月の裏側は、常に地球に背を向けているため、地上の管制センターと直接通信を行うことが物理的に不可能です。この困難な課題を解決し、嫦娥4号ミッションを成功に導いたのが、中国が開発した通信中継衛星「鵲橋(Queqiao)」です。本機は単なる通信拠点としてだけでなく、深宇宙無線天文学の観測所としての役割も担っています。
Key Facts
- 配置場所:地球・月系のラグランジュ点(L2)付近のハロー軌道。
- 主要目的:月面裏側の着陸機・ローバーと地球間の通信中継および無線天文学観測。
- 最大の特徴:深宇宙探査衛星として最大級の口径4.2mパラボラアンテナを搭載。
- 技術的達成:1966年に提唱されたL2ハロー軌道による中継構想を世界で初めて実現。
通信を維持するための戦略的軌道選定
月面裏側からの電波は月本体によって遮られるため、地球と着陸地点の両方を同時に視認できる位置に衛星を配置する必要があります。単純な円軌道では、周期的にどちらか一方との通信が途絶えてしまいます。また、複数の衛星でネットワークを構築する方法もありますが、コストとリスクが増大します。
そこで採用されたのが、地球と月の重力が釣り合うラグランジュ点(L2)の活用です。L2点は月の裏側に位置しており、ここを中心に軌道を回ることで、効率的に通信を維持できます。

なぜ「ハロー軌道」なのか
L2点付近には、リャプノフ軌道、ハロー軌道、リサージュ軌道、準ハロー軌道といった異なる軌道形態が存在します。リャプノフ軌道やリサージュ軌道は、一時的に月の背後に隠れて通信が途切れるリスクがありました。また、非周期的な軌道はアンテナや太陽電池パネルの方向制御を複雑にします。これらの要因を排除し、安定した通信を確保するために、維持コストは高いものの、周期的なハロー軌道が選ばれました。
機体構造と高度な通信システム
鵲橋の設計ベースには嫦娥2号が採用されており、アルミニウムハニカムサンドイッチプレート構造のCAST100小型衛星バスを基盤としています。また、製造工程には3Dプリンティング技術が導入され、効率的な部品製作が行われました。
通信面では、月面とのリンクにXバンドを使用しています。ここには、深宇宙探査衛星として最大規模となる口径4.2メートルの展開式パラボラアンテナが搭載されており、強力な信号送受信を可能にしています。

データ伝送の仕様
月面からのデータ転送にはBPSK変調が用いられ、着陸機からは最大555kbit/s、ローバーからは最大285kbit/sの速度で送信されます。一方、地球への送信にはSバンドのBPSK変調と中利得ヘリカルアンテナが使用され、最大10Mbit/sという高速通信を実現しています。
技術仕様まとめ
| 項目 | 月面リンク(前方/後方) | 地球リンク |
|---|---|---|
| 使用周波数帯 | Xバンド | Sバンド |
| アンテナ | 4.2m展開式パラボラアンテナ | 中利得ヘリカルアンテナ |
| 変調方式 | PCM/PSK/PM(前)/ BPSK(後) | BPSK |
| データ転送速度 | 125bit/s(前)/ 最大555kbit/s(後) | 最大10Mbit/s |
Frequently Asked Questions
なぜ月面裏側では直接地球と通信できないのですか?
月は常に同じ面を地球に向けて自転しているため、裏側は常に月本体によって地球から遮られています。電波は月を透過できないため、物理的に通信が遮断されます。
ラグランジュ点(L2)とはどのような場所ですか?
地球と月の重力が互いに打ち消し合い、物体が安定して留まれる平衡点のことです。L2点は月の裏側に位置するため、地球と月面裏側の両方を同時に見渡せる絶好のポイントとなります。
ハロー軌道を採用した最大のメリットは何ですか?
他の軌道(リャプノフ軌道など)とは異なり、衛星が月の背後に隠れて通信が途絶える時間を回避でき、安定した通信時間を確保できる点にあります。
鵲橋が搭載しているアンテナの特筆すべき点は?
口径4.2メートルの展開式パラボラアンテナを搭載しており、これは深宇宙探査に使用される衛星アンテナとしては最大級のサイズであり、遠距離からの微弱な信号を捉えるのに不可欠です。
この衛星は通信以外にどのような目的がありますか?
通信中継だけでなく、中国の宇宙計画における深宇宙無線天文学の観測所としての機能も兼ね備えています。
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