編集哲学
彼の編集対象は小説にとどまらず、ノンフィクションや伝記まで多岐にわたります。ジェシカ・ミトフォードによる葬儀業界の告発書『アメリカの死の作法』は、出版直後に完売し、社会に大きな衝撃を与えました。また、チャイム・ポトックの『選ばれし者』では、膨大な原稿をあえて2冊の小説に分けるという判断を下し、高い評価を得ました。

一方で、後にピューリッツァー賞を受賞するジョン・ケネディ・トゥールの『世捨て人の日記(A Confederacy of Dunces)』を、当時は「物語の必然性に欠ける」として出版を断ったというエピソードも残っています。これは、完璧な編集を追求した彼ならではの厳しい審美眼の裏返しと言えるかもしれません。

私生活と独自の感性
仕事での厳格な姿勢とは対照的に、私生活では非常にユニークな趣味を持っていました。特に1940年代から50年代のルサイト(アクリル樹脂)製バッグの収集に情熱を注ぎ、その「実用的ではない滑稽さ」に惹かれたといいます。このコレクションは後に写真集としてまとめられ、彼の遊び心あふれる個性を象徴するものとなりました。
ロバート・ゴットリーブの経歴まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 主な就任ポスト | サイモン&シュスター編集局長 → アルフレッドA・ノップ社長 → ザ・ニューヨーカー編集長 |
| 代表的な担当作家 | ジョセフ・ヘラー、トニ・モリスン、サルマン・ラシュディ、ジョン・ル・カレ、ロバート・カロなど |
| 編集スタイル | 作品に「身を委ねる」ことを重視し、大胆なカットや構成変更を行う |
| その他の活動 | ダンス批評(ニューヨーク・オブザーバー誌)、歴史・伝記の執筆 |
Frequently Asked Questions
ロバート・ゴットリーブはどのような編集スタイルでしたか?
彼は作品に対して「降伏(surrender)」することを大切にしていました。作家の意図を尊重しつつも、読者にとって最高の形にするために、数百ページに及ぶ大胆な削除や構成の変更を厭わない、徹底したプロフェッショナリズムを持っていました。
『キャッチ22』の成功に彼はどう貢献しましたか?
他の出版社が難解として切り捨てた原稿の価値を見抜き、膨大な草稿を大幅に削減することで、作品のテンポとユーモアを最大限に引き出しました。また、ペーパーバック版の権利販売戦略によって、大衆的なヒットへと導きました。
彼が編集した主な作家は誰ですか?
小説ではトニ・モリスンやサルマン・ラシュディ、ジョン・ル・カレなどが挙げられます。また、ノンフィクションではビル・クリントン元大統領やロバート・カロなどの著名人の作品に携わりました。
彼が個人的に収集していたものは何ですか?
1940年代から50年代にかけてのルサイト製ハンドバッグを収集していました。実用性のなさを「面白い」と感じる彼の独特なユーモアセンスが反映されたコレクションでした。
『ザ・ニューヨーカー』編集長としての期間は?
1987年にウィリアム・ショーンの後を継いで就任し、1992年までその職を務めました。
References
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