マレー家ライブラリー:19世紀英国の教養書シリーズとその出版戦略
19世紀前半の英国において、知識の普及と家庭での読書習慣を促進するために企画されたのがマレー家ライブラリー(Murray's Family Library)です。1829年から1834年にかけて、著名な出版業者であるジョン・マレー2世によって展開されたこのシリーズは、全51巻に及ぶノンフィクション作品群で構成されていました。
本シリーズの編集を担ったのはジョン・ギブソン・ロックハートであり、彼は編集者としてだけでなく、記念すべき第1巻となるナポレオンの伝記の著者としても名を連ねています。当時の出版業界では、安価に提供するために分割して販売する手法が一般的でしたが、マレーは1冊5シリングという価格設定を維持し、分割販売を行わない保守的なビジネスモデルを採用しました。これは、同時期に活動していた「有用知識普及協会(Society for the Diffusion of Useful Knowledge)」などの急進的なアプローチとは対照的な戦略でした。
Key Facts
- 出版期間: 1829年から1834年まで(ジョン・マレー2世による運営)。
- 総巻数: マレー時代に51巻、その後のテッグ時代を含めると1847年までに計80巻に拡大。
- 価格設定: 1冊5シリングで販売され、分割販売を避けた保守的な手法を採った。
- 主要編集者: ジョン・ギブソン・ロックハートが担当。
- 内容: 歴史、伝記、自然科学など多岐にわたるノンフィクション作品。
知的好奇心を満たす多彩なラインナップ
マレー家ライブラリーの最大の特徴は、その分野の広範さにあります。歴史的な人物の伝記から、自然史、芸術論、さらには魔術や魔女に関する考察まで、当時の知識層が関心を寄せるテーマが網羅されていました。
例えば、アレクサンダー大王やネルソン提督、アイザック・ニュートンといった偉人の生涯を辿る伝記が多く含まれていました。また、ウォルター・スコットによる心霊現象や魔術に関する書簡集や、ワシントン・アーヴィングによるコロンブスの航海記など、文学的価値の高い作品も組み込まれていました。さらに、昆虫の自然史やインド史など、科学的・地理的な知見を広める著作も重視されていました。
出版物の構成例
以下に、シリーズ初期から中期にかけて出版された代表的な作品をまとめます。
| 巻数 | 刊行年 | 著者 | タイトル(日本語訳) |
|---|---|---|---|
| I | 1829 | J.G. ロックハート | ナポレオン・ブォナパルトの生涯 |
| III | 1829 | ジョン・ウィリアムズ | アレクサンダー大王の生涯と事績 |
| V-IX | 1829- | ヘンリー・ハート・ミルマン | ユダヤ人の歴史 |
| XVI | 1830 | ウォルター・スコット | 心霊術と魔女に関する書簡 |
| XXIV | 1831 | デヴィッド・ブリュースター | サー・アイザック・ニュートンの生涯 |
| XXV | 1831 | ジョン・バロウ | HMSバウンティ号の反乱と海賊行為の歴史 |
運営体制の移行と拡大
1834年、ジョン・マレーは本シリーズの権利をトーマス・テッグに売却しました。テッグの管理下に入った後もライブラリーの拡充は続き、1847年までには合計80巻にまで到達しました。
テッグ時代には、ダニエル・デフォーによるペストの歴史や、ジョージ・ワシントンの生涯、さらにはイタリアの古典巡礼記など、さらに多様な視点を持つ作品が追加されました。これにより、当初のコンセプトを維持しつつも、より広範な読者層へアプローチする教養叢書としての地位を確立しました。
Frequently Asked Questions
マレー家ライブラリーとはどのような本でしたか?
19世紀の英国で出版されたノンフィクションの教養書シリーズです。歴史、伝記、科学など、家庭で読める質の高い知識を提供することを目的としていました。
当時の他の出版シリーズと何が違いましたか?
多くの競合シリーズが安価な分割販売(パート出版)を採用していたのに対し、マレーは1冊5シリングという価格で完結した形で販売する、より保守的なビジネスモデルを採用していました。
どのような著者が参加していましたか?
編集者のジョン・ギブソン・ロックハートをはじめ、ウォルター・スコットやワシントン・アーヴィングなど、当時の著名な作家や学者が執筆に携わっていました。
シリーズはいつまで続いたのですか?
ジョン・マレーによる運営は1834年まででしたが、その後トーマス・テッグに引き継がれ、1847年までに全80巻まで増刊されました。
どのようなジャンルの本が含まれていましたか?
ナポレオンやニュートンの伝記、ユダヤ史やインド史などの歴史書、昆虫学などの自然科学、さらには魔術や伝承に関する文化論まで、非常に幅広いジャンルをカバーしていました。