産業用コンピュータシステムの発展において、重要な役割を果たしたのがMultibusです。Intel社によって開発されたこのバス規格は、後にIEEE 796として標準化され、多くの産業機器やワークステーションの基盤となりました。その堅牢な設計と詳細なドキュメントにより、世界中のメーカーが互換性のあるハードウェアを開発し、柔軟なシステム構築を可能にした時代がありました。
Key Facts
- 開発元:Intel Corporation(後にRadiSys、U.S. Technologiesへと承継)
- 標準規格:IEEE 796(Multibus I)およびIEEE 1296(Multibus II)
- 特徴:高い互換性と拡張性を持ち、CPU、メモリ、周辺機器を自由に組み合わせ可能
- 主な採用例:Sun-1/Sun-2ワークステーション、ロンドン地下鉄の列車監視システム
- 物理形状:大型のフォームファクタを採用し、複雑な回路設計に対応
Multibusのアーキテクチャと設計思想
Multibusは、異なる転送速度を持つデバイスを混在させながら最大スループットを維持できる非同期バスとして設計されました。アドレスラインを20本備えており、最大1MBのメモリおよび1MBのI/Oロケーションへのアクセスが可能です。ただし、多くのI/Oデバイスは実際には最初の64KBのみをデコードして使用していました。
また、複数のプロセッサやDMA(ダイレクトメモリアクセス)デバイスがバスを共有できるマルチマスター機能をサポートしていたため、高度な並列処理や効率的なデータ転送を実現できました。
物理的な仕様としては、幅300mm(12インチ)、奥行き171mm(6.75インチ)の回路基板が標準的であり、前面には取り外し用のレバーが装備されていました。コネクタ構成は、規格で定義された広範な「P1バス」と、ユーザーが独自に利用できるプライベートな「P2バス」の2種類で構成されていました。
世代別の規格:Multibus I と Multibus II
Multibus I (IEEE 796)
1974年にIntelからリリースされた初代規格です。コネクタには、現代のISAカードのように基板の端子を直接差し込むエッジコネクタ方式が採用されていました。現在は旧式(オブソリート)と見なされていますが、一部の専門メーカーによって保守製品が提供されています。
この規格は、機能記述や電気的仕様を定めたIEC 796-1、エッジコネクタの機械的仕様を定めたIEC 796-2、そしてピン&ソケット方式のEurocard構成を定めたIEC 796-3の3つのパートに分かれて詳細に定義されていました。

Multibus II (IEEE 1296)
1987年および1994年にリリースされた後継規格で、32ビット/10MHzの動作により最大40MB/sの転送速度を実現しました。物理サイズは3Uまたは6U(奥行き220mm)となり、VMEbus(奥行き160mm)よりも大型な設計となっています。DIN 41612タイプCのバックプレーンコネクタと高速TTLゲートを採用しているのが特徴です。
Multibus IIは、現在でも「成熟した技術」として一部のシステムで稼働していますが、新規設計への採用は推奨されていません。

産業界への影響と具体的な活用事例
Multibusの最大の強みは、商用オフザシェルフ(COTS)ハードウェアを用いて複雑なシステムを構築できた点にあります。1982年時点で100社以上のメーカーがボードや筐体を製造しており、企業は自社独自の専用ボードを開発し、それを他社製の汎用ハードウェアと統合することで、迅速なイノベーションを実現できました。
代表的な例がSun MicrosystemsのSun-1およびSun-2ワークステーションです。Sun社はCPUやメモリ、SCSI、ビデオ表示ボードを自社設計し、そこに3ComのイーサネットボードやXylogicsのディスクコントローラ、Cipricoのテープコントローラなどを組み合わせることで、ワークステーションやファイルサーバーを構成しました。他にもHP/ApolloやSilicon Graphicsといったベンダーがこの設計思想を採用していました。
また、極めて高い信頼性が求められるインフラ分野でも活用されました。ロンドン地下鉄セントラル線の列車自動監視(ATS)システムでは、Westinghouse Rail Systems社が提供したMultibus IIハードウェアとiRMX OSが採用されています。1990年代半ばに導入されたこのシステムは、二重冗長化された構成で運用されており、2011年時点でも現役で稼働していました。
Multibus規格のまとめ
Multibusファミリーには、メインのシステムバス以外にも、I/O拡張用のiSBX(IEEE P959)や、ローカルバス拡張のiLBX、マルチチャネルI/Oバスなどが存在し、用途に応じた拡張性を確保していました。
| 項目 | Multibus I (IEEE 796) | Multibus II (IEEE 1296) |
|---|---|---|
| 登場時期 | 1974年 | 1987年 / 1994年 |
| データ幅 | 8ビット / 16ビット | 32ビット |
| 最大転送速度 | (非同期) | 40 Mbyte/s (10 MHz) |
| コネクタ方式 | エッジコネクタ / Eurocard | DIN 41612 Type C |
| 現在のステータス | 旧式 (Obsolete) | 成熟 (Mature) |
Frequently Asked Questions
MultibusとVMEbusの主な違いは何ですか?
物理的なサイズが異なります。Multibus IIのカード奥行きは220mmであるのに対し、VMEbus(Eurocard)は160mmとなっており、Multibusの方が大型な設計です。
Multibusはどのような業界で主に使われていましたか?
主に産業用制御システムや初期のハイエンドワークステーションで利用されました。具体例としては、鉄道の運行管理システムや、Sun Microsystemsなどの初期ワークステーションが挙げられます。
Multibus Iのメモリ制限はどのくらいでしたか?
20本のアドレスラインを備えていたため、最大1MBのメモリおよび1MBのI/Oロケーションをアドレス指定することが可能でした。
現在でもMultibusの製品は入手可能ですか?
基本的には旧式となっており一般的ではありませんが、Northwest Technical社などの一部のメーカーが、レガシーシステムの維持を目的とした「End of Life」製品を提供しています。
Multibus IIは現在も推奨される設計規格ですか?
いいえ。技術的に成熟しており、既存システムの維持には適していますが、新しいハードウェア設計に採用することは推奨されていません。
References
- IEEE Standard Microcomputer System Bus. . December 1983. pp. 1–46. :10.1109/IEEESTD.1983.81701. .
- "FTP link" (PDF). reports.stanford.edu ().[dead ftp link] (To view documents see )The SUN Workstation Architecture, Andreas Bechtolsheim, Forest Baskett, Vaughan Pratt, Stanford University Computer systems Laboratory Technical Report No. 229, March 1982
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- AFIPS '83 Proceedings of the May 16-19, 1983, national computer conference, Pages 497-501. ACM digital library
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