民主主義国家において、本選挙に臨む政党の代表候補をどのように選出するかは、政治的な正当性と戦略の両面から極めて重要です。その代表的な手法が予備選挙(プライマリー)です。これは、党員や有権者が直接投票することで、党の公認候補を決定するプロセスを指します。
予備選挙の形態は国や地域によって大きく異なり、参加資格を厳格に制限するものから、党籍を問わず開放するものまで多岐にわたります。本記事では、特に制度が複雑なアメリカの事例を中心に、欧州やその他の地域での運用実態について詳しく解説します。

Key Facts
- 予備選挙の目的:本選挙に出馬する政党の公認候補者を、党内投票によって決定すること。
- 参加資格の多様性:登録党員のみが投票できる「クローズド」から、誰でも参加可能な「オープン」まで存在する。
- アメリカの特異性:州ごとに異なるルールが適用され、トップ2方式などの特殊な制度も導入されている。
- グローバルな展開:欧州やアジア、中南米でも党首選や候補者選定に予備選挙的な手法が取り入れられている。
アメリカにおける予備選挙の分類と歴史
アメリカの予備選挙制度は、歴史的に党による候補者指名権を一般有権者に開放する方向で進化してきました。1890年代に南部州の民主党で始まったこの仕組みは、当初は党幹部による管理下にありましたが、次第に州レベル、そして大統領選の候補者選出へと広がりました。
参加資格による主な分類
アメリカでは、誰が投票できるかによって主に以下のタイプに分けられます。
- クローズド・プライマリー(Closed Primary):特定の政党に登録している党員のみが投票できる形式です。
- オープン・プライマリー(Open Primary):政党登録の有無にかかわらず、有権者が任意の政党の予備選に投票できる形式です。
- セミクローズド(Semi-closed):党員に加え、無党派層の有権者にも参加を認める中間的な形式です。
- 非党派的(Nonpartisan)/ トップ2方式:政党の枠を超えて全候補者が一つの投票用紙に記載され、得票数上位2名が党籍に関わらず本選に進む仕組みです。カリフォルニア州やワシントン州などで導入されています。

制度の変遷と論争
かつての大統領候補選出は党大会での指名が中心でしたが、1968年の民主党大会での混乱(予備選を勝ち抜いていない候補者が指名されたことへの反発)を経て、1972年以降、全州での予備選実施が重視されるようになりました。
また、過去には人種差別的な「ホワイト・プライマリー(白人限定予備選)」が存在しましたが、1944年の最高裁判決(スミス対オールライト事件)により違憲とされました。

世界各国における予備選挙の運用
アメリカ以外の国々でも、党の民主化や支持拡大を目的として予備選挙的な手法が採用されています。
欧州の事例
- フランス:社会党などが、党員以外にも門戸を開いた「オープン・プライマリー」を実施し、大統領候補を選出した実績があります。
- ドイツ:緑の党などが党員による投票でトップ候補を選出しており、SPD(社会民主党)やCDU(キリスト教民主同盟)も党首選に党員投票を導入しています。
- 欧州連合(EU):欧州緑の党が、EU市民を対象とした広域的なオープン・プライマリーを試行した事例があります。
その他の地域
- カナダ:主要政党の党首選において、優先順位付き投票(即時決選投票)が活用されています。
- カザフスタン:与党ヌル・オタンが、地方議会候補の選出に大規模なクローズド・プライマリーを導入し、オンライン投票なども併用しています。
- ロシア:「全人民予備選」という名称で実施されることがありますが、実際には選出結果が党指導部によって無視されるなど、形式的な運用に留まるケースが見られます。
選挙制度の理論的背景と課題
予備選挙を含む社会的な選択(Social Choice)には、数学的・理論的な課題が伴います。例えば、候補者が乱立することで票が分散し、本来支持されるべき候補が落選する「スポイラー効果」や、戦略的な投票行動による結果の歪みが指摘されています。
また、アローの不可能性定理などの理論は、どのような投票方式であっても、完全に公平で矛盾のない決定ルールを構築することの困難さを示しています。
| 形式 | 投票資格 | 主な特徴 | 主な導入例 |
|---|---|---|---|
| クローズド | 登録党員のみ | 党の純度を維持しやすい | 米国の多くの州、ドイツの党首選 |
| オープン | 全有権者 | 幅広い支持層を取り込める | 米国の特定州、フランス社会党 |
| トップ2方式 | 全有権者 | 党籍を問わず上位2名が本選へ | カリフォルニア州、ワシントン州 |
| 優先順位付き | 党員/有権者 | 第2・第3希望を記入し集計 | カナダ主要政党の党首選 |
Frequently Asked Questions
オープン・プライマリーとクローズド・プライマリーの最大の違いは何ですか?
最大の違いは「誰が投票できるか」という参加資格です。クローズドは特定の政党に登録した党員のみに限定されますが、オープンは政党に関係なく、その選挙の投票権を持つ有権者が参加できます。
「トップ2方式」とはどのような仕組みですか?
予備選挙に全候補者が一斉に出馬し、政党に関わらず得票数が多い上位2名だけが本選挙に進出する制度です。これにより、同じ政党の候補者が2人本選に残る可能性もあります。
予備選挙はなぜ必要なのですか?
党幹部による密室での指名ではなく、党員や有権者の意思を反映させることで、候補者の正当性を高め、本選挙での勝率を上げるため、あるいは党内の民主的な意思決定を行うために実施されます。
アメリカ以外の国でも予備選挙は行われていますか?
はい。フランスやドイツなどの欧州諸国、カナダ、さらにはカザフスタンやイスラエルなど、世界各地で党首選や公認候補選定のために様々な形式の予備選や党内投票が行われています。
優先順位付き投票(Ranked-choice voting)とは何ですか?
単に一人を選ぶのではなく、候補者に「1位、2位、3位…」と優先順位をつけて投票する方式です。1位票で過半数に達しない場合、最下位の候補者を脱落させ、その票を次順位の候補者に割り振ることで、より多くの支持を得た候補者を決定します。
References
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