パトリシア・ファウラーは、SFやファンタジーといったジャンル小説から、批評的に高く評価される一般文芸まで、幅広い領域で独自の足跡を残してきた作家です。彼女の作品は、19世紀という時代設定への深い関心や、社会的な疎外感、そしてジェンダーという複雑なテーマを巧みに織り交ぜているのが特徴です。

主要な実績と功績

  • PEN/Faulkner賞(2014年)を受賞し、文芸的な評価を確立。
  • 世界幻想文学賞(World Fantasy Award)を短編集で2度受賞。
  • ネビュラ賞を短編小説で受賞。
  • ジェンダーの理解を深めるアザーワイズ賞(旧ジェームズ・ティプトリ・Jr賞)の創設に尽力。
  • ブッカー賞の候補(ショートリストおよびロングリスト)に複数回選出。

多様な物語を紡ぐ長編小説

ファウラーのキャリアは、1991年のデビュー作『Sarah Canary』から始まりました。1873年の太平洋北西部を舞台にしたこの物語は、社会から疎外された人々(中国系アメリカ人、精神疾患を抱える人物、フェミニスト、そして正体は地球外生命体である主人公)の交流を描いています。彼女は、SF読者にはSFとして、一般読者には一般小説として読めるような、読者の解釈に委ねる構成を目指しました。

その後も、19世紀の特異な側面を切り取った『The Sweetheart Season』(1996年)などの作品を発表。さらに、21世紀の読書会を舞台にした『ジェーン・オースティン読書会』(2004年)は、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト入りを果たすなど、大衆的な成功を収めました。本作は一般文芸でありながら、物語の重要な要素としてSF的な視点が組み込まれています。

近年の代表作である『We Are All Completely Beside Ourselves』(2013年)では、カリフォルニア大学デービス校に通う大学生ローズマリーの視点から、インディアナ州での幼少期と、家族の一員として育てられたチンパンジーのフェーンにまつわる秘密が明かされます。この作品は、その卓越した叙述スタイルが絶賛され、2014年のPEN/Faulkner賞を受賞したほか、ブッカー賞やネビュラ賞の候補にもなりました。

また、シェイクスピア俳優の一族とリンカーン大統領暗殺犯ジョン・ウィルクス・ブースの繋がりを描いた『Booth』は、2022年のブッカー賞ロングリストに選出されています。

Fowler at the National Book Festival in 2022

短編作品と創作のインスピレーション

長編のみならず、短編小説の分野でも高い評価を得ています。15編を収録した『Black Glass』(1998年)と、12編を収録した『What I Didn't See, and Other Stories』(2010年)の2作が、それぞれ世界幻想文学賞を受賞しました。

特に、2003年にネビュラ賞を受賞した短編「What I Didn't See」は、前述の小説『We Are All Completely Beside Ourselves』のためのチンパンジー研究から生まれました。ドナ・ハラウェイのエッセイを通じて、1920年代の遠征隊が「女性にゴリラを殺させれば、ゴリラが恐ろしい動物だと思われなくなり、種の保護につながる」という奇妙な論理を展開していたことを知り、その衝撃が執筆の原動力となったといいます。

教育活動と文学界への貢献

ファウラーは自身の執筆活動にとどまらず、次世代の育成にも力を注いでいます。SF・ファンタジー作家の育成機関であるクラリオン・ワークショップを運営するクラリオン財団の会長を務め、講師としても頻繁に指導にあたっています。また、2007年のReaderconではゲスト・オブ・オナーを務めました。

さらに、1991年にはパット・マーフィーと共に、ジェンダーの概念を拡張・探求する作品を称える「ジェームズ・ティプトリ・Jr賞」を創設しました。この賞は、ペンネームのジェームズ・ティプトリ・Jrとして知られるアリス・シェルドンにちなんで名付けられ、現在は「アザーワイズ賞(Otherwise Award)」として、性役割の変遷を反映した作品を顕彰し続けています。

作品・活動まとめ

パトリシア・ファウラーの主な作品と活動
カテゴリー 名称・作品名 主な特徴・受賞
長編小説 Sarah Canary 19世紀の疎外された人々を描いたデビュー作
長編小説 ジェーン・オースティン読書会 NYTベストセラー、一般文芸とSFの融合
長編小説 We Are All Completely Beside Ourselves PEN/Faulkner賞受賞、チンパンジーとの共生
短編集 Black Glass / What I Didn't See... 世界幻想文学賞を2度受賞
賞の創設 アザーワイズ賞 ジェンダーの理解を深める作品を顕彰
教育 クラリオン財団 会長として作家ワークショップを運営

Frequently Asked Questions

パトリシア・ファウラーはどのようなジャンルの作家ですか?

SFやファンタジーといったジャンル小説から、一般文芸まで幅広く執筆しています。特に19世紀を舞台にした物語や、ジェンダー、社会的な疎外感をテーマにした作品を得意としています。

『We Are All Completely Beside Ourselves』はどのような物語ですか?

大学生のローズマリーが、自身の過去と家族の秘密を振り返る物語です。行動心理学者の父を持つ彼女が、幼少期に共に育てられたチンパンジーのフェーンの失踪を通じて、自身のアイデンティティに向き合います。

アザーワイズ賞(旧ジェームズ・ティプトリ・Jr賞)とは何ですか?

パトリシア・ファウラーが共同創設した文学賞で、ジェンダーに対する理解を広げたり、変化する性役割を反映したりしたSF・ファンタジー作品を対象としています。

短編「What I Didn't See」の着想源は何でしたか?

チンパンジーに関する研究中に目にした、1920年代の遠征隊のエピソードです。「女性がゴリラを殺せば、その動物への恐怖心が消え、結果的に種が保護される」という当時の考え方に衝撃を受けたことが執筆につながりました。

作家育成のためにどのような活動をしていますか?

クラリオン・サイエンス・フィクション&ファンタジー作家ワークショップを運営するクラリオン財団の会長を務め、講師として多くの作家志望者を指導しています。