私たちの身の回りには、水のようにサラサラとした液体だけでなく、力を加えると急に硬くなったり、逆に緩くなったりする不思議な性質を持つ液体が存在します。これらは物理化学や流体力学の分野で非ニュートン流体と呼ばれています。一般的な液体(ニュートン流体)とは異なり、加えられるストレスや時間によって「粘り気(粘度)」が変化するのが最大の特徴です。
例えば、ケチャップのボトルを振ると中身が出やすくなるのは、振動という力が加わることで粘度が低下するためです。このように、外部からの刺激に反応して性質を変える流体は、工業製品から人体の中の血液まで、非常に幅広い範囲に存在しています。

Key Facts
- 粘度の変動: 加えられた力(せん断応力)や時間によって粘度が変化する。
- ニュートン流体との違い: ニュートン流体は粘度が一定だが、非ニュートン流体は一定ではない。
- 多様な挙動: 力をかけると硬くなる「せん断増粘」や、緩くなる「せん断減粘」などのタイプがある。
- 身近な例: 血液、ペイント、歯磨き粉、マヨネーズ、そして有名な「ウーブレック」などが該当する。
非ニュートン流体の分類とメカニズム
非ニュートン流体の挙動を理解するには、レオロジー(物質の変形と流動に関する学問)の視点が不可欠です。多くの非ニュートン流体は、せん断速度(液体をずらす速さ)によって粘度が変わりますが、中には時間の経過とともに変化するものもあります。
1. せん断速度によって変化するタイプ(時間依存性なし)
力を加えた瞬間に反応するタイプです。代表的なものに以下の3つがあります。
- せん断減粘(擬塑性流体): 強い力をかけるほど粘度が下がり、流れやすくなる性質です。血液やマニキュア、ケチャップなどがこれにあたります。
- せん断増粘(ダイラタント流体): 逆に、強い力をかけるほど粘度が上がり、硬くなる性質です。水にコーンスターチを混ぜた「ウーブレック」が典型例です。
- ビンガム塑性: ある一定以上の力(降伏応力)が加わるまで液体として流れない性質です。歯磨き粉やマヨネーズのように、静止しているときは形を保ちますが、絞り出すと流動します。

2. 時間の経過によって変化するタイプ(時間依存性あり)
同じ力をかけ続けていても、時間の経過とともに粘度が変化する流体です。
- チキソトロピー: 力を加え続けることで徐々に粘度が低下する性質です。一部の塗料やヨーグルトに見られます。
- レオペクシー: 力を加え続けることで徐々に粘度が上昇する性質です。滑液(関節の液)などが例として挙げられます。

日常生活や科学実験に見る具体例
ウーブレック(Oobleck)の驚異
水とコーンスターチを混ぜて作る「ウーブレック」は、せん断増粘の代表例です。ゆっくり触れれば液体のように振る舞いますが、強く叩いたり素早く歩いたりすると、瞬間的に固体のような硬さになります。このため、十分な速度で動けばウーブレックの上を歩くことも可能です。また、サブウーファーの上に置くと、低周波の音波による振動で部分的に硬化し、奇妙な立体構造を形成します。
![Oobleck on a subwoofer. Applying force to oobleck, by sound waves in this case, makes the non-Newtonian fluid thicken.[16]](/images/60/8b/608b5ea675188468a1bcd0c3e45985ce8c670ddbe842b4cf4688cde6e7d51009.jpg)
スライムとその他の特殊流体
ポリビニル酢酸系の糊とホウ砂で作るスライムは、低ストレスでは流動し、高ストレスでは破断するという特性を持つマックスウェル流体の一種です。また、シリコンポリマーベースの「シリコンプティ」や植物の樹脂などは、変形速度に応じて跳ねたり、流れたり、砕けたりする粘弾性を示します。

自然界と工業製品への応用
血液はせん断減粘特性を持つため、血管内での流れが効率化されています。また、壁紙用の塗料は、刷毛で塗る際はスムーズに広がり(低粘度)、塗り終えて壁に定着した後は垂れにくい(高粘度)という特性が利用されています。他にも、泥濘(クイックサンド)は静止状態で粘度が高まりますが、衝撃が加わると液状化し、物体を飲み込む性質を持っています。
非ニュートン流体の特性まとめ
| 挙動タイプ | 粘度の変化 | 主な具体例 |
|---|---|---|
| せん断減粘(擬塑性) | ストレス増 $\rightarrow$ 粘度低下 | ケチャップ、血液、マニキュア |
| せん断増粘(ダイラタント) | ストレス増 $\rightarrow$ 粘度上昇 | ウーブレック、キャラメルソース |
| ビンガム塑性 | 一定の力まで流動しない | 歯磨き粉、マヨネーズ、泥水 |
| チキソトロピー | 時間経過 $\rightarrow$ 粘度低下 | 一部の塗料、ヨーグルト |
| レオペクシー | 時間経過 $\rightarrow$ 粘度上昇 | 滑液、プリンターインク |
| 粘弾性 | 弾性と粘性の両方を併せ持つ | スライム、シリコンプティ |
Frequently Asked Questions
非ニュートン流体と普通の液体の決定的な違いは何ですか?
最大の違いは「粘度が一定かどうか」です。水のようなニュートン流体は、かき混ぜる速さを変えても粘り気は変わりません。一方、非ニュートン流体は、かき混ぜる速さや力の加え方、あるいは時間の経過によって粘り気が変化します。
なぜケチャップは振ると出やすくなるのですか?
ケチャップは「せん断減粘(擬塑性)」という性質を持っているためです。ボトルを振ることで内部にせん断応力が加わり、一時的に粘度が低下してサラサラな状態になるため、スムーズに流れ出します。
ウーブレックの上を本当に歩くことができますか?
はい、可能です。ウーブレックは「せん断増粘」特性を持つため、足で強く、素早く踏みつけることで、足裏に接する部分が瞬間的に固体のように硬くなります。ただし、ゆっくり足を動かすと液体として振る舞い、沈み込んでしまいます。
血液が非ニュートン流体であることはどのようなメリットがありますか?
血液がせん断減粘性を持つことで、心臓から送り出される際や細い血管を通過する際に、流速が上がると粘度が下がります。これにより、心臓への負担を軽減しつつ、効率的に全身に酸素や栄養を運ぶことができます。
スライムは液体なのですか、それとも固体なのですか?
スライムは「粘弾性流体」であり、液体と固体の両方の性質を併せ持っています。ゆっくりとした力には液体のように流動しますが、急激な力を加えると固体のように破断します。このような挙動を示すため、単純にどちらか一方に分類することはできません。
References
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