歴史の闇に消えたロシア帝国末期の皇女アナスタシア。彼女の運命を巡るミステリーを舞台化したミュージカル『アーニャ(Anya)』は、クラシック音楽の巨匠セルゲイ・ラフマニノフの旋律を大胆に取り入れた独創的な作品です。1960年代のブロードウェイで上演された本作は、音楽的な贅沢さとドラマチックな展開が融合した、ある種のオペレッタ(歌唱中心の軽歌劇)的な趣を持つ舞台でした。
Key Facts
- 音楽的特徴:セルゲイ・ラフマニノフの楽曲テーマを基に、ロバート・ライトとジョージ・フォレストが作曲・作詞を担当。
- 原作:マルセル・モレットの戯曲『アナスタシア』および1956年の同名映画に基づいている。
- ブロードウェイ公演:1965年11月29日にジーグフェルド劇場で開幕したが、16回の上演で幕を閉じた。
- 評価:トニー賞の最優秀舞台美術賞にノミネートされた。
物語の構成と背景
物語の舞台は1925年のベルリン。元コサック将軍のタクシー運転手ブーニンは、精神病院で一人の女性、アーニャに出会います。彼女は自分が、ロシア革命の混乱の中で殺害されたはずのニコライ2世の末娘、アナスタシアであると主張します。この劇的な再会から、失われた皇族の正体を探る物語が展開します。
しかし、本作は史実を忠実に再現したものではありません。ブーニンの愛人ジェニアとの三角関係や、カフェ店主カトリーナという喜劇的なキャラクターの追加など、フィクションとしての要素が強く盛り込まれています。また、現実には会うことのなかった太后とアーニャが対面するという設定など、物語としての劇的な演出が優先されていました。
制作陣とブロードウェイでの挑戦
脚本はジョージ・アボットとガイ・ボルトンが手掛け、演出をアボット、振付をハニャ・ホルムが担当しました。音楽面では、ロバート・ライトとジョージ・フォレストというコンビが、過去の作品(『ノルウェーの歌』や『キスメット』)と同様に、既存のクラシック作曲家のテーマをミュージカル形式に再構築する手法を採用しました。
豪華なキャスト陣には、アーニャ役のコンスタンス・タワーズ、ブーニン役のマイケル・ケルモヤン、そして太后役を演じた名女優リリアン・ギッシュらが名を連ねました。しかし、当時の批評家からは「古風なオペレッタである」と厳しく評され、商業的な成功を収めることはできませんでした。結果として、1927年に『ショウボート』を上演した歴史あるジーグフェルド劇場における最後の作品となりました。
作品の変遷と音楽的遺産
ブロードウェイでの短期間の上演後も、本作は形を変えて生き続けました。1967年の『A Song for Anastasia』を皮切りに、『The Anastasia Game』(1989/1990年)、『The Anastasia Affaire』(1992年)、そして『Anastasia, the Musical』(1998年)と、タイトルや構成を変更しながら再構築が繰り返されました。
また、1992年には1989年のキャストを中心としたキャストレコーディングが制作され、1998年にはさらに拡張版として再リリースされるなど、音楽的な価値は後世に伝えられています。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 音楽・作詞 | ロバート・ライト、ジョージ・フォレスト(ラフマニノフのテーマに基づく) |
| 脚本 | ジョージ・アボット、ガイ・ボルトン |
| 初演日 | 1965年11月29日(ブロードウェイ) |
| 主な出演者 | コンスタンス・タワーズ、マイケル・ケルモヤン、リリアン・ギッシュ |
| 受賞・ノミネート | トニー賞 最優秀舞台美術賞ノミネート |
楽曲リスト
第1幕
- A Song from Somewhere
- Vodka, Vodka!
- So Proud
- Homeward
- Snowflakes and Sweethearts (The Snowbird Song)
- On That Day
- Anya
- Six Palaces
- Hand in Hand
- This Is My Kind of Love
- On That Day (Reprise)
第2幕
- That Prelude!
- A Quiet Land
- Here Tonight, Tomorrow Where?
- Leben Sie Wohl
- If This Is Goodbye
- Little Hands
- All Hail The Empress
Frequently Asked Questions
このミュージカルの音楽はどのように作られましたか?
作曲家ロバート・ライトとジョージ・フォレストが、ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフが書いた既存のテーマ曲を基にして、ミュージカル用のスコアとして再構成しました。
物語のベースとなっているのは何ですか?
マルセル・モレットによる1952年の戯曲『アナスタシア』と、それを基にした1956年の映画版がベースとなっています。
ブロードウェイでの評価はどうでしたか?
批評家からは「古臭いオペレッタ」と評され、16回という非常に短い公演期間で閉幕しました。ただし、舞台美術に関しては高く評価され、トニー賞にノミネートされています。
史実と異なる点はありますか?
はい。物語を盛り上げるために、登場人物の三角関係やコメディリリーフ的なキャラクターが追加されています。また、実際には会うことのなかった太后とアナスタシア(アーニャ)が対面するシーンがあるなど、フィクションとしての脚色がなされています。
上演後に作品は変更されましたか?
はい。その後、タイトルを『A Song for Anastasia』や『The Anastasia Game』などに変更し、内容を練り直したバージョンが何度か制作されました。
References
- Rewritten Wright-Forrest Anastasia Refreshed for OCR CD Release, Playbill, Nov 24, 1998