米国議会議事堂のロトンダ(円形ホール)のすぐ南に位置するナショナル・スタチュアリ・ホールは、アメリカの歴史を彩った著名人の彫像が集結する荘厳な空間です。かつては下院の議場として機能していたこの場所は、現在では国家の記憶を保存する芸術的なギャラリーへと姿を変え、世界中から訪れる観光客を魅了しています。
このホールは、単なる展示室ではなく、アメリカ合衆国の政治的変遷と建築美が融合した象徴的な場所です。2階建ての半円形構造を持ち、曲線を描く外周に沿って2階のギャラリーが設けられています。

主要な事実(Key Facts)
- 元々の用途:1807年から1857年まで、米国下院の議場として使用されていた。
- 転換点:1864年に「ナショナル・スタチュアリ・ホール」として再定義され、彫像の収集が始まった。
- 建築様式:アメリカにおける初期の新古典主義建築の代表例であり、古代の円形劇場をモデルにしている。
- コレクション:各州から選出された著名人の彫像が展示されており、現在はホール内に38体、その他議事堂内に分散して配置されている。
- 儀礼的役割:大統領の就任後の昼食会や、国家的に重要な人物の遺体を安置する「ライ・イン・ステート(国葬形式の安置)」の場としても利用される。
建築的特徴と芸術的装飾
ホールの設計は、古代ギリシャ・ローマの劇場を彷彿とさせる新古典主義に基づいています。壁面の多くは塗装された石膏で仕上げられていますが、低いギャラリーの壁やピラスター(付け柱)には砂岩が使用されています。特に目を引くのが、ポトマック川沿いで採掘された多彩なブレッチャ大理石の巨大な円柱で、その頂部にあるコリント式柱頭はイタリアのカッラーラ産白大理石から精巧に彫り出されました。

天井は耐火性の鋳鋼製で、中央のランタン(採光窓)から自然光が降り注ぎます。床面は白と黒の大理石タイルで構成されており、黒いタイルは専用に調達され、白いタイルは議事堂の拡張工事で出た端材が再利用されました。
また、ホール内には象徴的な彫刻が配置されています。かつての議長席後方にあるニッチには、エンリコ・カウシチ作の「自由と鷲」が鎮座し、ロトンダへ続く扉の上にはカルロ・フランゾーニ作の「歴史の車」が設置されています。この作品は歴史の女神クリオが時の車に乗り、議場での出来事を記録する様子を描いており、車輪部分にはサイモン・ウィラード製の時計が組み込まれています。
下院議場としての激動の歴史
現在のホールが完成するまでには、いくつかの試行錯誤がありました。1801年に急造された「オーブン」と呼ばれる仮設建物を経て、1807年にベンジャミン・ヘンリー・ラトローブ設計の最初の恒久的な議場が完成しました。しかし、1812年戦争中の1814年にイギリス軍によって焼失し、その後1815年から1819年にかけてラトローブとチャールズ・バルフィンチの手で現在の姿に再建されました。
しかし、この美しい曲線を描く天井は深刻な音響問題を引き起こしました。激しい反響(エコー)により議論の内容が聞き取りにくく、カーテンを吊るしたり座席配置を変えたりする対策を講じましたが、解決には至りませんでした。最終的に、音響的に優れた新しい議場が必要となり、1857年に下院は現在の新翼へと移転しました。

議場として使用されていた時代、ここでは多くの歴史的瞬間が刻まれました。1824年にはラファエット侯爵が外国人で初めて議会で演説し、ジェームズ・マディソンやアンドリュー・ジャクソンなど5人の大統領がここで就任宣誓を行いました。特にジョン・クインシー・アダムズ大統領との縁が深く、彼はここで大統領に選出されただけでなく、退任後も17年間議員として活動し、1848年にこの場所で倒れ、隣接する議長室で息を引き取りました。
彫像コレクションの成立と変遷
下院が移転した後、この空間の用途を巡っては、議会図書館の拡張や委員会室への改装など様々な案が出されました。最終的に、芸術ギャラリーとして活用することが決定し、1864年にジャスティン・モリル議員の主導で、各州が2体の著名人の彫像を寄贈する制度が確立されました。
この制度により、1870年から順次彫像が設置され、1971年までに全50州が少なくとも1体、1990年までにほぼ全ての州が2体の彫像を揃えました。当初は全ての像をこのホールに集めていましたが、数が増えすぎたため、1933年からは議事堂内の他の場所へ分散して展示されるようになりました。2008年には、さらに23体の像が新設されたキャピトル・ビジターセンターへ移設されました。

1976年の建国200周年記念の際には、サミュエル・モースによる1822年の油彩画を基に、シャンデリアや赤いカーテン、暖炉などが忠実に再現され、当時の雰囲気が復元されました。
展示彫像の概要
現在、ホール内には「歴史の車」や「自由と鷲」のほか、36体の歴史的人物像が並んでいます。そのほとんどが州からの寄贈による「ナショナル・スタチュアリ・ホール・コレクション」の一部ですが、ローザ・パークス像のみは議会によって直接委託されたものです。
| 彫像名 | 寄贈州 / 委託元 |
|---|---|
| イーサン・アレン像 | バーモント州 |
| アメリア・イアハート像 | カンザス州 |
| トーマス・エジソン像 | オハイオ州 |
| ローザ・パークス像 | 米国議会 |
| ブライガム・ヤング像 | ユタ州 |
| シーコヤ像 | オクラホマ州 |
Frequently Asked Questions
なぜこのホールはもともと議場として使われなくなったのですか?
最大の理由は音響問題でした。天井の形状による激しいエコーのため、議論の内容が聞き取りにくく、業務に支障をきたしたため、1857年に新しい議場へ移転しました。
彫像はどのようにして選ばれているのですか?
1864年の法律に基づき、各州が自州の歴史において顕著な功績を残した著名人を2名選出し、彫像を寄贈する形式となっています。
ホール内で「ライ・イン・ステート(遺体安置)」が行われた人物は誰ですか?
近年では、イライジャ・カミングス(2019年)、ルース・ベイダー・ギンズバーグ(2020年)、ドン・ヤング(2022年)の3名がこのホールで安置されました。
現在、全ての州の彫像はこのホールにありますか?
いいえ。コレクションが拡大し、スペースや構造上の制限が生じたため、1933年以降、多くの彫像は議事堂内の他のエリアやビジターセンターに分散して展示されています。
建築における特徴的な素材は何ですか?
ポトマック川沿いで採掘されたブレッチャ大理石の円柱や、イタリアのカッラーラ産白大理石の柱頭、そして床に使用された白黒の大理石タイルなどが特徴です。
References
- "National Statuary Hall". . Archived from the original on June 3, 2021. Retrieved June 10, 2021.
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