径方向分布関数 g(r) の基礎と統計力学における役割
物質の微視的な構造を解析する際、粒子が空間的にどのように配置されているかを定量的に示す指標が不可欠です。統計力学において、原子や分子、コロイドなどの粒子系における密度の変動を距離の関数として記述するのが径方向分布関数(Radial Distribution Function)、あるいはペア相関関数と呼ばれる $g(r)$ です。
簡単に言えば、$g(r)$ はある基準粒子から距離 $r$ 離れた位置に別の粒子が存在する確率を、理想気体(粒子間に相互作用がない状態)と比較して表したものです。均質で等方的な系では、基準粒子を原点としたとき、距離 $r$ における局所的な時間平均密度は $\rho g(r)$ と定義されます(ここで $\rho$ は系の平均数密度 $N/V$ を指します)。
具体的に $g(r)$ を算出する場合、基準粒子を中心とした厚さ $dr$ の球殻状の領域内に、どれだけの粒子が含まれているかをカウントします。このヒストグラムを理想気体の分布(相関がない状態)で正規化することで、粒子間の相互作用による構造的な偏りを抽出します。3次元空間における正規化には、数密度 $\rho$ と球殻の体積 $4\pi r^2 dr$ の積が用いられます。

Key Facts
- 定義: 基準粒子から距離 $r$ にある粒子の存在確率を理想気体に対する比率で示した関数。
- 物理的意味: $g(r) = 1$ のとき理想気体と同等であり、$g(r) > 1$ は粒子が集まりやすいこと、$g(r) < 1$ は反発などで粒子が排除されていることを示す。
- 実験的決定: X線回折や中性子回折によって得られる構造因子 $S(q)$ をフーリエ変換することで算出可能。
- 熱力学的連結: 内部エネルギー、圧力、等温圧縮率などのマクロな熱力学量と直接的な計算関係にある。
統計力学的な定義と導出
より厳密な定義には、カノニカルアンサンブル $(N, V, T)$ の枠組みを用います。粒子数 $N$、体積 $V$、温度 $T$ の系において、粒子間の相互作用によるポテンシャルエネルギーを $U_N$ とすると、構成積分 $Z_N$ を通じて粒子の配置確率が決定されます。
特定の $n$ 個の粒子の位置を固定し、残りの $N-n$ 個の粒子の座標について積分することで得られるのがn粒子密度関数 $\rho^{(n)}$ です。粒子が区別不能である場合、この関数は配置の置換対称性を持ち、単純な確率密度関数 $P^{(n)}$ に係数を掛けた形になります。
ここで $n=1$ の場合(1粒子密度)は、結晶のような周期構造を持たない均質な系では、単に全体の数密度 $\rho$ に一致します。一方、$n=2$ の場合の相関関数 $g^{(2)}$ が、私たちが一般的に $g(r)$ と呼ぶ関数であり、2粒子間の相対距離のみに依存する性質を持ちます。
g(r) と熱力学的性質の相関
径方向分布関数は、単なる構造の記述に留まらず、系の熱力学的な状態量と密接に結びついています。
構造因子との関係
実験的に測定可能な構造因子 $S(q)$ は、$g(r)$ のフーリエ変換によって得られます。この関係式により、散乱実験の結果から実空間での粒子配置を逆算することが可能です。
エネルギーと圧力の算出
系の平均内部エネルギー $\langle E \rangle$ や圧力 $p$ は、$g(r)$ と粒子間ポテンシャル $u(r)$ の積分として表現されます。特に圧力については、ビリアル方程式を展開することで、数密度と $g(r)$、およびポテンシャルの微分を用いた状態方程式が導かれます。

その他の物理量
- 等温圧縮率: $g(r)$ の全空間積分($-1$ を加えたもの)は、系の等温圧縮率 $\chi_T$ と直接的に関係しています。
- 平均力ポテンシャル: $g(r)$ は、有効的な相互作用である平均力ポテンシャル $w^{(2)}(r)$ を用いて指数関数的に表現されます。
近似手法とキャビティ分布関数
複雑な液体系などの解析では、$g(r)$ を近似的に扱う手法が用いられます。代表的なアプローチとして、$g(r)$ をポテンシャル項 $\exp[-u(r)/kT]$ と、キャビティ分布関数 $y(r)$ の積として分解する方法があります。
この $y(r)$ は数密度のべき級数(ビリアル展開)として表現でき、この近似を用いることで、熱力学パラメータのビリアル展開と整合性を取ることが可能になります。また、平衡状態にある古典流体において、ある $g(r)$ を生成する有効ペアポテンシャルは(定数を除いて)一意に定まることが証明されています。
まとめ:g(r) の特性一覧
以下に、径方向分布関数に関連する主要な概念をまとめます。
| 項目 | 物理的意味 / 関係性 | 主な用途 |
|---|---|---|
| $g(r) \to 1$ (大距離) | 長距離相関の消失 | 液体の均質性の確認 |
| $g(r) = 0$ (短距離) | 粒子の重なり禁止(排除体積) | 粒子径の推定 |
| 構造因子 $S(q)$ | $g(r)$ のフーリエ変換 | X線・中性子回折解析 |
| ビリアル方程式 | $g(r)$ と $du/dr$ の積分 | 圧力・状態方程式の導出 |
Frequently Asked Questions
径方向分布関数 g(r) とは具体的に何を意味していますか?
ある粒子を基準としたとき、そこから距離 r 離れた場所に別の粒子が見つかる確率が、ランダムな配置(理想気体)に比べてどれだけ高いか(または低いか)を示す関数です。
なぜ理想気体で正規化する必要があるのですか?
単純な粒子数カウントでは、距離 r が大きくなるにつれて球殻の体積($4\pi r^2 dr$)が増えるため、必然的に粒子数も増加します。この幾何学的な増加分をキャンセルし、純粋に粒子間の「相互作用」による影響だけを抽出するために正規化を行います。
g(r) からどのようにして圧力を計算できるのですか?
ビリアル方程式を用います。粒子間の相互作用ポテンシャルの勾配(力)に $g(r)$ を掛け合わせて全空間で積分することで、粒子間の衝突や引力による圧力への寄与分を算出できます。
実験的に g(r) を求める方法はありますか?
はい。X線回折や中性子回折などの散乱実験を行い、得られた構造因子 $S(q)$ をフーリエ変換することで、実空間の分布関数 $g(r)$ を導き出すことができます。
キャビティ分布関数 y(r) とは何が違うのですか?
$g(r)$ は実際の粒子分布を示しますが、$y(r)$ は基準粒子と対象粒子の「排除体積」を考慮せず、周囲の粒子による影響のみを抽出した関数です。これにより、ポテンシャルによる直接的な影響と、周囲の粒子による間接的な影響を分離して解析できます。
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