私たちの身の回りや産業プロセスの多くには、異なる状態の物質が同時に流れる多相流(Multiphase Flow)という現象が深く関わっています。例えば、ポンプ内部で発生するキャビテーションや、紙の製造、プラスチック成形、さらには河川の土砂輸送といった自然現象に至るまで、多相流の理解は不可欠です。
多相流とは、2つ以上の熱力学的相(気体、液体、固体)が同時に流動する状態を指します。これらは単一の化学成分(水と水蒸気など)で構成される場合もあれば、異なる成分(油と水など)が混在する場合もあります。空間的に連続して存在する相を連続相、孤立した粒子や気泡として存在する相を分散相と呼び、その形態によって「分散流」と「分離流」の2つの大きなトポロジーに分類されます。

Key Facts
- 多相流の定義: 2つ以上の相(気・液・固)が同時に流れる現象。
- 主要な分類: 粒子や気泡が混ざる「分散流」と、界面で分かれて流れる「分離流」がある。
- 産業的重要性: 石油・ガス開発における油・水・ガスの同時輸送や、化学プラントのプロセス設計に不可欠。
- 解析手法: オイラー・ラグランジュ法やオイラー・オイラー法などの数値モデルを用いて解析される。
- 決定要因: レイノルズ数やウェーバー数などの無次元数が、流動の状態(流動様式)を決定する。
多相流の歴史的展開
多相流の研究は、流体力学と熱力学の発展と共に歩んできました。その原点は紀元前250年頃のアルキメデスによる浮力の法則(アルキメデスの原理)にまで遡ります。この原理は、現代の多相流モデリングにおいても基礎的な役割を果たしています。
20世紀半ばになると、化学・プロセス産業向けに核沸騰の研究が進み、1949年にはLockhartとMartinelliが水平分離二相流における摩擦圧力損失のモデルを提示しました。その後、1950年代から60年代にかけて航空宇宙や原子力分野での需要が高まり、ソ連のTeletovや米国のBakerらによって、より体系的な二相流や垂直流の流動様式に関する研究が進展しました。
1970年代以降は、世界経済の石油依存度の高まりに伴い、石油産業における多相流研究が加速しました。1990年代には計算機能力の向上により、従来の1次元モデルから複雑な3次元モデルへの移行が可能となり、さらに北海油田などの生産量低下への対策として、各相の流量を個別に測定する多相流計(MFM)の開発が進められました。
流動様式(フローレジーム)の分類
多相流の挙動は、流速や圧力、管径などの条件によって異なるパターンを示します。これを流動様式(Flow Regime)と呼びます。
気液二相流(パイプライン流)
気体と液体が混在して流れる場合、以下のような代表的な様式が見られます。
- 気泡流(Bubble Flow): 液相が支配的で、小さな気泡が分散して流れる状態。
- プラグ流(Plug Flow): 気泡が合体し、管の断面をほぼ塞ぐ弾丸状の気泡(プラグ)が断続的に流れる状態。
- スラグ流(Slug Flow): 気泡を含む液体の「スラグ」と大きな気泡が交互に現れる不安定な流動。
- 環状流(Annular Flow): 壁面に液膜が形成され、中心部を気体が高速で流れる状態。
- ミスト流(Mist Flow): 極めて高いガス流速により、液滴が気相中に分散して運ばれる状態。

垂直流およびその他の流動
垂直方向の流れでは、スラグ流が崩壊して液体が振動的に動くチャーン流(Churn Flow)や、環状流の中で液滴が合体して筋状になるウィスピー環状流(Wispy Annular Flow)などが観察されます。

固液流および気固流
固体粒子を含む流れでは、液体中に粒子が分散する「スラリー流(液固流)」が一般的で、石炭や鉱石の輸送に利用されます。また、気体中に粒子が流れる「気固流」では、粒子が均一に浮遊する懸濁流や、管底に粒子が溜まる移動床などの様式が存在します。
物理的特性とモデリング
多相流の挙動を予測するためには、質量流量や体積流量、そして各相が占める割合を示す体積分率(Volume Fraction)などのパラメータが重要になります。また、仮想的に単一相が全断面積を占めると仮定した「見かけ速度(Superficial Velocity)」という概念も解析に用いられます。
解析モデルには、流体を連続体として扱い粒子を個別に追跡する「オイラー・ラグランジュ法」や、全相を流体として扱う「オイラー・オイラー法」、さらに各相の速度が等しいと仮定する簡略的な「均質流モデル」などがあります。
支配的な力と無次元数
流体の動きは、圧力、慣性、粘性、浮力、表面張力の5つの力によって決定されます。これらの力の比率を示す無次元数は、流動状態の判定に不可欠です。
| 無次元数 | 定義(力の比) | 主な役割・意味 |
|---|---|---|
| レイノルズ数 (Re) | 慣性力 / 粘性力 | 層流か乱流かを判定(Re < 2300で層流傾向) |
| オイラー数 (Eu) | 圧力 / 慣性力 | エネルギー損失の特性化(管内流やオリフィス流) |
| フルード数 (Fr) | 慣性力 / 重力 | 開水路や海洋波などの重力支配的な流れの解析 |
| エオトボス数 (Eo) | 浮力 / 表面張力 | 分散相の液滴サイズの決定に関与 |
| ウェーバー数 (We) | 慣性力 / 表面張力 | 流動様式マップの決定(We < 1で気泡/スラグ流) |
特にウェーバー数は、微小重力環境下での流動判定に重要であり、We=20を境にフロッシー・スラグ環状流から完全な環状流へと遷移します。また、岩石の孔隙内などの微細流路では、粘性力と表面張力の比を示すキャピラリー数(Capillary Number)が、石油回収率の向上において重要な指標となります。
![A vortex street around a cylinder which can occur in multiphase flow. This occurs around a Reynolds number between 40 and 1000 independent of cylinder size, fluid speed and fluid.[2]](/images/a9/47/a947219ce5acff9e3cf90915a0f92e3539dce0259a17cc1dd1764e849b3843fd.gif)
Frequently Asked Questions
多相流と二相流の違いは何ですか?
二相流は多相流の最も一般的なケースであり、気体と液体、あるいは液体と固体など、2つの相のみが流動する状態を指します。多相流はより広義な概念で、三相流(例:油・水・ガスの混合流)や四相流(例:凍結結晶化プロセス)など、3つ以上の相が含まれる場合も含みます。
「連続相」と「分散相」とは具体的にどのような状態ですか?
連続相は、空間的に途切れることなく繋がって存在する相(ベースとなる流体)のことです。一方、分散相は、連続相の中に気泡、液滴、または固体粒子として孤立して点在している相を指します。
レイノルズ数が高いと流動にどのような影響がありますか?
レイノルズ数が高い場合、流体内の慣性力が粘性力に打ち勝つため、流れは不規則で激しい「乱流」状態になります。逆にレイノルズ数が低い場合は、流体が層状に整然と流れる「層流」となります。
石油産業で多相流の理解がなぜ重要なのですか?
油田から抽出される原油は、通常、原油(液体)、水(液体)、天然ガス(気体)が混ざり合った三相流としてパイプラインを流れます。これらの流動様式を正確に把握しないと、圧力損失の増大や設備の振動、輸送効率の低下を招くため、精密なモデリングと計測が不可欠です。
ウェーバー数はどのような場面で利用されますか?
主に表面張力が支配的な現象の解析に利用されます。例えば、液滴のサイズ決定や、微小重力環境における気泡・スラグ流から環状流への遷移判定など、流動様式マップを作成する際の重要な指標となります。
References
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![A vortex street around a cylinder which can occur in multiphase flow. This occurs around a Reynolds number between 40 and 1000 independent of cylinder size, fluid speed and fluid.[2]](/images/a9/47/a947219ce5acff9e3cf90915a0f92e3539dce0259a17cc1dd1764e849b3843fd.gif)