宇宙に浮かぶ天体を包み込むガスの層、それが大気です。大気は天体の重力によって繋ぎ止められており、その成り立ちや成分は、天体が誕生した初期段階での物質の集積や、内部からのガス放出(アウトガス)によって決定されます。しかし、大気は一度形成されれば不変なのではなく、太陽からの光化学反応や地表との化学的な相互作用によって、常にその組成が変化し続けています。
天体が大気を維持できるかどうかは、主に「重力の強さ」と「温度の低さ」に依存します。重力が強く温度が低いほど、ガス分子は宇宙空間へ逃げ出しにくくなります。一方で、太陽から放出されるプラズマの流れである太陽風は、大気を剥ぎ取る働きをしますが、強力な磁気圏を持つ天体ではこの影響が緩和されます。

Key Facts
- 大気の維持条件: 高い重力と低い温度が、ガスの保持に有利に働く。
- 太陽風の影響: 磁気圏がない天体は、太陽風によって大気が失われやすい。
- 組成の多様性: ガス巨星は水素やヘリウムが主成分だが、地球型惑星は窒素や酸素などの重い分子が主となる。
- 外惑星の観測: トランジット分光法を用いることで、太陽系外惑星の大気成分(ナトリウムなど)の検出が可能。
大気の形成と組成の決定要因
天体が大気を獲得するプロセスは、主に原始的な時代に起こります。物質の集積(アクリーション)や、揮発性物質の放出によって基礎的な層が作られます。

太陽系に目を向けると、水星を除くほぼすべての惑星、そして冥王星やタイタンのような衛星が大気を保持しています。木星などのガス巨星は、圧倒的な重力と低い温度のおかげで、宇宙で最も一般的な軽い元素である水素とヘリウムを大量に保持しています。対して、太陽に近い地球型の岩石惑星は、より分子量の大きい炭素、窒素、酸素などを主成分とする大気を持つ傾向にあります。
例えば地球の大気は、生命活動の副産物によってその組成が大きく形作られています。乾燥した空気の約78.08%を窒素が、20.95%を酸素が占め、アルゴンや二酸化炭素がそれに続きます。また、地球の強力な磁気圏は、太陽風による大気の浸食を防ぐ盾として機能しています。
一方、火星はサイズが小さく磁気圏を欠いているため、大気の大部分を失いました。現在の表面気圧は地球のわずか0.6%程度に過ぎません。かつては豊富な水が存在したと考えられていますが、その80〜85%が宇宙へ散逸したと推測されています。

惑星大気の階層構造
地球、金星、火星のような岩石惑星の大気は、高度に応じて異なる特性を持つ層に分かれています。
対流圏と成層圏
最も低い層である対流圏は、雲や天候が発生する領域であり、大気質量の大部分(80〜98%)が集中しています。ここでは地表からの熱が対流によって上空へ運ばれます。地球の場合、その上に成層圏が存在し、オゾン層が紫外線を吸収することで高度とともに温度が上昇する「温度逆転」が起こります。なお、オゾン層を持たない火星や金星には、この成層圏に相当する層は存在しません。
中間圏から外気圏へ
さらに上空の中間圏では、二酸化炭素や水蒸気が赤外線を放射して熱を逃がすため、高度が上がるほど温度が低下し、大気中で最も低温な領域となります。その後、ホモポーズと呼ばれる境界を超えると、ガスは分子量に応じて分離し、軽い成分ほど上方に分布するようになります。
最外縁の外気圏では、気圧が極めて低いため、分子同士の衝突回数が激減します。ここでは、熱速度が脱出速度(天体の重力を振り切って脱出するために必要な速度)を超える軽い分子が、宇宙空間へと流出していきます。
ガス巨星のダイナミクスと外惑星の探査
木星や土星などのガス巨星では、地球のような明確な地表がないため、大気の循環が特徴的な形態をとります。緯度方向に沿って交互に流れる帯状流(ゾーナルフロー)が存在し、これが雲の縞模様を作り出しています。特に海王星では、太陽系で最大規模の差回転(緯度による回転速度の差)が観測されています。

また、天文学の進歩により、太陽系外惑星の大気解析も可能になりました。惑星が主星の前を横切る際に、特定の波長の光が吸収される現象を利用する「トランジット分光法」により、HD 209458bなどの惑星でナトリウム、水素、酸素、炭素などが検出されています。
太陽系天体の大気データまとめ
| 天体名 | 表面気圧 (kPa) | 平均表面温度 (K) | 主成分 (体積比) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 太陽 | 0.1259 | 5,772 | H (91%), He (8.9%) | 恒星大気 |
| 金星 | 9,200 | 737 | CO₂ (96.5%), N₂ (3.5%) | 極めて高圧 |
| 地球 | 101 | 288 | N₂ (78.1%), O₂ (21%) | 生命による組成変化 |
| 火星 | 1 | 214 | CO₂ (95.1%), N₂ (2.6%) | 希薄な大気 |
| 木星 | 165 (100bar地点) | - | H₂ (89.8%), He (10.2%) | ガス巨星 |
| タイタン | 147 | 93 | N₂ (98.4%), CH₄ (1.5%) | 厚い窒素大気 |
| 冥王星 | 0.001 | 24〜38 | N₂ (99%), CH₄ (0.5%) | 極低温の希薄大気 |
Frequently Asked Questions
なぜ水星には大気がほとんどないのですか?
水星は質量が小さいため重力が弱く、ガスを繋ぎ止める力が不足しています。また、太陽に非常に近いため温度が高く、分子が激しく運動して宇宙空間へ脱出しやすいためです。
「スケールハイト(比高)」とは何ですか?
理想気体の大気において、気圧が自然対数の底(e)の逆数分まで減少する高度のことです。これは大気の温度に比例し、重力や分子量の積に反比例します。
磁気圏は大気をどのように守っているのですか?
磁気圏は、太陽から吹き付ける高エネルギーのプラズマ粒子(太陽風)を偏向させるシールドのような役割を果たします。これにより、大気上層の分子が直接叩き出される「剥ぎ取り」プロセスが抑制されます。
太陽系外惑星の大気はどうやって調べるのですか?
主に「トランジット分光法」が使われます。惑星が恒星の前を通過する際、大気を通過した光のスペクトルを分析することで、どの波長の光が吸収されたかを特定し、そこからナトリウムやカリウムなどの元素を検出します。
火星の気圧が上がった場合、どのような状態になりますか?
火星に存在する凍結した二酸化炭素がすべて昇華して気体になった場合、気圧は約30 kPaまで上昇すると考えられています。これは地球のエベレスト山頂付近の気圧に相当します。
References
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