アメリカ合衆国の多様な音楽文化を後世に伝えるため、学術的な視点から楽譜を校訂・出版する壮大なプロジェクトがあります。それがMUSA(Music of the United States of America)です。このシリーズは、単なる楽譜の収集ではなく、アメリカ音楽の歴史における重要な作品を「クリティカル・エディション(批判校訂版)」として提示することで、演奏家や研究者に正確な資料を提供することを目的としています。
MUSAの概要と運営体制
1988年にアメリカ音楽学会(American Musicological Society)によって設立されたMUSAは、現在までに41巻に及ぶ膨大なコレクションを構築しています。このプロジェクトの運営拠点となっているのは、ミシガン大学のアメリカ音楽研究所(American Music Institute)です。
出版はウィスコンシン州マディソンに拠点を置くA-R Editionsが担っており、資金面では全米人文科学基金(National Endowment for the Humanities)からの支援を受けています。創設時の編集長はリチャード・クロフォードが務め、現在はミシガン大学のマーク・クラグとイリノイ大学(アーバナ・シャンペーン校)のゲイル・マギーの2名が編集責任者を務めています。
作品選定の厳格な基準
MUSAが扱う作品は、単に有名な曲であることだけではなく、以下の3つの厳格な基準に基づいて選出されています。
- 多様性と均衡: 特定の時代やジャンルに偏ることなく、作曲家や演奏形態、時代背景においてバランスの取れた構成であること。
- 希少性と必要性: すでに他から入手可能な楽譜は避け、既存の版に不備がある場合や、新たな校訂版が不可欠であると判断された作品のみを重複して扱うこと。
- 代表性と卓越性: アメリカの多種多様な音楽史において、特に優れた芸術性を持つ作品や、歴史的な転換点を示す重要な業績であること。
主要な出版作品の例
MUSAのラインナップは、クラシックからジャズ、先住民の音楽、ポピュラー音楽まで極めて幅広いため、アメリカ音楽の「百科事典」とも言える構成になっています。例えば、アーロン・コープランドの『アパラチアの春』のオリジナル・バレエ版や、ジョン・ケージのピアノソロ、さらにはファッツ・ウォラーやアース・ハインズといったジャズ巨匠の録音に基づく書き起こし(トランスクリプション)などが含まれています。
また、フローレンス・プライスの交響曲や、ルース・クロフォードの室内楽など、現代において再評価が進んでいる作曲家の作品も丁寧にアーカイブ化されています。
| 巻数 | 作曲家・アーティスト | 作品内容・特徴 |
|---|---|---|
| MUSA 2 | アーヴィング・バーリン | 初期の歌曲集(1907–1914年) |
| MUSA 11 | (編纂) | アメリカ先住民音楽の歴史的書き起こしと編曲 |
| MUSA 12 | チャールズ・アイヴズ | 129曲の歌曲集 |
| MUSA 19 | フローレンス・プライス | 交響曲第1番および第3番 |
| MUSA 21 | ジョン・フィリップ・スーザ | 6つの行進曲 |
| MUSA 31 | アーロン・コープランド | アパラチアの春(オリジナル・バレエ版) |
Key Facts
- 設立年: 1988年
- 主導団体: アメリカ音楽学会(AMS)
- ホスト機関: ミシガン大学アメリカ音楽研究所
- 出版社: A-R Editions
- 総巻数: 41巻(現在まで)
- 目的: アメリカ音楽の多様なジャンルを網羅した学術的校訂版の作成
Frequently Asked Questions
MUSAとは具体的にどのようなプロジェクトですか?
アメリカ音楽のあらゆるジャンルや様式を網羅し、学術的な根拠に基づいた正確な楽譜(クリティカル・エディション)を出版する全41巻のシリーズプロジェクトです。
どのような基準で収録作品が選ばれていますか?
時代やジャンルのバランスが取れていること、既存の楽譜では不十分な希少性があること、そしてアメリカ音楽史において卓越した価値や代表性を持っていることが条件となります。
ジャズや口承音楽のような、楽譜のない音楽も扱っていますか?
はい。ファッツ・ウォラーやサム・モーガンの録音から書き起こしたトランスクリプションや、イギリス・アイルランド系アメリカ人の口承伝統に基づく歌曲など、録音や伝承を基にした資料化も行っています。
誰がこのプロジェクトを運営しているのですか?
アメリカ音楽学会が設立し、ミシガン大学がホストを務めています。編集責任者は現在、マーク・クラグ氏とゲイル・マギー氏が担当しています。
資金調達はどのように行われていますか?
主に全米人文科学基金(National Endowment for the Humanities)からの助成金によって運営されています。
References
- Crawford, Rich (Spring 2005). "MUSA's Early Years: The Life and Times of a National Editing Project", American Music 23(1).
- Beckwith, John (Spring 1996). "Review Essay: Music of the United States of America", American Music 14(1).
- Kearns, William. (1998-99). "MUSA: An American Monument", The American Music Research Center Journal 8/9.
- Burkholder, J. Peter (Spring 1995). "MUSA's Debut", L.S.A.M. Newsletter 24(2).