岩石の化学組成を分析し、そこから理論的に導き出される理想的な鉱物組み合わせを推定することを標準鉱物組成(ノルマティブ・ミネラロジー)と呼びます。これは、実際の岩石に含まれる鉱物を直接観察するのではなく、地球化学的な原則に基づいた計算によって「もしこの化学組成の融液が理想的に結晶化したなら、どのような鉱物が形成されるか」をシミュレーションする手法です。
主に用いられる計算手法には、歴史的な「CIPWノルム」と、別名カチオンノルムとも呼ばれる「Barth-Niggliノルム」の2種類があります。これらの計算は、岩石の元素構成を酸化物(例:MgをMgOとして表記)として定量分析した結果を基に行われ、現在はコンピュータプログラムを用いて効率的に算出されています。
Key Facts
- 目的: 化学分析値から、結晶化した融液の理想的な鉱物組成を推定すること。
- 主な用途: 斑晶が少ない岩石(潜晶質岩)の組成把握や、融液のシリカ飽和度の判定。
- CIPWノルムの前提: 無水状態、低圧下での結晶化を想定した簡略化モデルである。
- 限界: 計算上の理想値であるため、実際の観察結果(モード鉱物組成)とは必ずしも一致しない。
CIPWノルムの仕組みと制約
20世紀初頭にCross, Iddings, Pirsson, Washingtonの4名によって確立されたCIPWノルムは、天然の火成岩の地球化学的特性を簡略化するため、以下の4つの制約条件を設けています。
- 無水条件: 水を含まない融液からの結晶化を想定するため、角閃石や黒雲母などの含水鉱物は形成されない。
- アルミナの排除: 鉄マグネシウム鉱物にはAl2O3が含まれないと仮定する。
- Fe/Mg比の均一化: すべての鉄マグネシウム鉱物において、鉄とマグネシウムの比率は同一であるとみなす。
- 鉱物の不共存: 特定の鉱物同士は共存しないと定義されており、例えば石英が存在する場合、霞石やかんらん石は計算結果に現れない。
これらの制約は人工的なものであるため、CIPWノルムの結果がそのまま自然界の分化過程を完全に再現しているわけではありません。しかし、診断的な長石様鉱物が欠けている場合でも、融液のシリカ飽和度を客観的に評価できるという大きな利点があります。
計算のプロセス
計算では、まず主要元素のカチオンをシリカアニオンに割り当てていきます。まずアパタイト(リン)、岩塩(塩素・ナトリウム)、黄鉄鉱(硫黄・FeO)、クロマイト(FeO・Cr2O3)、イルメナイト(FeO・TiO2)、方解石(CaO・CO2)といった非ケイ酸塩鉱物を優先的に形成させます。その後、残った成分を正長石や曹長石などのケイ酸塩鉱物に割り当て、最終的にシリカが不足すれば長石様鉱物が、余れば石英が算出されます。
標準鉱物組成とモード鉱物組成の違い
モード鉱物組成とは、顕微鏡観察などで実際に視認できる鉱物の割合のことです。一方、標準鉱物組成はあくまで計算上の推定値であるため、両者の間にはしばしば乖離が生じます。特に鉄マグネシウム鉱物や長石類などの固溶体系列を持つ鉱物や、水の影響で組成が変わる鉱物(輝石の代わりに角閃石や黒雲母が現れるなど)において、その差は顕著になります。
しかし、結晶が非常に細かい潜晶質岩や、斑晶が周囲の石基と平衡状態にない岩石の場合、標準鉱物組成の計算は、その岩石の進化過程や地域的な火成活動との関係を理解するための最も有効な手段となります。
適用時の注意点と限界
数学的モデルに基づくため、以下の条件下では計算結果に誤差が生じやすく、実際の観察結果と照らし合わせて慎重に判断する必要があります。
| 要因 | 影響と理由 |
|---|---|
| 累積岩(Cumulate) | 岩石全体が元の融液組成を代表していないため、得られる情報の価値が低い。 |
| 酸化状態 | Fe2+/Fe3+比の誤認により、磁鉄鉱や赤鉄鉱の量が変動し、ケイ酸塩鉱物の組成も変わる。 |
| 圧力と温度 | 低圧・無水条件を前提としているため、マントル由来の高圧岩石(金雲母や角閃石が関与するもの)には不向き。 |
| 二酸化炭素(CO2) | 炭酸岩やキンバーライト等では、Cの分析漏れがカルシウムの過剰評価を招き、シリカ不飽和と判定される。 |
| ハロゲン元素 | ホウ素による電気石や、塩素による鱗雲石の形成など、特殊な組成を持つ岩石では計算が狂う。 |
| 鉱物の不平衡 | 捕獲岩(ゼノリス)や外来鉱物を含む火成角礫岩などに適用するのは不適切である。 |
以上の理由から、キンバーライト、ラムプロアイト、ラムプロファイア、および一部のシリカ不飽和岩や炭酸岩への適用は推奨されません。ただし、変成作用を受けた火成岩に対しては有効であり、原岩の鉱物が消失していても、想定される元の鉱物組成を導き出すことが可能です。
Frequently Asked Questions
CIPWノルムで得られる結果は実際の岩石の組成と同じですか?
いいえ、異なります。CIPWノルムは特定の制約(無水・低圧など)に基づいた「理想的な」計算値であり、実際の観察で得られるモード鉱物組成とは、特に含水鉱物や固溶体鉱物の割合において差が出ます。
なぜシリカ飽和度の判定にこの計算が必要なのですか?
シリカ飽和度は単なるシリカ量だけでなく、アルカリ元素や金属元素の比率によっても変化するため、単純な成分量だけでは判断できません。計算によって理想的な鉱物組み合わせを出すことで、客観的に飽和状態を判定できます。
どのような岩石にCIPWノルムを適用すべきではありませんか?
炭酸岩、キンバーライト、ラムプロアイトなどの特殊な組成を持つ岩石や、捕獲岩を多く含む火成角礫岩には不適切です。また、マントル深部のような高圧環境で形成された岩石にも限界があります。
変成岩にこの手法を使うことはできますか?
はい、可能です。変成作用を受けた火成岩に適用することで、元の火成岩(原岩)がどのような鉱物組成を持っていたかを推定するのに役立ちます。
累積岩の分析に標準鉱物組成は使えますか?
累積岩全体での計算は、元の融液組成を反映していないためあまり意味がありません。ただし、累積岩の中の「石基(グランドマス)」のみを分析して計算すれば、親融液に関する有用な情報を得ることができます。